コミックナタリー PowerPush - 西義之「魔物鑑定士バビロ」
「ムヒョロジ」の西義之を丸裸に 古屋兎丸との対談で紐解かれるBL嗜好とダークサイド
同じ大学なのにぜんぜん違う生活
古屋 西さんは美大を出て、マンガの制作に活きてることってあります?
西 ないって言ったら怒られますよね……。僕はテキスタイルデザインっていう、繊維を扱う学科だったんです。カレーが300人前くらい作れそうな鍋で、粉を混ぜて染料作ってたりしてて、まあ汚い。課題がキツすぎで目の下にクマが出来てても「どうしたの、目の下に染料ついてるよ」とか言い合ってました。
古屋 染色あるあるだ(笑)。そんなにキツい学科だったんですね。
西 おかげで締め切りに関しては大分鍛えられたので、あんまり動じなくなりましたね。古屋先生は油絵ですよね。締め切りとか厳しかったですか?
古屋 そういう記憶はないんですよね。抽象画とかだと、何が完成かって先生にもわからなかったりするから。追い込まれたらキャンバスを単色に塗って「完成です」って言えば、それでおしまい(笑)。
西 それで講評のときにみんなで「うーん」って議論する感じですか。
古屋 うん。僕がいたのって、どうしてその作品を作るに至ったかっていう経緯のほうを大事にしてるような世界だったんですよ。講評会も、制作意図を理論武装して説明したあとに、「その結果がこれです」って簡単なものを提出する。
西 かっこいい。同じ大学なのにぜんぜん違う生活だったんですね。
「バビロ」は本来の西さんのイメージそのまま
古屋 大学のときからもうマンガは描かれてたんですか。
西 親に反対されていたので隠れて描いてました。自分の中ではマンガ家になるというのは当時から決定していたので、言い方は悪いですけど大学はお遊びだと。真剣に遊んでみんなを驚かせようと思って課題をやってました。普通のプレゼンテーションをするのにアニメーションを作っちゃったり。
古屋 西さんのそういうイタズラっぽい部分とかは「バビロ」にも活きてますよね。
西 単純にひねくれてるんですよ。担当編集さんとの打ち合わせで一番盛り上がるのも、「モテる奴は全員不幸になればいいのに」とかって、幸せな人に対するやっかみ話をしているときなんですね。これ完全にイメージダウンになる気がするんですけど。
古屋 いやいや、イメージそのままですよ。世の中をやっかんでるというか斜に構えている感じ、まさに「バビロ」に出てくるオズ君そのものというか。
西 そう言われて、喜んでいいのか微妙なところですけど(笑)。今の若い子たち全員がオズ君みたいに、世の中を勝ち組負け組っていう穿った視点で見ているわけではないと思うんですけど、そういう側面もあるんだってことに気づいてもらいたいっていうのはありますね。
子供いるけど、マンガのためなら死んでもいい
古屋 僕は西さんが活きるのは、こういう人間の闇の部分とかダークな話を描いてるときだと思ってたんです。以前僕が、「女子高生に殺されたがっている教師の話を描く」って言ったら、「いい本があるんですよ」って少年犯罪の本を嬉々としながらいっぱい紹介してくれましたよね。
西 変なものばかり薦めてしまって申し訳ないです。
古屋 週刊少年ジャンプという枠から飛び出した感がありますよ。前作の「HACHI」がジャンプで始まる前に、「西さんみたいな作家性の人は、月刊とか隔月で腰を据えて自分の世界観をしっかり作り上げるのも手かもしれませんよ」って話をしたじゃないですか。
西 そうですね。でもあのときはジャンプで人気を取る最後のチャンスに賭けたいと躍起になってましたから……。妻子ある身でこんなこと言っちゃいけないんですけど「子供いるけど、マンガのためなら死んでもいいっていう思いでやっていく」っていう話をして。
古屋 だから連載が終わったあとに、落ちこんでるんじゃないかと思って心配してたんです。でも話しかけたら、憑き物が取れたようにとケロッとしていて。その時点で新しい作品を描いてるとはうかがってたんですけど、「バビロ」を読むと活き活きしながら描いたんだろうなっていうのが伝わってきました。
西 「バビロ」の構想自体は「HACHI」が始まる前からあったんです。ただ当時は王道マンガを描こうと担当さんと話していた時期だったので、いったんお蔵入りにして。「HACHI」の連載が終わって1カ月後の連載会議にはネームを提出していたと思います。
古屋 それも週刊少年ジャンプのほうに?
西 そうです。すごく面白いっていう評価はもらえたんですけど、「ジャンプのカラーに合っているか」という話になったみたいで。NEXT!!での連載という形に落ち着きました。
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人々の心を掻き立て、惑わす不変の欲望に、魔力を持つ呪具で応える一族が存在した。彼らの名は「魔物鑑定士」。マンガ家を夢見る高校生のオズは、同級生の"バビロ"から謎のペンを渡される。そのペンを手にしたオズが体験する恐るべき出来事とは!?
西義之(ニシヨシユキ)
12月27日生まれ。東京都出身。赤マルジャンプ2004 SPRING(集英社)に掲載された読み切り「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」でデビュー。同年、週刊少年ジャンプ(集英社)の金未来杯に同名の読み切りを出品。読者からの熱烈な支持を受け、2004年から2008年にかけて、週刊少年ジャンプで「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」を連載した。このほかの著書に「ぼっけさん」「HACHI -東京23宮-」がある。現在少年ジャンプNEXT!!(集英社)にて「魔物鑑定士バビロ」を連載中。
古屋兎丸(フルヤウサマル)
1994年にガロ(青林堂)より「Palepoli」でデビュー。以後、精力的に作品の発表を続け、緻密な画力と卓越した発想力、多彩な画風で、ヒット作をコンスタントに発表する。主な著書に「ライチ☆光クラブ」「インノサン少年十字軍」「幻覚ピカソ」「人間失格」。現在ジャンプSQ.(集英社)にて「帝一の國」、GoGoバンチ(新潮社)にて「女子高生に殺されたい」をそれぞれ連載中。2015年7月には「帝一の國」を原作とした舞台「學蘭歌劇『帝一の國』-決戦のマイムマイム-」が、東京と大阪で上演される。