アニメ「薔薇王の葬列」緑川光、日野聡、杉田智和が、リチャードとの“名付け得ぬ関係”を紐解く (2/3)

ティレル×緑川光「ヘンリーを内包したティレルへのアプローチ」

──杉田さんから語られた、名付け得ぬ関係性に改めてドキドキしました。続いては第2クールではヘンリーから変わってティレルを演じられる緑川さんにお伺いしたいと思います。第1クールでは、ヘンリーはリチャードの手で衝撃的な最期を迎えました。緑川さんは演じるにあたり、“「HEAVEN(ヘブン=天国)」「HELL(ヘル=地獄)」を意識して”とディレクションを受けていたということでしたが、第1クールでヘンリーというキャラクターを演じ切って、いかがでしたか?

緑川 切ない終わり方でしたが、役目はまっとうできたのかなと思います。最後に向かって、思いっきり絶望させるための「ヘブン」だったのかなと。自分で最初にやってみたよりも、「もっとやっちゃってください!」とディレクションされていたんです。だからこそ、あの「ヘル」が、何倍にもなって効いてくるんでしょうね。

──囚われたヘンリーにリチャードが自身の本当の姿や気持ちを告白しようとして拒絶される、激しい葛藤と絶望が表現されていましたね。

緑川 はい。実際にテレビで放送されたシーンで、まわりの音楽や、シーンの色合いと合わせて見ると、「このぐらいやっててもありだったのか、なるほどね」と納得しました。リチャードにとってヘンリーって、それまでは父親と同じような“光”の存在として登場していましたが、最後で一気に落とすんだ、と……。僕自身、ずっと演じていく中でリチャードに好意を持っていたので、その分あのラストはつらいですよね。

──リチャードの深い絶望を思うと、涙なしには見られない場面でした。

緑川 史実をもとにしたお話なので、いろいろ調べてみるとなんとなく展開はわかるんですけど……。リチャードって、バッキンガムといると“女”って感じがするんですけど、たまにヘンリーに見せるのは“少女”の部分みたいで、「かわいいなあ」「ずっとそういうふうにいてほしいな」と思っていたんです。それが、ああした結末になってしまって、それを演じなきゃいけないのはしんどかったです。

アニメ「薔薇王の葬列」より、左からヘンリー、リチャード。

アニメ「薔薇王の葬列」より、左からヘンリー、リチャード。

──第2クールでは、そんなヘンリーとは打って変わって、謎の殺し屋・ティレルを演じられます。ヘンリーとはまったく違う役づくりになるのでしょうか?

緑川 そうですね、ヘンリーはいろんな場面でディレクターさんに「ヘブン、ヘブン!」って言われて、けっこう苦労しながら作っていったキャラクターではあるんですけれども、ティレルはほぼ言われなかったですね。

──ティレルは「ヘブン」でも「ヘル」でもないのでしょうか。

緑川 原作では「ティレル=ヘンリー」とは明言はされていないんですが、僕はやっぱり一番矢面にいるというか、演じなきゃいけない人なので、ティレルはヘンリーだと思って演じています。普通にティレルだけを考えたら、もっとクールな感じの芝居をしているのかなとも思う。でも、やっぱりヘンリーの存在があると、「いや、そうじゃないよね」って。だから、自分の中でも不思議な感じです。クールなんだけど、あのヘンリーのほわっとした雰囲気を残しつつのキャラクターで演じてみて、スタッフからも特に何も言われなかったので、そのままいきました。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ティレル。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ティレル。

──ティレル=ヘンリーと考えた場合、ものすごく複雑な背景を背負っているわけですものね。かつてのイングランド王であり、リチャードに一度殺された身であり……。

緑川 そうですね。だからヘンリーのことを考えると、やっぱり完全なクールキャラにはなれないかな。だから、ティレルを演じるのは、自分でも面白い試みでしたね。

杉田 リチャードとバッキンガムが一緒にいるとき、ティレルがベッドの天蓋の上から、こうやって見てるんですよ(ティレルがのぞくマネをしながら)。あんなところからのぞくのは、ティレルか、ドラえもんくらいという。

緑川日野 (笑)。

──(笑)。ティレルは妖精というか、人外っぽいところがありますよね。びっくりするようなところに現れます。

緑川 そういえば、ティレルがバッキンガムと一緒にいるときに少し小さく見えるのは、ちょっと猫背っぽく描いてるんですよ。というのも、実際にはそれなりのお年だからということらしいんですが、「いや、だったら木の上に登るなよ!」って思うんだよね(笑)。

杉田 そして、刃物の持ち方が“必ずやっちまうぞ”スタイル。「いいから、刃物しまって!」って。それを大真面目にやってるから、余計得体がしれなくって。

緑川 アクティブだよねえ、やっぱり。

杉田 よりそのキャラクターのミステリアスさが増していると思います。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ティレル。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ティレル。

──アニメでは第2クールが進むにつれ、ティレルとバッキンガムの絡みは多くなるのでしょうか?

緑川 バッキンガム的には当然、リチャードとの絡みが一番多いんですけど、ティレルはほかの人とほとんどしゃべらないので、バッキンガムが唯一というのはありますね。

──なるほど。

緑川 なので、キャストが決まる前から、「バッキンガムは誰がやるのかな?」と気になっていたんです。杉田くんだと聞いて、うれしかった。杉田くんとはちょこちょこ仕事ではご一緒するんですけれど、本当に超クールなお芝居での絡みってあんまり例がなくって、それも楽しみだなと思っていました。

ケイツビー×日野聡「バッキンガムをリスペクトしつつ、リチャードを守り抜く」

──ありがとうございます。ストーリーが進むのがすごく楽しみになってきました。続いては、リチャードに最初から最後まで忠実に付き従う臣下・ケイツビーについて。菅野文先生はTwitterで「(私は)ケイツビーファンなのかな」とつぶやかれていたり、取材でも「アニメで急にケイツビーにセクシーさを感じ始めた」とおっしゃっていたのが印象的でした。

日野 そうなんですか! 個人的にはセクシーさとかは考えていないのですが、自分としてはケイツビーは、バッキンガムとまた違うようで、近しいところを持っているのだと思っています。まず、彼って自分をそんなに前面に出さない。だから、ガッと自分が表に出るようなはお芝居は控えていて、抑えながら、常にリチャードの陰でやさしく見守れるようにということを、お芝居として意識していましたね。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ケイツビー。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ケイツビー。

──日野さんのケイツビーには、抑制の美しさを感じます。

日野 第2クールになり、バッキンガムの存在感が大きくなってくることによって、彼自身の感情にも動きが出てきます。日野個人として勝手に思っていることとして、ケイツビーの中では、バッキンガムってどこか自分ができないことをやっているという点で、一種のリスペクトもあると思うんですよ。なので、完全敵対ではないというか、バッキンガムをリスペクトしつつ、それが結果リチャード様のためであるならば、自分は見守るというスタイルであると、僕は解釈しています。

──なるほど……!

日野 だけど、「リチャード様に何か危険が及ぶようなことがあったら、こんな自分でも表に出て行くよ」というアピールは、バッキンガムにもしている。なので、第1クールよりは徐々に感情表現を表に出すようにということは、とくに後半心がけていますね。というよりも、台本上でもそうだし、掛け合う芝居をすることで、自然と引き出されていく感じでした。

──お話を聞いて、普段厳しく自分を律しているケイツビーの、リチャードの上に静かに温かに注がれる視線が、菅野先生をはじめ視聴者の心に残ったのだと思いました。

日野 個人的には、「もっと思い伝えたらいいじゃない」とも思うんですけどね(笑)。

杉田 言われてみれば、そうだ。

日野 外で聞き耳を立てたり、ひたすら待ってるぐらいなら……って。

杉田 (笑)。まさかの状況で必ず現れますからね。

日野 彼の美徳がそこにあるのなら、そういう生き様なんでしょうし……まあ、それはそれでいいのかな?

アニメ「薔薇王の葬列」より、ケイツビー。

アニメ「薔薇王の葬列」より、ケイツビー。

──そんなケイツビーだからこそ、第2クールの序盤で、リチャードとは明言しない形で「心に決めた人がずっといる」と告白するシーンにはグッときました。バッキンガムとケイツビーは今後一緒にリチャードを助けたり、ときには反目したりということで、絡むシーンは多いのでしょうか?

日野 リチャードを支えるという目的はお互い一致しているので。ただ、ケイツビーはリチャード様への思いから出る感情をバッキンガムに対し一方的にぶつけたりしますけど、バッキンガムはそれを受け止めているかは分からないんですよね。バッキンガムとしてはあくまでも、「あ、そういう意見もあるのね」というだけで。先程杉田くんも言っていたように、バッキンガムのスタイルとしては、リチャードの意見以外は「あくまでガヤにしか聞こえない」。これは彼のスタイルとして、僕はものすごく理解できました。

それぞれの“推しキャラクター”は? バッキンガム降臨

──「薔薇王の葬列」では主人公のリチャードはじめ、強烈なキャラクターがたくさん出てきます。ご自身が演じたキャラクター以外で、推しキャラクターと、その理由を教えてください。

日野 僕はバッキンガムが好きですね。見ていると、実は彼が一番人間的な気がしました。彼がキングメイカーとして自分の中で練り上げてきたもののプランが変わってきたときに出てくる感情の歪みに、すごく人間らしさを感じるというか。一貫して貫き通す強さや、想定外のことが起きたときの感情のゆらぎ、人を愛することによって生まれてくる新たな感情──そうした、一貫性と人間らしさが両方あるところが、僕は好きですね。

──バッキンガムは、リチャードに対する独占欲がすごく強いですよね。

日野 それと比べちゃうと、自分の思いを抑えすぎるケイツビーってどこか機械的なところもあるんですよね。なので、もしかしたらケイツビーを演じられたからこそ、よりバッキンガムの魅力を感じとったのかもしれないですね。バッキンガム好きです。

──それを受けて、バッキンガム役の杉田さんはいかがですか?

杉田 この手の質問が来ると、キャラに聞いてみるんです。「バッキンガムどう思う?」って。「ハッ、いかにも民衆が好みそうな話題だな」。

一同 (笑)。

杉田 「バッキンガム、リチャードって答えたほうがいいよね?」……何も言わない。なので、リチャードだと思いまーす! これ以上何も出ないので許して。

──(笑)。無言で肯定しているバッキンガムが目に浮かぶようです。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

杉田 メガネ(バッキンガム)が、すっげえ顔でこっちを見て聞いてくるんですよ。「どう答えるか“わかってる”よな? 間違ったらどういうことになるかって?」……「ああーだよねー!」って──そういう圧や心労を演者に感じさせてしまうぐらいのパワーが、バッキンガムには集まってると思うんです。ただ、何周かまわって段々面白くなってくるんですよ。

──と言うと?

杉田 原作の公式が用意する「貴族ギャグ」という危険なお仕事があるんです。この間だって、(菅野先生のツイートで)バッキンガムさん、アイスクリーム作ってましたもん。「アイスキングメイカーだ、俺が!」って。

──キングメイカーならぬ、アイスキングメイカー(笑)。

杉田 公式ですよ! 公式がこれをやるんですよ! 僕らは笑ってもいけない気がするし、「なんだこれ」って言っちゃダメだし、公式をただ静観するしかないらしい。僕は眼鏡型のハンドグリップを握りこんで、“メガネクラッシュ”しながら、とりあえず気分落ち着かせる。「メガネクラッシュ!」……こういう発言ももしかしたらいけないかもしれない……(推しは)「リチャードで」。

──バッキンガムの恐ろしさがよくわかりました……! 緑川さんはいかがですか?

緑川 推しの概念もいろいろありますが、仮に、菅野先生が「好きなイラストで色紙描きますよ」って言ってくださったときに、そこでお願いするのが「推し」なのかなと。

日野 ははは! 確かにそうですね。

緑川 自分のキャラクターは当然お願いするとして、「すみません、もう1人隣に……アンちゃんを」。アンちゃんとはなんの絡みもないんですが……(笑)。

──ヘンリーとティレル、どちらもアンとは絡みはあまりないですね!(笑)

緑川 このツーショット、レアかな?って(笑)。アンちゃん、好きなんですよ。でも、あるきっかけから、物語の後半ではずっと無機質、無表情な感じになっていくのでつらいところもありますが。だけど、僕は一番好みかな。だから、ヘンリー……いや、ティレルとアンちゃんのツーショットを描いてもらいたいです。