「BLUE GIANT」の大ファン、EXILE・白濱亜嵐&佐藤大樹。厳しい世界でステージに立ち続ける彼らが、世界一のジャズプレーヤーを目指す主人公から教わったこと

ジャズに魅せられた少年・宮本大(ミヤモトダイ)が、世界一のジャズプレーヤーを目指すさまを描く「BLUE GIANT」。2013年にビッグコミック(小学館)で連載開始し、単行本は全10巻が刊行されている。2016年から2020年にかけてはヨーロッパ編「BLUE GIANT SUPREME」全11巻が発表され、現在はアメリカ編「BLUE GIANT EXPLORER」が連載中。2月17日には、山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音がメインキャラクターに声をあてるアニメ映画も公開される。

最新作「BLUE GIANT EXPLORER」の単行本8巻発売と、アニメ映画「BLUE GIANT」の公開を記念し、コミックナタリーでは同作の大ファンというEXILEの白濱亜嵐と佐藤大樹にインタビューを実施。主人公・大と、ステージに立つ人間という共通点を持つ彼らは「BLUE GIANT」から何を感じたのか。2人と「HiGH&LOW」シリーズで共演する山田が主人公・宮本大役を務めるアニメ映画についても期待を語ってもらった。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 斎藤大嗣

「BLUE GIANT」は、ダントツでマンガから音が出ている(白濱)

──おふたりはどんなきっかけで「BLUE GIANT」を知ったんですか?

白濱亜嵐 僕は、例えば「BECK」とか、音楽を題材にしたマンガを読むのがすごく好きで。そういう作品をいろいろ探している中で「BLUE GIANT」に出会い、「あ、面白そう」と思って読み始めました。

佐藤大樹 僕は2019年に「4月の君、スピカ。」という、小学館から出ているマンガの実写映画に出演させていただいていて。原作の掲載誌(Sho-Comi)の当時の編集長が「佐藤さんにぴったりな作品がある」と教えてくれたのが「BLUE GIANT」なんです。そのときから、もし実写化するなら僕が主人公の(宮本)大を演じたいと……。

白濱 もう(山田)裕貴くんが演じちゃってるじゃん。

佐藤 いや、そうなんだけど、今回は“アニメ映画化”だから。

白濱 ああ、“実写化”するならってことね。

佐藤 そういうこと。ちなみに僕は当時の「BLUE GIANT」の担当編集の方ともお会いさせてもらったんですよ。ほら、単行本の巻末のオマケマンガに出てくる……。

白濱 あの兜を被ってる編集さん? すげえ!

佐藤 そんなきっかけで読んでみて、どハマりしましたね。例えば大は最初から才能に恵まれていたというよりは、ひたすら練習に練習を重ねてうまくなっていく。そこに大の負けん気の強さとか根性みたいなものを感じるし、自分がEXILEのオーディションを受けたときの境遇ともちょっと似ていると思いながら読み進めていきました。新たに加わった仲間も1人ひとり個性的で“推し”を決められないぐらいだし、今回アニメ映画化される日本編の終盤にも「えっ! マジで!?」という展開があったりして、一気に読んでしまいました。

左から白濱亜嵐、佐藤大樹。

左から白濱亜嵐、佐藤大樹。

白濱 僕は自分でも音楽を作るんですけど、ジャズに関してはほとんど何も知らない状態で「BLUE GIANT」と出会ったこともあり、ある種、ジャズの教材的な感覚もあったというか。作中に出てくる曲も聴きながら読み進めていったので、ジャズの歴史とか面白さを勉強させてもらうという側面もありました。

──「BLUE GIANT」とほかの音楽マンガとで、何か違いはありました?

白濱 「BLUE GIANT」は、ダントツでマンガから音が出ている感じがしますね。サックスにしろピアノにしろドラムにしろ、音の強弱も含めて、楽器が鳴っているのが絵で伝わってくる。すごい表現力だなって、いつも驚かされます。あと、雪祈(ユキノリ)がピアノを弾いているシーンとかで音符が描き込まれていますけど、あれもちゃんとメロディになっているというか、たぶん譜面を読める人なら弾けるんですよ。だから描くのがめちゃくちゃ大変そうというか、どうやって描いているんだろうと思っちゃいますね。

ジャズに魅せられた主人公・大。

ジャズに魅せられた主人公・大。

4巻までの大とまったく同じ行動をとっていた(佐藤)

──先ほど佐藤さんは、大の練習ぶりとご自身の境遇を重ねていましたが、具体的には?

佐藤 亜嵐くんもそうだと思うんですが、僕がEXPG STUDIO(LDHが開校したダンススクール)に入ったとき、周りはみんな小さい頃からダンスをやっていた人ばっかりだったんです。「BLUE GIANT」でいったら、ピアノ歴14年の雪祈がゴロゴロいる感じ。そんな人たちと同じ土俵に立ってオーディションを受けなきゃいけないとなったら、みんなが寝ている間とかも自分は練習するしかないと思いました。当時、僕は高校生だったんですが、学校とバイトの時間以外はレッスンで習ったことをひたすら復習していたので、まさに単行本の4巻ぐらいまでの大とまったく同じ行動をとっていたんです。

大は世界一のジャズプレーヤーになるため、テナーサックスの練習を欠かさない。
大は世界一のジャズプレーヤーになるため、テナーサックスの練習を欠かさない。

大は世界一のジャズプレーヤーになるため、テナーサックスの練習を欠かさない。

白濱 大樹が言うように僕らがいるのは努力しないと勝てない世界だし、「BLUE GIANT」からもそういう世界の厳しさはひしひしと伝わってきますね。例えば大と雪祈のバンドにドラマーとして加入する玉田はまったくのドラム未経験者で、子供向けのドラム教室に通い始めたりして一生懸命練習するんだけど、実力が伴わないまま初めてのステージに立つことになる。それはステージに立つ人間であれば誰しもが経験することだと思うし、僕自身、自分に自信がないままステージに立つ怖さをスクールで散々味わってきたので、ものすごく共感できます。

白濱亜嵐

白濱亜嵐

佐藤 玉田は最高だよね。4歳からピアノを弾いている雪祈と、高校3年間、1日も休まずサックスを吹き続けてきた大と一緒にやるんですもん。

白濱 うん。人より遅れていてもチャレンジすることは大事というか、チャレンジすることに早いも遅いもないというのに気付かされましたね。経験者の大と雪祈についていくのは本当に難しいと思うんですけど、2人がいたから玉田もあそこまで伸びたんだろうなって。

──僕も東京編の影のMVPは玉田だと思います。

白濱 そうですよね。たまたまバーで大たちのバンドの初ライブを観て、以降、毎回ライブに通っているお客さんがいるじゃないですか。そのお客さんが玉田に「ボクは君のドラムを、成長する君のドラムを聴きに来ているんだ」と言うシーンもめちゃくちゃに刺さりました。

ある日のライブ後、客に囲まれている大と雪祈を遠くからポツンと見ていた玉田。そんなとき、1人の老人にかけられた言葉で玉田はそっと涙を流す。
ある日のライブ後、客に囲まれている大と雪祈を遠くからポツンと見ていた玉田。そんなとき、1人の老人にかけられた言葉で玉田はそっと涙を流す。

ある日のライブ後、客に囲まれている大と雪祈を遠くからポツンと見ていた玉田。そんなとき、1人の老人にかけられた言葉で玉田はそっと涙を流す。

佐藤 あれは玉田にとっても救いだったよね。

白濱 オーディション番組とかで、出演者の成長を追いかけているうちに応援したくなっちゃう感じに似ているのかも。僕にしたって、デビューした15、16歳ぐらいの頃からずっと見守ってくださっているファンの方もいるので、そういう存在はとても励みになります。

佐藤 あと「BLUE GIANT」の何が好きかって、誰も後ろ向きじゃないところです。自分だったら絶対に凹むようなことを言われても、まったく凹まないか、凹んだとしてもすぐ跳ね返す。だから読んでいる僕も「こいつ、ひどいこと言うなあ。でも、そこまで言ってくれるなんて、いい人だな」という前向きなマインドになれるというか、自分にはなかった発想を与えてくれた作品でもありますね。

佐藤大樹

佐藤大樹

自分をさらけ出して、音とつながらなきゃソロとは言えない(白濱)

──白濱さんがおっしゃったように、おふたりはパフォーマーとしてステージに立つ人間という点で大たちと共通しています。その観点から「BLUE GIANT」が役に立ったようなことなどはありますか?

佐藤 役に立ったことしかないですね。特に登場人物のセリフがめちゃくちゃ刺さるというか「これ、教訓にしよう!」と思うことがたくさんあって……ちょっと待ってくださいね(持参したノートのページをめくりながら)。

白濱 めちゃくちゃメモしてるじゃない。

佐藤大樹が取材現場に持ってきていたノート。丁寧な字で、計4ページも書いてきていた。

佐藤大樹が取材現場に持ってきていたノート。丁寧な字で、計4ページも書いてきていた。

佐藤 いや、僕はすぐ忘れちゃうから、あらすじとか好きなシーンを書いてきたんですよ。

白濱 えらいな。僕は、雪祈が憧れているライブハウス・So Blueの支配人の平(タイラ)さんが、雪祈のピアノソロに対して言った「君のピアノは、つまらない」「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すのがソロだろ」というセリフに衝撃を受けました。

佐藤 あー!

白濱 僕もダンスのソロはそんなに得意じゃなくて、頭であれこれ考えて結局失敗することも多かったし、自分のことでいっぱいいっぱいになりすぎて音が聞こえなくなる瞬間もあったんです。音が聞こえなくなるって最悪で、平さんの言う通り何も考えずに自分をさらけ出して、音に身を委ねて、音とつながらなきゃソロとは言えない。それを学ばせてもらいましたね。

──ダンスのソロにも即興的な要素があると。

白濱 もちろん決まった振り付けはあるんですけど、ソロはけっこうアドリブですね。

白濱亜嵐

白濱亜嵐

佐藤 僕もまったく同じですね。その瞬間の自分を全部ぶつけるというのは、すごく大事なことだと思わされました。僕がグッときたのは、雪祈のことを評価している川喜田さんというベテランギタリストの「振り返らないんだよ、勝つ奴は。勝ち続ける奴は絶対に過去を振り返らないの。絶対に」というセリフで。僕はどうしても過去の失敗とかを引きずってネガティブな気持ちになったりしちゃうんですけど、それじゃいけないんだなって。

白濱 そうだね。

佐藤 単行本の1巻で、高校生の大が地元・仙台のジャズバーで初めてライブをしたとき、バーの常連のおじさんから「うるさいんだよ!! 君は!!」「こっちは金払って酒飲みにきてんだよっ」と怒鳴られるじゃないですか。大はその場でステージから降ろされちゃうんだけど、帰り道で寄った公園で顔を洗って「へでもねえや」と。このセリフもめちゃくちゃ好きですね。

佐藤大樹

佐藤大樹

白濱 「へでもねえや」はけっこうキーワードというか、これを言うことで逆境を乗り越えるみたいな。

佐藤 そうそう。東京編のラスト、大が日本を離れてヨーロッパに旅立つときも「へでもねえや」と言って飛行機に乗り込む。あと、大は高校を卒業して東京に行く前に、自分に「うるさいんだよ!!」と言ったおじさんをもう一度バーに呼んで「一曲だけ!! 一曲、聴いてってください」「オジさんの、ド肝を抜きますから」とお願いするんですよね。で、演奏を聴いたおじさんがボソッと何かつぶやいて、大が聞き返すと「『ギャフン』っつったんだべよ。ギャフン」と言って帰っていく。素直に「ギャフン」と言えるおじさんもカッコいいし、何より大は本当に負けない、強いなって思います。