コミックナタリー PowerPush - 吾妻ひでお×高橋葉介

狂気と洗練のリスペクト対談

手足を拘束されるのはすごく恐ろしい

──お2人がこれまでの長い間、執筆活動を続けてこられた秘訣というか、理由を伺えたらなと思うんですが。

吾妻 それは高橋さんに聞いてください。今でも現役で連載をしてらっしゃるし。

高橋 いや、大先輩の吾妻先生に聞いてください(笑)。私も聞いてみたい。

吾妻 俺は取材で旅行とか病院とか行ってるからね(笑)。ブランクが10年くらいあって、続けられてないんですよ。でもほかにすることがないから、仕方なく描いてる。

──仕方なく(笑)。

吾妻ひでお

吾妻 ええ。まあネタはだんだん尽きてくるんだけど、やっぱり目立ちたいとか賞が欲しいとか、そういう俗物的な感情が消えないというか。

高橋 確かにそれはあるかもしれない。悟っちゃったら終わりだな、という気がします。

吾妻 やっぱりそうですよね。今でも雑誌で特集とか組んでもらうとすごく嬉しいし、他の人の本が重版を重ねているとか聞くと悔しいなあと思っちゃう。常に煩悩に引きずられてるんだよね。今週のヤングマガジンのグラビアは篠崎愛ちゃんだから買わないと、とか。中村静香ちゃんのグラビアも絶対買わないとまずいし、多部未華子ちゃんのドラマは絶対観なくちゃいけないし。パトレイバーの映画も真野恵里菜ちゃんが出てるから観ないと。

高橋 よくご存知ですね(笑)。私、今のアイドルとか全然分からなくて。吾妻先生はやっぱり、現実の女の子がお好きなんですね。

吾妻 そうですよ。

高橋 じゃあロリコンじゃないですね(笑)。

吾妻 ははは(笑)。僕はやっぱりリアリズムが好きというか。マンガでも、自分で取材したものを描いているから。あのね、病院で手足を拘束されるのって、一度経験してみるといいですよ。

「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」収録の「失踪日記-落ち穂拾い-」より。

高橋 いいんですか(笑)。

吾妻 もう、すごく恐ろしい。映画で監禁されるシーンとかあるじゃないですか。あの気持ちがよく分かる。手足が自由に動かないって、こんなに怖いもんなんだと。

高橋 どう考えても精神には悪いですよね。

吾妻 でも病院側には一応、拘束する権利があるんですよ。精神病院の患者って暴れるから。俺も暴れてたら、いきなり後ろから安定剤の注射をギュウってやられて。

高橋 生々しいなあ(笑)。なんでそれを楽しいマンガにできちゃうのか、不思議でしょうがないですね。

吾妻 俺のマンガ読んで自分も病院に入りたくなったって人よくいるんですけど、あれは嘘だからね。エンターテイメントだから、わざと面白く描いてる。

高橋 精神病棟をエンターテイメントにしちゃった人っていうのは初めてでしょうね。花輪和一先生も刑務所の中を楽しげに描いてましたけど。

吾妻 「刑務所の中」はすごいですよね。

やっぱりギャグ描かなくてよかった

高橋 吾妻先生も花輪先生も、自分をネタにして、まさに身を削って描いているのが本当にすごいと思います。手塚治虫先生もそうですけど、自分自身をキャラクターにするっていうのが私にはできなくて。いたずらで同人誌にちょこちょこっと近況とか描いたことはあるんだけど。

吾妻 ああー。僕はマンガの中に自分が入って遊びたいという気持ちが子供の頃からあって、作者が出てくるマンガが大好きなんですよ。楽しそうだなーと思って。でも、自分で描いてみたら全然楽しくない(笑)。

高橋 自分から切り離した別個のキャラクターとして作っちゃえばいいんでしょうけどね。

吾妻 僕は作ってる。元々あんなによくしゃべる、明るい人間じゃないんで。現実ではうつむいて歩いてます(笑)。

高橋 だいたいギャグを描かれる方って、寡黙というか、内向的な方が多いですよね。

吾妻 うん。マンガの中で遊んでると、いくらか気分がよくなってくる。

──マンガの中の吾妻先生、スカートめくったりしてらっしゃいますもんね。

吾妻 そうそう。SF大会で挨拶したら、後でファンの人に、本人は全然面白くない人でしたとか言われて。俺は芸人じゃないんだからさ。

高橋 わー、そんなことまでいちいち言われたらたまんないですね。やっぱりギャグ描かなくてよかったな(笑)。シリアスなもの描いてたら、黙ってれば周囲がミステリアスだとか勝手に言ってくれるじゃないですか。

吾妻 ギャグマンガ家って、本当にあんまり話さない。とり・みきくんとか、たまに会うけど無口なんですよ。

──そうなんですか。よく共同作業や対談をされてるイメージがありますが。

吾妻 うん。俺とは話してくれないんです(笑)。

「まだ若造だね」と言われて

──最後にお互いの活動へのエールというか、今後についてお言葉をいただけましたら。

高橋葉介

高橋 おこがましい気がしてなかなか難しいですが……お互い死なないようにがんばっていきましょう、ってぐらいですね。人間ドックにも全然入ってないし。

吾妻 俺なんか年金払ってなくて(笑)。もうもらえる歳なんだけど、未だにもらってない。そしたらこの間、今度は介護保険料を払えって言われた。

高橋 放っておくしかないですよね。これからどうなるかわからないし(笑)。

吾妻 そうなんですよね。僕はもう、取材旅行とかで貧乏してたんで……その頃から年金払えなくなっちゃって。もう絶対もらえない。

──年金が入ってこない不安から作品が生まれたりするんでしょうか。

吾妻 (笑)今ちょうど描き下ろしで、終末を迎えた地球を題材としたSFを描いてるところで。ちょうど高橋さんの「墓掘りサム」っていうのが作品集に再録されますけど、僕はああいう、世界の終末を描いた物語が好きなんですよ。高橋さんも好きなのかなと思って。

高橋 僕はあんまり……。どうして世界が終わってしまったのかとか、設定をしっかり考えなきゃいけないからめんどくさいんですよね(笑)。「墓掘りサム」も、結局何が起きたのかははっきりわからないようにしていますし。

「マジカル・高橋 葉介・ツアー -高橋葉介初期傑作短編集」収録の「墓掘りサム」より。

吾妻 ああ、なるほどね。「墓掘りサム」はあれだけ高度なアンドロイドを作れる技術があるのに、毒に対する特効薬が作れなかったという、そういう時代背景なんですよね。あのキャラだけでどんどん想像させられちゃって、すごくいい話だと思うんですよ。高橋さんにはホラーもSFも、どんどん描いてもらいたいです。

高橋 ありがとうございます。

吾妻 僕は「ななこSOS」と「スクラップ学園」と書き下ろしを、なんとかがんばります。

高橋 楽しみにしています。

──楽しみです。どうか人間ドックにも行っていただいて(笑)。

高橋 ああ、まあ大丈夫だと思います。この間古賀新一先生に「おいくつですか?」って聞かれて、「59歳です」って答えたら「うーん、まだ若造だね。がんばってね」なんて言ってもらえて、うれしかったですよ。「あ、若造なんだ俺」って(笑)。すごくいい方だったので、またお会いしたいと思ってます。同じことを何度もおっしゃってたのが印象的でしたけどね(笑)。

吾妻 ははは。酔っぱらいも同じことを繰り返しがちですよね(笑)。

吾妻ひでお「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」 / 2015年2月21日発売 / 2484円 / 復刊ドットコム
吾妻ひでお「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」
吾妻ひでお「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」復刊ドットコム通販ではオリジナル特典付き

全編単行本未収録・未発表のウルトラレア作品集登場! 同人誌「シベール」の中でも特に部数が少ない「シベール0号」に収録の「日ヘンの美子ちゃん官能編」や、「シベール1号」収録の「赤ずきん・いん・わんだあらんど」が、ついに単行本初登場! 膨大な作品群の中から作品を精選、豪華装丁で誕生!

装丁:谷口博俊(next door design)

高橋葉介「マジカル・高橋 葉介・ツアー -高橋葉介初期傑作短編集」 / 2015年5月23日発売 / 2484円 / 復刊ドットコム
高橋葉介「マジカル・高橋 葉介・ツアー -高橋葉介初期傑作短編集」
高橋葉介「マジカル・高橋 葉介・ツアー -高橋葉介初期傑作短編集」復刊ドットコム通販ではオリジナル特典付き

怪奇幻想マンガの第一人者として君臨し続けるマンガ家・高橋葉介。今回刊行されるのは1970~80年代にかけての初期作品群の中から美少年・美少女が登場する短編を中心に集め、エロ・グロを排し作品の絵の魅力が伝わる構成で再編集した決定版作品集。同時期の単行本未収録の作品を加え、コンプリートを目指す熱烈なファンの要望にも応えます!

装丁:谷口博俊(next door design)

吾妻ひでお(アヅマヒデオ)
吾妻ひでお

北海道生まれ。1969年にデビュー後、「ふたりと5人」「やけくそ天使」などのギャグ、「パラレル狂室」「不条理日記」などの不条理・SF、「日差し」「海から来た機械」などのエロティックな美少女ものなど様々な作風で各方面から絶大な支持を得る。1979年、「不条理日記」が第10回日本SF大会星雲賞のコミック部門賞を受賞。その後1989年に突如失踪、その顛末は2005年「失踪日記」として発表され、同書は第34回日本漫画家協会賞大賞をはじめ多数の賞に輝いた。近著に「カオスノート」「チョッキン 完全版」など。

高橋葉介(タカハシヨウスケ)
高橋葉介

長野県生まれ。1977年、駒澤大学4年生のときにマンガ少年8月号(朝日ソノラマ)掲載の「江帆波博士の診療室」でデビュー。怪奇と幻想を題材にした深遠な世界観を描き、毛筆とペンを併用した独特の画風で唯一無二の魅力を醸し出す。作品は猟奇要素の強い幻想怪奇マンガが多いが、ブラックジョーク、コメディ、冒険活劇など多岐にわたる。代表作に「夢幻紳士」シリーズ、「学校怪談」ほか、近著に「人外な彼女」など。