1991年公開のディズニー・アニメーション「美女と野獣」がこのたび、実写映画化された。美しく聡明なヒロインのベルをエマ・ワトソンが、魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまった王子をダン・スティーヴンスが演じ、4月21日に全国公開される。
これを記念し、ナタリーでは音楽、コミック、映画、ステージとジャンルを横断して全4回にわたる特集を実施。その第1弾としてコミックナタリーでは、「いつかティファニーで朝食を」や「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」で多くの女性たちの心を掴んできたマキヒロチに登場してもらった。
取材・文 / 西村萌
食わず嫌いもよくないなと思って
──試写会ではドレスコードの“ベルイエロー”を取り入れてくださったそうで。
はい、ネイルを黄色にしていきました。でも実は正直、この映画って自分で劇場に行って観るジャンルではなかったんです。だけど今回お話をいただいて、まあ映画は好きだし、食わず嫌いもよくないなと思って(笑)、観させていただいて。
──率直にどう思われましたか?
思ってたよりずっと面白かったです。大人も楽しめるポイントがたくさんあったなあと。例えばポット夫人の顔がヘンリー・ダーガーの絵みたいな、ちょっとアンティークっぽい顔になってるんですよね。ディテールにこだわりを感じて、それを1つひとつ見ていると退屈しなくって。
──お城の使用人たちのビジュアルが、アニメーションより大人っぽい感じでしたね。
あと何より、あざとい感じがまったくなくて全部が自然。
──例えばどんなところでしょう。
もともとアニメーションも観ていたんですけど、同じシーンを比べても実写のほうがセリフがスッと入ってきたというか。野獣がベルに魔法の鏡を手渡して城から解放するシーンがありましたけど、「僕のことを忘れないでね」っていう切ない思いがグッと伝わってきたんですよね。戦争に行く人が残された人にペンダントトップを渡すじゃないですけど。
プリンセスなのにちょっと雑な扱いをされるベルがかわいい
──ベルを演じたエマ・ワトソンさんにはどんな印象を持たれましたか?
アニメーションだと、ベルのふとした表情から気の強さが感じられたんです。今は本性を隠しているけど、結婚したら恐妻家になりそうだな、みたいな(笑)。でもエマ・ワトソンが演じると、ずっと穏やかな性格のまま変わらない気がして。
──それは過去の作品のイメージからでしょうか。
私、(エマがハーマイオニー役で出演していた)「ハリー・ポッター」シリーズってほとんど観てなくって、広告やファッション誌での彼女しか知らないんです。だから先入観はそれほどなかったんですけど……。あの愛らしい顔と愛情深いキャラクターの性質が合ってたのかもしれない。プリンセスなのにちょっと雑な扱いをされるのも似合っててかわいかった(笑)。
──雑な扱いというと?
ベルと野獣が雪玉を投げ合うところがあるんですが、野獣の投げたデカい雪玉にベルが当たっちゃうんですよ。後ろに倒れて、その後別に起き上がるわけでもないんですよね(笑)。私の一番好きなシーンです。
──中盤、徐々に2人が距離を縮めていくシーンですね。でも序盤では、ベルは周りの村人から“変わり者”と蔑まれて孤独感を抱えていました。
私はベルのことを“変わり者”とは思わなくって。あの時代の人からすると変わっているのかもしれないですけど、現代には割といるタイプなんじゃないですかね。“変わってる”っていうより、“自分を持っている”と言うのかな。あの村人たちも、本当は彼女に憧れてるのかなって思います。「友達になりたいな」「でも私は本を読んでないし、会話にもついていけないし、鼻で笑われそうだから話しかけないでおこう」みたいな。
──自分を持っているベルに実は憧れている、と。
でも私から見たベルの魅力は別のところにあって……。しっかり生きてるというのが素敵だと思います。例えば、お父さんを大事にしてるのはいいなあって思いますよね。それと洗濯の仕方を工夫したり、暮らしの知恵を持ってるところ。
──ベルが現代にいたらどんな人になるんでしょうね。
Twitterは絶対にやってないでしょうね。ガラケーとか使ってそう。たぶん逆に村人はTwitterやってるだろうなあ(笑)。
“隠れガストン”は実は周りに潜んでいる
──ベルと野獣がだんだん距離を縮めていく過程は微笑ましかったですね。
そうですね、ベルが野獣と恋に落ちるリアリティが出ていたと思います。アニメーションだと野獣ってとことん性格が悪いし、それでも好きになるってことは、ベルは玉の輿を狙ってたのかと疑っちゃう(笑)。でも実写では野獣の品のよさが出てたから、ベルが好きになる説得力もちゃんとありました。
──どんなところに品のよさを感じたのでしょう。
アニメーションだと野獣は文字が読めないという設定でしたけど、実写では大量の本に囲まれた部屋をベルに見せたりして、「本は好きだよ。ギリシャ語はわかんないけどね」みたいなセリフを言ってたじゃないですか。ガサツなイメージが少なくなって、スープを豪快に食べるシーンまでも、どことなく品のいい感じはありましたね。
──ちなみに野獣以外の男性キャラクターはいかがでしたか?
ガストン、大っ嫌いでした!
──辛口ですね(笑)。
私が男性に対して嫌いだって思うところが全部詰まってる感じ。「美女と野獣」ってベルとガストンのことなんじゃないかって思うくらい。アニメーションではベルに求婚するとき、「僕の脚を揉んでる妻と子供と犬が理想だ」みたいなセリフを言ってましたけど、それって超ホラーじゃないですか!?(笑)
──あはは(笑)。
まあ物語を面白くさせるという意味ではいいキャラクターですけど、こういう男の人は嫌ですね。
──マキさんの作品でガストンのようなタイプというと誰になるんでしょう。
「いつかティファニーで朝食を」で例えたら、初期の創太郎かなあ。
──ちょっと周りが見えてない、自分勝手な感じのタイプですね。実際にマキさんの周りでは見かけますか?
うーん……そういう素質があっても、それを隠して生きてる人が多いのかなと。“隠れガストン”というか、よくよく話してみたらガストンみたいって人は結構いますよ。むしろ露骨にガストンみたいなタイプだったら、いっそ清々しくして好きになっちゃうかもしれない(笑)。
──逆に野獣のような男性は周りにいらっしゃいますか?
いないですね。野獣ってもう全然違う世界の人というか、私にとって斎藤工みたいなイメージなんです(笑)。
──(笑)。ガストンの手下のル・フウや、ベルの父親のモーリスはいかがでしょう。
ル・フウについては、昔は私もこんなふうに強い者に従ってたなあって思って共感しました。あとアニメーションよりも賢い感じがしましたね。モーリスは枯れ専に人気ありそうな感じがします。
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部屋に引き返したくなる食事シーン
- 特集「美女と野獣」を語る
- コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
- 映画ナタリー 小野賢章
- ステージナタリー 藤田俊太郎
- 音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
- 作品解説・キャラクター紹介
- 「美女と野獣」
- 2017年4月21日(金)公開
ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと残酷な企みを考え……。
- スタッフ
- 監督:ビル・コンドン
- 作曲:アラン・メンケン
- 作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
- キャスト ※()内はプレミアム吹替版
- ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
- 野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
- モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
- ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
- ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
- ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
- コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
- ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
- チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
- マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
- プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
- カデンツァ:スタンリー・トゥッチ
- マキヒロチ
- 第46回小学館新人コミック大賞入選。週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にてデビュー。月刊コミック@バンチ(新潮社)にて「いつかティファニーで朝食を」、ゴーゴーバンチ(新潮社)にて「創太郎の出張ぼっちめし」を、ヤングマガジン サード(講談社)にて「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」を連載中。
- マキヒロチ
「いつかティファニーで朝食を⑪」 - 発売中 / 新潮社
©︎マキヒロチ 2012/新潮社
- マキヒロチ
「創太郎の出張ぼっちめし③」 - 発売中 / 新潮社
©︎マキヒロチ 2014/新潮社
2017年4月27日更新