コミックナタリー Power Push - 「バクマン。」
小畑健×大根仁 マンガと映画 それぞれの画作りを担う2人の創作論
大場つぐみ、小畑健によるコミックを実写化した「バクマン。」は、2人の高校生がマンガを共作し、週刊少年ジャンプ(集英社)での連載を目指して突っ走る青春映画。「モテキ」の大根仁が監督を務め、佐藤健と神木隆之介が主人公の最高と秋人を抜群のコンビネーションで演じた。
ナタリーでは、この映画のさまざまな面に焦点を当て、その魅力を紐解く特集を展開中。第2弾として大根と、撮影用の原稿を執筆する形で制作にも携わった小畑の対談を実施。マンガと映画、それぞれの画作りを担う2人に創作論について存分に語ってもらった。
取材・文/宮津友徳 撮影/布川航太
きれいな部屋でものを作る人間は信用出来ない(大根)
──大根監督は脚本の執筆にあたって、小畑先生の仕事場を訪問なさったと伺いましたが、その際の印象はいかがでしたか。
大根 失礼ながらまず思ったのは、きったない仕事場だなっていう(笑)。
小畑 すみません(笑)。
大根 もちろん嫌な汚さじゃないですよ。俺、仕事場がきれいな人って信用できなくて。特にものを作る仕事で、きれいな部屋から何が生み出せるんだっていう。見た瞬間「汚い! 信用できる!!」って思いましたね。これはジャンプ編集部も同じくで、戦場という感じがしました。
──入念な取材のもとで脚本を書き上げられたんですね。
大根 20稿以上書き直しましたね。小畑さんとジャンプ編集部以外にもいろいろなマンガ家さんに話を聞いたりして。内容に関しては基本的にお任せいただいていたんですけど、終盤のターニングポイントになる部分で一箇所だけ「最高ならこうは考えないんじゃないか」と、小畑さんからアドバイスをいただいて。
小畑 最高とエイジのやりとりのシーンだったんですけど、エイジが「自分のほうがこのマンガを上手く描ける」って、病み上がりの最高に代わって線を引いちゃうんです。でもそれをされたら、最高は絶対に悔しがるということは言わせてもらいました。
大根 あれのおかげで映画が成立しました。最初に「バクマン。」の映像化を持ちかけられたとき、実は一度断っているんですよ。ジャンプ誌上でジャンプの内幕ものをやるっていうメタ構造が、この作品のチャームポイントでしょう。ほかの媒体でやることで、その部分が崩れちゃうと思って。ただ改めて読み返してみると、ストーリーの根幹にあるのは青春物語なんですよね。それと俺の座右の書である「まんが道」へのオマージュがそこかしこにちりばめられていたということもあって、やってみようと。
小畑 やっぱり「まんが道」は僕にとっても避けて通れないというか、大好きな作品なんです。手に取ったのは割と遅くて、高校生のときとかだったんですけど。当時「藤子不二雄ランド」っていう全集の1タイトルとして、「まんが道」が連続刊行されていて。マンガ家を目指していた時期とちょうど重なっていたので、毎号すごく楽しみにしていましたね。映画にも「まんが道」に出てくるような、トキワ荘の集まりを彷彿とさせる場面があるじゃないですか。
大根 手塚賞の授賞式終わりに、新人マンガ家が集まって夢を語り合うシーンですね。原作にそういう場面って、明確にはなかったですよね。
小畑 みんなでちょっとした集会をするみたいなエピソードはありますけど、映画のほうが生々しいというかリアル。僕自身そういう経験もありましたし、駆け出しの時期が一番楽しいっていう部分もあったんですよね。あのシーンだけで全編観たいっていうくらいに好きです。
大根 あそこは「トキワ荘の青春」という映画に出てくる、マンガ家たちの宴会シーンのオマージュなんですよ。小ネタとしてチューダー(トキワ荘で好んで飲まれた焼酎のサイダー割り)とかも置いてるんですけど、気付く人だけ気付けばいいかなっていう。
CGアクションはまさに自分の脳内の再現(小畑)
大根 小畑さん、映画を気に入っていただいて、何回も観てもらっていると伺ったんですけど。
小畑 6、7回は観てると思いますよ。
大根 俺より観てる(笑)。自分の描いたものが映像化されるっていうのは、フィルターがかかるというか、客観的に観れない部分があるのかなと思ったりもしたんですけど。
小畑 そんなことはなかったですよ。確かに描いているときは客観的になれない部分もありましたけど、連載が終わって時間も経っていたので距離を置けたというのもあって。最高と秋人の関係性が羨ましいって改めて思いました。こんな相棒がいたら、もう一度マンガ家デビューからやり直してもいいなっていうくらい。
大根 今からですか(笑)。
小畑 あとマンガの作画シーンに、CGのアクションを取り入れているのも斬新でした。
大根 あれは小畑さんに伺った「(マンガを描くのは)地味な作業に見えるけど、頭の中ではすごいことがスパークしてる」っていうのを再現したシーンで。マンガを描いているところをストレートに撮ると地味な画になってしまうけど、その脳内を描くことができれば今まで見たことのない映像になると思ったんです。
小畑 あのシーンは、自分で見ても「作画中の脳内はこうなってるよな」って感じで。あのCGみたいなイメージを、「これが俺の頭の中だ」っていつもアシスタントと共有しています(笑)。
大根 ただ、描き始めるところと終盤のシーンは、肉弾戦というかCGを使わないで地道に絵を描いていく画面構成にしたんです。結局のところ、マンガって線を1本ずつ描いていくことでしか完成しないので。
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Contents Index
About the Movie
「バクマン。」2015年10月3日より全国東宝系にて公開
スタッフ
監督・脚本:大根仁
原作:大場つぐみ、小畑健
主題歌:サカナクション「新宝島」
キャスト
真城最高:佐藤健
高木秋人:神木隆之介
新妻エイジ:染谷将太
亜豆美保:小松菜奈
福田真太:桐谷健太
平丸一也:新井浩文
中井巧朗:皆川猿時
服部哲:山田孝之
川口たろう:宮藤官九郎
佐々木編集長:リリー・フランキー
Information
映画に登場する小畑健描き下ろし原稿約100点を大公開!!
佐藤健×神木隆之介×小畑健鼎談 、小畑健×大根仁など対談記事も充実!
Profile
小畑健(オバタタケシ)
1969年生まれ、新潟県出身。1985年に「500光年の神話」で第30回手塚賞準入選。1989年に週刊少年ジャンプ(集英社)にて「CYBORGじいちゃんG」で連載デビュー。1991年に連載を開始した泉藤進原作による「魔神冒険譚ランプ・ランプ」以降、主にマンガ原作者と組んで活動している。ほったゆみ原作による「ヒカルの碁」で2000年に第45回小学館漫画賞、2003年に第7回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。大場つぐみ原作では「バクマン。」のほか、「DEATH NOTE」の作画も手がけている。
大根仁(オオネヒトシ)
1968年12月28日、東京都生まれ。「劇団演技者。」「アキハバラ@DEEP」「湯けむりスナイパー」などの深夜ドラマを数多く手がける。2011年には自身が演出を務めたドラマ「モテキ」の劇場版で映画監督デビューを果たし、第35回日本アカデミー賞で話題賞(作品部門)に輝く。近作は「恋の渦」、ドラマ「まほろ駅前番外地」「リバースエッジ大川端探偵社」ほか。電気グルーヴの活動を追ったドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」が12月26日より公開。
2015年10月9日更新