月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中の「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」は、ゆるふわ悪魔のベルゼブブと近侍・ミュリンとの不器用な恋模様を中心に、個性豊かな悪魔たちの日常を描いたラブコメディ。10月からのアニメ放送に先がけて、コミックナタリーでは全3回にわたる特集を実施する。第1回は原作者であるmatobaに本作が誕生した経緯から、今作が志す“おやつマンガ”としてのこだわり、マンガ家としてのルーツ、そしてアニメに寄せる期待までを尋ねた。
取材・文 / 柳川春香
モフモフとかわいい女の子のセットは間違いなくかわいい
──まずは「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」(以下「ベルまま。」)アニメ化おめでとうございます。お話をもらったときの率直な感想はいかがでしたか?
すごく光栄ですね。驚きはしたんですけど、やっぱりマンガを描いてる人間として、アニメ化というのは1つの目標というか憧れではあったので、機会をいただけたことはとてもうれしかったです。
──そもそも「ベルまま。」が始まったとき、matoba先生は前作「魔女の心臓」を連載中でしたよね。「魔女の心臓」はかなりシリアスなダークファンタジー作品でしたが、正反対とも言える「ベルまま。」はどのようにスタートしたんでしょうか。
「魔女の心臓」の連載が終わる1年ちょっと前、完結が見えてきた時点で次の連載の打ち合わせを始めていて。かなりたくさんの案を出したんですけど、その中でジャック・カゾットの「悪魔の恋」を元ネタにした、一番ライトなラブコメっぽいプロット案を担当さんが気に入ってくださり、それが「ベルまま。」の元になったんです。最初は「ベルまま。」とは別の連載もやる予定だったんですが、結局「魔女の心臓」が終わる前に「ベルまま。」を始めることになりまして。始めたらアンケートでも結構好評だったので、まずは「ベルまま。」に集中したほうがいいんじゃないか、という話になりました。
──それが今では単行本7巻まで続く作品になったんですね。ちなみに、最初に出した連載案はほかにどのようなものがあったんですか?
かなりいろいろ出しました。私はあまり描きたいジャンルにこだわりがなくて、自分が描いて面白くなりそうなものを描きたい、というタイプなので。でも、人が死ぬタイプの話が多かったと思います(笑)。コメディは「ベルまま。」の元になった案だけでしたね。
──ではファンタジーではなく、現代が舞台のものもあったり?
ありました。「ベルまま。」も最初は人間界と魔界があって、人間界をメインの舞台にするつもりだったんですよ。でもそうすると、悪魔が人間界にどう馴染んでいくかとか、人間界と魔界のギャップの面白さを描く話になってしまいがちで。もっと乙女チックな、女の子の恋愛感情をメインに描こうと思っていたので、魔界だけのお話に変更したんです。
──単行本のおまけマンガでは悪魔の細かい設定についても説明されていますが、悪魔や魔界といったモチーフは前からお好きだったんですか?
天使や悪魔というモチーフは、いろいろな本や映画に触れている中でちょこちょこ知識として入ってくるんですが……とはいえ特別に詳しいというわけではなくて、今も勉強しながら描いてる状態ですね。「ベルまま。」を描くにあたって、かなり資料を買い足しました。
──キャラクターにもそれぞれ元となる悪魔がいますが、本来の悪魔の設定は、どの程度キャラクターに反映しているんでしょうか?
文献に詳しく書かれている悪魔と、書かれていない悪魔がいるんですよ。詳細がわかっている悪魔に関しては、できるだけそれを生かしたり、逆に正反対の性格付けにしてみたり、意識してキャラクターに反映させるようにしてますね。名前しかわからない悪魔は、完全に私の自由にさせてもらっています(笑)。
──では、ベルゼブブの“大悪魔でありながらゆるふわ”というキャラクター像はどのように作られていったんでしょう。
まず、並行して連載していた「魔女の心臓」の主人公が冷静沈着でクールなタイプの女の子だったので、ベルにはその子では描けなかった豊かな表情をさせたいと思っていました。あとは大悪魔なので落ち着いた上品なキャラクター、というのは決めていたんですが、もうひとつ目立った特徴をプラスしたいな、と思ったときに、モフモフしたものとかわいい女の子のセットは間違いなくかわいいだろう!と。安直にくっつけました(笑)。
──間違いないですね(笑)。では次に作ったのは相手役のミュリンでしょうか?
いえ、当初の設定では、悪魔のベルが人間界の男の子に恋をするというお話だったんです。だからベルの相手役には人間の男の子が別にいて、ミュリンは魔界でちょこちょこベルに小言を言うだけのキャラだったんですけど、人間界を舞台から外したときに、魔界で一番ベルに近しい立場がミュリンだったんですよね。
──それでミュリンが昇格したわけなんですね。2人のほかにも「ベルまま。」には個性的な悪魔がたくさん出てきますが、先生が特に気に入っているキャラクターなどはいますか?
まんべんなくみんなかわいいんですけど……カミオさんですかね。
──えっ、ちょっと意外な答えでした(笑)。カミオはマスコットのような鳥の姿から、執事風のおじさまの姿に変化できるキャラですが……。
私、おじさんが好きなんですよね(笑)。鳥の姿もかわいいと思ってますよ! あとミュリンのお母さんがなんとなく気に入っています。あんまり出てこないキャラですみません(笑)。
女子の肉感は控えめに、ヘルシーに見えるように描く
──キャラクターといえば、ベルゼブブやベルフェゴールをはじめとする女の子たちのかわいさは「ベルまま。」の大きな魅力だと思います。表情もそうですが、肌の柔らかそうな感じまで絵から伝わってくるというか。
ありがとうございます! そこは「ベルまま。」としてというより、私自身が女の子の身体を描くのが好きなので、こだわって描いているんです。私は何も考えずに描くともっと男性向けの表現になりがちなので、編集さんにストッパーになってもらってるんですよ。女子の肉感みたいなものを描くのが好きなんですが、あんまり生々しく描いてしまうと、作品としてはズレが出てきてしまうので。控えめに、ヘルシーに見えるように調整しながら描いています。
──そうなんですか。では、もし誰にも見せない前提でベルを描くとしたら、もっとハレンチなベルになるんでしょうか……?
それも描けると思います(笑)。
──ちょっと見てみたいです(笑)。ちなみに、ご自身で「このシーンのベルがかわいい!」と思うエピソードはありますか?
ちょっとした仕草を描いた回が好きですね。寝ているベルの髪をミュリンが触って、お互いドキドキしちゃったりとか、手をつなぎたいのにつなげない、とか。「つなげよ!」って思います(笑)。あと、ベルの靴のヒールが折れちゃう話は気に入ってますね。
──ヒールを履いているほうがミュリンと近づけるから、というベルの乙女心が詰まったエピソードですね。あれにはキュンとしました。かわいいといえば女の子だけでなく、洋服、小物、お菓子などのアイテムのかわいさにも、こだわりを感じます。
元々そういうものが好きで、学生の頃はアンティークっぽい小物を集めるのが趣味だったりもしたので、その蓄積というか、好きだったものをそのまま反映させている感じです。かわいい小物は読者さんも喜んでくれるので、こちらも描いていて楽しいですね。
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悲しい思いをしたことがある子も、最後はみんなハッピーに
- アニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」
- 2018年10月放送開始
- ストーリー
-
数十万の悪魔を統べる万魔殿(パンデモニウム)の主・大悪魔ベルゼブブ。その近侍として仕えることになった新人職員・ミュリンは知的でクールな彼女に憧れていたが、ベルゼブブの実態は、モフモフ大好きゆるふわ少女だった!?
不器用ながら徐々に距離を縮めていくベルとミュリン、そして2人を取り巻くこれまた不器用でユニークな悪魔たち。このお話は、悪魔たちが“ある気持ち”に名前をつけるまでのお話……かもしれない。 - スタッフ
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原作:matoba(スクウェア・エニックス 月刊「少年ガンガン」連載)
監督:和ト湊
シリーズ構成・脚本:冨田頼子
キャラクターデザイン:住本悦子
音楽:分島花音、千葉"naotyu-"直樹
音響監督:本山哲
アニメーション制作:ライデンフィルム
製作:「ベルまま。」製作委員会
- キャスト
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ベルゼブブ:大西沙織
ミュリン:安田陸矢
ほか
©matoba/SQUARE ENIX
©matoba/SQUARE ENIX・「ベルまま。」製作委員会
- matoba
「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。⑦」 - 発売中 / スクウェア・エニックス
- matoba(マトバ)
- 月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)の月例マンガ賞・佳作受賞「からおけのひ」でデビュー。連載作品は「魔女の心臓」ほか。
2018年11月6日更新