「テニスの王子様」を観て「俺も王子様になりたい」
──では次に、“バク転”について伺います。この作品ではバク転というひとつの技がキーになっていて、「これをやりたいがために新体操を始めた」みたいな憧れの象徴として描かれていますよね。おふたりには何かそういう思い出はありますか?
土屋 僕の通っていた小学校がけっこう自由な校風で、卒業式がほとんど仮装大会みたいな感じだったんです。卒業証書を受け取るとき、名前を呼ばれた卒業生が1人ずつコスプレで壇上まで歩いていくみたいな(笑)。僕はそこをタンブリング(跳躍や回転を連続で行う演技)で行きたかったんですけど、教えてくれる人を見つけられなくて諦めまして。最終的には侍の格好をして刀を振り回しながら歩きましたね(笑)。なので、バク転とかへの憧れは小さい頃からありましたね。
石川 僕は中学から高校にかけてけっこういろんな部活をやっていまして。最初は、映画「少林サッカー」に憧れて少林寺拳法部に入りました。
土屋 (笑)。
石川 でも、すぐには「少林サッカー」みたいにはなれないんだなと気付いて辞めて。次に「テニスの王子様」を観て「俺も王子様になりたい」とテニス部に入るんですけど、「すぐにはラケットを握らせてもらえないんだ?」となって辞め、体操部も「すぐにはバク転とかやらせてもらえないんだな」となって辞めて。
土屋 あははは(笑)。
石川 で、たまたま好きな女子が演劇部に入ってたんで演劇をやり始めたら、結果的にそれが仕事になった。だから僕の場合、憧れではなく偶然が結果につながった感じなんですよ。この作品でいうところの双葉のような経験をたくさんしてると言えばしてるんですけど、1つも長続きはしていない(笑)。
──長続きするかどうかはさておき(笑)、そういう無邪気な憧れは誰もが持ちうるものですよね。「バクテン!!」ではそれが物語の入口になっているから、なじみのないスポーツを扱っていても視聴者が入り込みやすいんだと思います。
石川 そうですね。1つの技に憧れて入ってみたら、その先にいろんな面白さがあることに気付いていくみたいな。アニメで観るとけっこうドラマチックに描かれてますけど、その気持ち自体はありふれたものだと思うんで、皆さんにも共感してもらえるんじゃないかな。
画の魅力も存分に味わって
──それと、この作品は東日本大震災の復興を支援する「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の一環として制作されています。それで宮城県岩沼市が舞台になっているんですよね。
土屋 そうですね。実は各キャラクターの苗字にも東北の地名が使われてるんですよ。例えば双葉翔太郎の双葉は福島県の双葉町、美里良夜の美里は宮城県の美里町というふうに。下野紘さんが演じている女川ながよしの女川町なんかは、報道でもよく耳にする地名ですよね。そういった名前が出てくるたびに「被災地を舞台にした作品に参加させてもらってるんだな」ということをひしひしと感じますし、観ていただく方にも「この地名、知ってる!」と東北を身近に感じてもらえるんじゃないかと思っています。そういう細かいところでも、地域の方々に喜んでもらえたらうれしいです。
石川 今年は震災から10年というの節目の年ですけど、人々の記憶が薄れてきてしまっている時期でもあると思うんです。まだまだ被災地には不自由な思いをされている方がたくさんいますし、そういう人たちが少しでも笑顔になれるような作品になったらいいなという気持ちがありますね。
──そんな「バクテン!!」という作品を、どんなふうに楽しんでもらいたいですか?
土屋 キャラクターがみんなすごく元気で、周りを明るく照らすような感じなので、楽しい気持ちで観られる作品だと思います。今はいろいろと大変なことも多い時代ですけど、双葉たちの明るさに触れることで少しでも元気になっていただきたいです。
石川 男子高校生たちの部活感、青春感、ちょっとした掛け合いなども楽しめる作品ですし、男子新体操という競技そのものの描き方もアニメならではの表現になっています。ストーリーやお芝居はもちろんですけど、画の魅力も存分に味わっていただきたいですね。それでちょっとでも興味を持ったら、体を動かすことにも挑戦してみてほしいです。皆さんが新しい世界に触れるきっかけになったらうれしいなと思っています。
──それこそ「この作品がきっかけで男子新体操を始めました」みたいな少年が出てきてくれたら最高ですよね。
石川 実は僕も、この作品きっかけでバク転をやったんですよ(笑)。「1日でバク転をできるようになってください」みたいな無茶振り企画があって。おそらくこの記事が出る頃はそのロケの様子が順次公開されていっているタイミングだと思うので、結果のほうはまだ言えないんですけども。
──それ、土屋さんは挑戦されてないんですか?
石川 もともとできるんですよ、この人(笑)。
土屋 バク転はもともとできたので、その発展形をということで、僕はバク宙に挑戦しました。実は今も練習を続けています(笑)。そういったことも含め、いろいろな出会いがある作品でした。