コミックナタリー Power Push - 「バクマン。」
小畑健×大根仁 マンガと映画 それぞれの画作りを担う2人の創作論
原作者に50枚も原稿を描かせる映画はなかなかない(大根)
──小畑先生は今回、劇中の原稿を執筆するという形でも、制作に携わっていますね。
小畑 なんだかんだ50枚は原稿を描きましたね。
大根 最高と秋人が劇中で連載を勝ち取る「この世は金と知恵」の原稿がそうですね。2人は新人マンガ家なので、普通に考えればそんなに絵が上手いはずはないんですけど、連載作は小畑さんに描いていただいたほうが説得力が出るだろうと。あとエイジの「CROW」とか、亜豆のラフスケッチも。
小畑 本にならないものをいっぱい描くっていうのはデビュー時以来なので、新人の頃を思い出して懐かしいなっていう気持ちもありましたね。
大根 亜豆のラフスケッチなんかは、原作の亜豆の要素も残しつつ、小松菜奈の雰囲気も加わっていてめっちゃ魅力的でした。「小畑さん、小松菜奈のこと好きなのかな」って感じが伝わってきて(笑)。最初は美人は描きづらいなんて仰ってましたけど。
小畑 美人て特徴がないじゃないですか。でも小松さんは個性的な顔でもあったので、なんとかなるんじゃないかなと。
大根 俺は現場で上がってくる原稿とかイラストを見て「これ、言えばもっと(小畑さんが)描くからもらってこい」って、助監督に指示してただけなんですけど(笑)。
小畑 しんどくはあったんですけど、意外と描けちゃうものでしたね。雑誌に載るマンガっていう想定ではないので、画面に映えるっていうことだけを考えればいいのはやりやすかったです。普通の原稿だと細かい部分に力を入れるんですけど、今回はどちらかというと映ったときにパッと目に飛び込むような絵作りにして。だから数をこなせたっていうのもあるかもしれません。
大根 小畑さんにはラストシーンに出てくる黒板の絵も描いていただいて。
小畑 撮影を見学に行ったときにまんまと描かされて(笑)。映画の撮影を見学するのは今回が初めてだったんですけど、原稿で参加させてもらってるという経緯もあって、みんなで作っている感じがして楽しかったです。結局5、6時間は描いてましたね。
大根 もともと最高と秋人がラストシーンで、黒板にスケッチを描いていくっていうアイデアはなんとなくあったんです。それで何を描こうかってなったときに、映画には出てこない原作の劇中作がいいんじゃないかというところに行き着いて。きっと小畑さんも1日くらい現場にも来たがるだろうから、そこに照準を合わせてお願いしようと。ここまで原作者を稼働させた作品もなかなかないでしょうけど、これはのせられて描いたほうが悪い(笑)。
最高と秋人には深く感情移入できない(小畑)
大根 最初に小畑先生のところにお邪魔したとき、「最高と秋人は持っている人だから、深い感情移入はできなかった」って仰っていたじゃないですか。それは俺もマンガを読んだときに感じていたことだったので、そう言ってくださったのは大きかったですね。その感情は正解なんだという気持ちで、脚本を執筆できたので。
小畑 やっぱりあの2人は、うまくいきすぎてると思うんですよね。また「まんが道」の話になっちゃいますが、あの作品の主人公2人はどうしようもないじゃないですか。
大根 満賀道雄が仕事サボってすぐ映画観に行っちゃったり。
小畑 才野茂も1日で会社辞めるっていう(笑)。僕も隙あらば怠けたいと思っているので、ああいうキャラクターのほうが共感ができるんです。「バクマン。」を描き始めた頃は、もっとそういうダメな部分を描いていくのかなと思ったりもしていたんですけど。2人でどんどん進んでいくので、なかなか入り込めなかった。もちろんああいうキャラクターでないと、高校生でジャンプの連載なんて勝ち取れないんでしょうけど。
──その主人公2人について、映画のキャスト発表時に「配役が逆なのでは」との声も上がりましたが。
小畑 巷ではそういう声が上がってますけど、観てみたらぴったりハマってると思うんじゃないですかね。
大根 ここ太文字でお願いしたいなあ(笑)。
小畑 最高がいい意味でふてぶてしいじゃないですか。新人マンガ家特有の根拠のない自信も出てたし、ハマってましたよ。
大根 こういう作品て「何か内に溜めているものがあって、それを吐き出す」っていう、ルサンチマン構造にするのは簡単なんですよね。でも今回はある程度、最初から何かを持っている人間を描きたかったんです。これは脚本の段階から考えていたことで、最高のそういうキャラクター性が、ふてぶてしさに繋がっているんだと思います。
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Contents Index
About the Movie
「バクマン。」2015年10月3日より全国東宝系にて公開
スタッフ
監督・脚本:大根仁
原作:大場つぐみ、小畑健
主題歌:サカナクション「新宝島」
キャスト
真城最高:佐藤健
高木秋人:神木隆之介
新妻エイジ:染谷将太
亜豆美保:小松菜奈
福田真太:桐谷健太
平丸一也:新井浩文
中井巧朗:皆川猿時
服部哲:山田孝之
川口たろう:宮藤官九郎
佐々木編集長:リリー・フランキー
Information
映画に登場する小畑健描き下ろし原稿約100点を大公開!!
佐藤健×神木隆之介×小畑健鼎談 、小畑健×大根仁など対談記事も充実!
Profile
小畑健(オバタタケシ)
1969年生まれ、新潟県出身。1985年に「500光年の神話」で第30回手塚賞準入選。1989年に週刊少年ジャンプ(集英社)にて「CYBORGじいちゃんG」で連載デビュー。1991年に連載を開始した泉藤進原作による「魔神冒険譚ランプ・ランプ」以降、主にマンガ原作者と組んで活動している。ほったゆみ原作による「ヒカルの碁」で2000年に第45回小学館漫画賞、2003年に第7回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。大場つぐみ原作では「バクマン。」のほか、「DEATH NOTE」の作画も手がけている。
大根仁(オオネヒトシ)
1968年12月28日、東京都生まれ。「劇団演技者。」「アキハバラ@DEEP」「湯けむりスナイパー」などの深夜ドラマを数多く手がける。2011年には自身が演出を務めたドラマ「モテキ」の劇場版で映画監督デビューを果たし、第35回日本アカデミー賞で話題賞(作品部門)に輝く。近作は「恋の渦」、ドラマ「まほろ駅前番外地」「リバースエッジ大川端探偵社」ほか。電気グルーヴの活動を追ったドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」が12月26日より公開。
2015年10月9日更新