コミックナタリー PowerPush - 西義之「魔物鑑定士バビロ」

「ムヒョロジ」の西義之を丸裸に 古屋兎丸との対談で紐解かれるBL嗜好とダークサイド

同性愛っぽいシーンも自然に描ける

西 おこがましいかもしれないですけど、古屋先生と僕の共通点というか近い部分として、キャラ同士の絆を描こうとするときに、同性愛っぽいシーンも自然に描けるというのがあると思うんです。

古屋 変態的な部分がお互いの根底にある(笑)。

西 でも先生は狙ってそういうシーンを描いてるわけではないでしょう?

「帝一の國」2巻

古屋 狙ってるわけではないけど、描きたくなっちゃうんですよね。

西 そうですよね!「帝一の國」で、帝一が光明に「どんなに遠く離れていても心は一緒さ」ってさらっと言うじゃないですか。あのセリフも、帝一っていうキャラに則したセリフになってる。必然性がある気がするんですよ。

古屋 それはあるかもしれないですね。ただそういうのを多摩美だからっていうカテゴリーで括られてしまうと申し訳ないですけど。

西 多摩美はそういうのに触れやすいんですかね。秘密の花園的な。

手前から西義之、古屋兎丸。

古屋 でも言われてみれば、僕も高校生のときはホモっ気があったかもしれない(笑)。当時、美少年の写真がたくさん載っていたJUNEっていう同性愛雑誌を愛読してたんですよ。

西 すごい!僕も小さいころ「ドラえもん」の「のび太の宇宙開拓史」という映画で、のび太とゲストキャラのロップル君が仲良くなるのを「いいですな、こういうの」って思って観てました。友達はみんな「のび太とロップルの関係ってなんか……」って言ってたんですけど。

古屋 美大に行ったのも、綺麗なものが好きっていうところに原体験があるからなのかもしれない。美しいものに性別は関係ないっていうことですよね。

背景がお花畑はまずいんじゃないかって

西 美しいものっていうことだと、少女マンガにも影響を受けているんです。「風と木の詩」がすごく好きで。

古屋 「風と木の詩」は、僕もいまでも読み返しますよ。表現力が素晴らしいんですよね。

西 少女マンガって心情を表現するためだったら、突然背景に川とかが現れても平気みたいなところがあるじゃないですか。そういう演出をしていいんだって。

古屋 感情表現もそうだし、技術的にもありとあらゆる描き方を試していたから。

「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」第58話より、再会したムヒョとロージー。

西 僕も「ムヒョ」でムヒョとロージーが再会するシーンを描いてたとき、アシスタントに「背景にお花をいっぱい咲かせてください」って頼んだんですよ。そしたら「これはまずいんじゃねーか」ってずっとアシスタントがざわついてるんです。

古屋 えっ、なんで?

西 少年2人がお花畑で見つめ合ってるシーンは、同性愛っぽく見えてまずいんじゃないかと。僕はいいよって言ってるのに(笑)。アシスタントが「葉っぱにしましょう。葉っぱっぽく描きます」ってあまりにも懇願するから、それで入稿したんです。けど、それでも担当編集さんは副編集長さんに怒られたらしいです(笑)。

「魔物鑑定士バビロ」第2話より、オズに微笑むバビロ。

古屋 ジャンプで同性愛はなあ(笑)。でも「バビロ」では思う存分描いてる感じだよね。

西 やり過ぎないようにしようとは思っているんですよ。バビロがお弁当食べているシーンとか、最初はお花を背景にパーッと散らそうかと思ったんですけど、最終的には1つか2つにして。少なくしたことで、逆にヤバさが強調されてしまった気もするんですけど。

新しいマンガ家人生の始まり

古屋 今は作画は1人でやってるんでしたっけ。

西 はい。仕上げを嫁に手伝ってもらっている以外は、ほぼ1人で。以前からキャラを描くときは、1人の空間にいたほうが気持ちが乗ってきてたんですよ。人がいるときは手で隠しながらキャラを描いていたくらいで。「バビロ」の場合はもう、ずっと1人でいるっていう状況を生み出したほうがいいんじゃないかと。

「魔物鑑定士バビロ」第1話より。

古屋 いまマンガを描くっていうのは、自分に合ったシステムをどうやって構築するかが重要になってきていると思うんですよね。デジタル化していつでもどこでも作業できるようにしてみたりとか。1人で描く場合とアシスタントと一緒にやる場合では方法論も変わってくるでしょうし。

西 そうですね。マンガを描くっていうこと自体はこれまでとまったく変わらないんですけど、1人でやってみて「新しいマンガ家人生が始まったんだな」っていう気はしますね。落ち着いたらもう1本連載をやりたいという野望はあるんですが、いまは「バビロ」を本当に楽しく描けているので、まずはみなさんにも単行本を手にとって読んでいただければと思っています。

西義之「魔物鑑定士バビロ(1)」 / 2015年2月4日発売 / 432円 / 集英社
西義之「魔物鑑定士バビロ(1)」

人々の心を掻き立て、惑わす不変の欲望に、魔力を持つ呪具で応える一族が存在した。彼らの名は「魔物鑑定士」。マンガ家を夢見る高校生のオズは、同級生の"バビロ"から謎のペンを渡される。そのペンを手にしたオズが体験する恐るべき出来事とは!?

西義之(ニシヨシユキ)
西義之

12月27日生まれ。東京都出身。赤マルジャンプ2004 SPRING(集英社)に掲載された読み切り「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」でデビュー。同年、週刊少年ジャンプ(集英社)の金未来杯に同名の読み切りを出品。読者からの熱烈な支持を受け、2004年から2008年にかけて、週刊少年ジャンプで「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」を連載した。このほかの著書に「ぼっけさん」「HACHI -東京23宮-」がある。現在少年ジャンプNEXT!!(集英社)にて「魔物鑑定士バビロ」を連載中。

古屋兎丸(フルヤウサマル)
古屋兎丸

1994年にガロ(青林堂)より「Palepoli」でデビュー。以後、精力的に作品の発表を続け、緻密な画力と卓越した発想力、多彩な画風で、ヒット作をコンスタントに発表する。主な著書に「ライチ☆光クラブ」「インノサン少年十字軍」「幻覚ピカソ」「人間失格」。現在ジャンプSQ.(集英社)にて「帝一の國」、GoGoバンチ(新潮社)にて「女子高生に殺されたい」をそれぞれ連載中。2015年7月には「帝一の國」を原作とした舞台「學蘭歌劇『帝一の國』-決戦のマイムマイム-」が、東京と大阪で上演される。