アニメ「薔薇王の葬列」緑川光、日野聡、杉田智和が、リチャードとの“名付け得ぬ関係”を紐解く (3/3)

作品の魅力──リチャードという「よくわからないけど、強く惹かれるもの」

──さて、今年1月に、原作「薔薇王の歴史」が8年半の連載に幕を閉じました。改めて、皆さんはこの作品の魅力はどんなところにあると思いますか?

杉田 冒頭でも言いましたが、世相を反映しているところですね。菅野先生が、10年ぐらい前からこうなることを予見して題材を選んでるのかな、とすら思えます。そのくらい、狙ってこのタイミングにしたのかなというほど、本当によくマッチしていると感じました。

日野 さまざまな人間模様があり、現実とファンタジーとのぎりぎりの境、みたいなところを描かれていますよね。中心に、リチャードという、なんともいえない強く惹かれるものがいる。怖いから見たくないけど、どうしても気になっちゃう──そういう魅力がある作品なのかなと。人間のどろどろしたところもたくさん描かれていて、決して、見ていい気分になれるかというと、そんなことはないじゃないですか。それでも、「見ちゃダメだ」って言われると見たくなっちゃう。そして一度見たら、つい癖になってしまうような作品だと思います。

──すごく共感します。一般的には美しいとは正反対のものを魅力的に描く、菅野先生の手腕が光っている部分で、アニメにも色濃く反映している部分だと思います。緑川さんはいかがですか?

緑川 史実をもとにしている部分もあるから、ちょこちょこ人が死ぬじゃないですか。普通に「アニメを作ろう」となったときに、作中であんなに殺そうとは思わないと思うんですよね。もちろん史実どおりに描けば、ここでこの人が死ななきゃいけないというのはあるけど……“人死に過ぎる問題”(笑)。

一同 (笑)。

緑川 うちの子──ヘンリーの子供、エドワード(王太子)とかも普通の作品に出てきたら絶対死ななそうなタイプなのに、ああ死んじゃうんだ……と。リチャードのお父さんであるヨーク公爵リチャードもそうです。僕としては、絵柄が少女マンガ的だという印象を持っているので、普通だったら死なない子も死んじゃうという衝撃を何度も味わってショッキングでしたね。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ヘンリーの息子・エドワード王太子。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ヘンリーの息子・エドワード王太子。

──史実は残酷ですよね。

緑川 それから、先生の絵が説得力がありすぎて、きっとアニメでは差別化の意味で少し違った描き方をしているんだと思います。アニメはどちらかと言うとおとぎ話的というか、少し軽い感じにしている。人が死ぬところって、マンガだったら1コマくらいで表現できるものが、普通のアニメだと動くし色もつくので、ターニングポイントになる重いシーンになっちゃう。だから、アニメだとちょっと違う表現しないと難しいと思うんですよね。毎回人が死んで血しぶきが飛んでたら、テーマが別なほうにいっちゃいそうだし(笑)。

──確かに。

緑川 だから、アニメを観て原作はまだ読んでいない方もいると思うんですが、ぜひ先生のマンガも見てほしいなと思います。先生の作画は圧倒的で素晴らしいですし、それぞれの持つ魅力が違うので。

もしも「薔薇王」世界に転生したら?

──皆さんがもしも「薔薇王の葬列」の世界に転生したとして、どのキャラクターになってどんなふうに生きてみたいですか? ちなみに斎賀さんは、政治に巻き込まれるのは嫌で、町で静かに羊飼いのような生活をしてのんびり暮らしたいとおっしゃっていました。

日野 僕はイノシシです。

一同 (笑)。

──人間ですらない(笑)。

日野 人間はだって、「薔薇王」を見る限り、貴族も血で喜ぶ平民も、どっちもどっちな気がする。そうなると動物が一番です(笑)。あとは木や草や花(笑)。

──人間に狩られる危険性もありますが。

日野 狩られるかもしれないけれど、複雑な状況に弄ばれるくらいならば、あくまでも生き物として本来の姿をまっとうする生き方が一番幸せなのかなと思います。どろどろな展開には巻き込まれたくないですね。

緑川 僕もやっぱり戦いに巻き込まれるのは嫌なので、登場人物で考えた場合、ジャンヌかな……。

一同 あー!

──えっ、亡霊の姿でたびたびリチャードの前に現れるジャンヌダルクですか?

緑川 はい、あれはあれで楽しそうなので。とりあえず戦争はしたくないです。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ジャンヌダルク。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ジャンヌダルク。

──ジャンヌは現在の姿の前に、フランスでもっと過酷な運命を辿っていたとは思いますが、たしかに作中ではいざこざからは超越した存在です(笑)。皆さん逃げに逃げますが、杉田さんは?

杉田 呪われた剣になって……。

一同 (笑)。

杉田 人類が自分をどう扱うかに興味はないですが、持った人間にはもれなく語りかける。「呪いの剣は、剣を扱う人間が作り上げている。お前、わからないのか?」と。説教臭い剣になります。

日野 確かに、料理だけに使うとか、平和な使い方もできるはずなのに、人間が人を殺すことに使うから悪いんだもんね。でもいいなあ、杉田くんの声でしゃべる剣、欲しいなあ。

杉田 あ、欲しい?(笑) ありがとうございます。

日野 そうやって語りかけてくれると孤独でも癒されるしさ。もしくはサービス過多で、切ったときに「バシュゥッッッッッッッ!!!!」って効果音を言ってくれたり(笑)、普通の剣なのビームサーベルみたいに光ったり、ゲームしてても後ろでアドバイスしてくれそう(笑)。

杉田 (笑)。

公式が最強? バッキンガムを演じるのは「楽しくてしょうがない」

──最後に、それぞれ聞きたいこと、伝えたいことがあればぜひお願いします。

日野 杉田くんにはこの現場でグリーンカレーをいただいて、それをおいしく食べました。ありがとう。

杉田 知り合いのカレー屋・PLUCKが、コロナ禍でレトルトカレーの販売を始めたんです。日野さんがグリーンカレー好きって聞いたので、持っていったんです。

──そんな交流があったんですね。

杉田 作品は殺伐とした世界観ですけど、裏側はけっこうあったかいんで。中年のおじさんたちがあったかい雰囲気で録ってるんで。

一同 (笑)。

日野 確かに、平均年齢高めだよね(笑)。

杉田 ブースで分かれて収録しましたけど、きっちり斎賀さんを中心にまとまった印象がありましたよね。

──斎賀さんも、アフレコの裏で、出演者の皆さんが「次どうなるの!」と盛り上がっているとおっしゃっていました。

緑川 原作の最終回とアニメの開始が同じタイミングで進行していたので、テンション高めでアフレコできたなと思います。

アニメ「薔薇王の葬列」より、左からバッキンガム、リチャード。

アニメ「薔薇王の葬列」より、左からバッキンガム、リチャード。

──それはこのご時世、とても素敵なことですね。原作連載が8年半続き、最終回を迎えた1月からアニメが始まるといった、奇跡のようなタイミングでしたね。

緑川 はい、原作未完のままアニメが進んでいたら、ラストが違っちゃうとかもありがちですが、本当にいいタイミングでしたね。それと、「薔薇王の葬列」はほんとにアドリブを入れる隙間もないから、杉田くんがストレスたまらなかったのかな?というのは気になりました。杉田くん的には、そういう作品でもチャンネルを合わせれば別に平気なのかな?

杉田 いやいや、バッキンガムっていう人間を見るに、面白いことってできてしまうんですよ。何周かすると、シリアスっていつの間にか面白みを醸し出してくるんです。「薔薇王」のBlu-rayに付属するドラマCDなんか、すごいですよ。テーマが「ギャングの抗争」と、「保育園」です。もうこの時点でやばいじゃないですか。バッキンガムが保育園児なんですよ。「あとはわかるな?」って。ストレスがたまらないどころか、楽しくてしょうがないです。ありがとうございました。

──やはり公式が最大手というか、一番振り切っていますね(笑)。

杉田 あとは、ティレルが「どうしたんだい? バッキンガムくん」って言って、押入れからガラって出てくるネタがやれれば、最高だなと。

一同 (笑)。

プロフィール

緑川光(ミドリカワヒカル)

5月2日生まれ、栃木県出身。青二プロダクション所属。主な出演作に「SLAM DUNK」(流川楓役)、「新機動戦記ガンダムW」(ヒイロ・ユイ役)、「聖闘士星矢Ω」(光牙役)、「コードギアス 反逆のルルーシュ」(黎星刻役)、「坂本ですが?」(坂本役)、「SK∞ エスケーエイト」(Cherry blossom/桜屋敷薫役)、「名探偵コナン」(諸伏景光役)などがある。趣味はゲーム。

日野聡(ヒノサトシ)

8月4日生まれ、サンフランシスコ出身。アクセルワン所属。主な出演作に「オーバーロード」(アインズ・ウール・ゴウン役)、「バクマン。」(高木秋人役)、「ハイキュー!!」(澤村大地役)、「鬼滅の刃」(煉獄杏寿郎役)、「オリエント」(武田尚虎役)、「東京リベンジャーズ」(清水将貴役)、「呪術廻戦」(加茂憲紀役)、「異世界美少女受肉おじさんと」(神宮寺司役)などがある。特技は剣道。

杉田智和(スギタトモカズ)

10月11日生まれ、埼玉県出身。AGRS所属。主な出演作に「涼宮ハルヒの憂鬱」(キョン役)、「まりあ†ほりっく」(鼎藤一郎役)、「銀魂」シリーズ(坂田銀時役)、「SKET DANCE」(笛吹和義役)、「ジョジョの奇妙な冒険」(ジョセフ・ジョースター役)、「ヲタクに恋は難しい」(樺倉太郎役)、「鬼滅の刃」(悲鳴嶼行冥役)、「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」(前世の男役)がある。