コミックナタリー PowerPush - 吾妻ひでお×高橋葉介
狂気と洗練のリスペクト対談
バラードあたりから読まなくなっちゃった
吾妻 今読んでも感じるんだけど、高橋さんはネームのセンスが洗練されてますよね。僕は昔、TVでやっていたアメリカのドラマが好きでよく観ていたんですけど、通じるものがあるように思うんです。
──1960年代に日本でも盛んに放送されましたね。「ミステリー・ゾーン」とか。
吾妻 ええ。「アイ・ラブ・ルーシー」とか「ミスター・エド」とか「ブラボー火星人」とかね。そういう作品に出てくるアメリカンなギャグって、ツッコミが割とソフトなんですよ。日本だとボケた奴に激しくツッコむんだけど、アメリカ人は「ああ、そうなんだ」とか言って受け流しちゃう。高橋さんのマンガにはそういうセンスがあるなと感じたんですよね。どういったものに影響を受けてらっしゃるんだろうと、聞いてみたかったんですよ。
高橋 確かにTVドラマも映画も大好きなんですけど……元々は、もちろん吾妻先生もお好きでしょうけど、筒井康隆さんの小説がルーツですね。中学校に入ったばっかりの頃、「そろそろマンガだけじゃなくて小説を読まなくちゃいけないんじゃないか」という思いが芽生えて(笑)。で、当時のお小遣いで買える本なんて文庫本ぐらいしかなかったから、筒井さんの「にぎやかな未来」を買ったんですよ。表紙は横尾忠則さんが描いた、アングラ風のめちゃくちゃ派手なイラストで。これだったらまさかそんなに真面目な話ではあるまいと思って読んでみたら、すごく面白くて。
吾妻 筒井さんは僕も大好き。高橋さんは確か筒井さん、星新一さん、レイ・ブラッドベリがお好きなんですよね。
高橋 そうです。
吾妻 僕はブラッドベリを読んだら、全然わけがわからなくて(笑)。高橋さんはその後H・P・ラブクラフトの方に行くんだけど、僕はフレドリック・ブラウンとかロバート・シェクリイとか、お笑いの要素があるSFのほうに行っちゃった。
高橋 私もブラウンのSFは読んでましたね。「ミミズ天使」とか「73光年の妖怪」とか……今考えてみたらすごいタイトルだなあ。J・G・バラードあたりから、あまりSFって読まなくなっちゃった。
吾妻 ああー。バラードで嫌になったっていう人、多いですよね(笑)。僕は嫌なのをあえて読むことはせずに、好きなのだけ読んでたな。
奥さんと子供がいる奴なんてロリコンじゃない
高橋 ちょっと根本的な質問になっちゃいますけど、吾妻先生って本当にロリコンなんですか?(笑)
吾妻 (笑)ああー、それを聞かれると困るんだけど……奥さんと子供がいる奴は基本的にロリコンじゃないですよね。
高橋 ロリコンの定義ってよくわからないんだけど、私は勝手に、少女に対して過度な理想を描いたまま大人になってしまった男なんじゃないかなと思ってます。吾妻先生の場合、少女をそんなに理想化していないと思うんですよね。むしろシニカルに見てらっしゃるので。
吾妻 まあ、もちろん好きではあるけど、仕事でやっているという部分もある(笑)。昔一緒に同人誌を作っていた“正しい”ロリコンの人たちは、未だに全員独身ですから。
高橋 正しい・正しくないロリコンってどういうことなのかよくわからないですけど(笑)。むしろ吾妻先生の描かれる女の子って、吾妻先生ご本人なんじゃないかなと思う。マンガの中に、男性の中の女性因子……アニマでしたっけ。「ぼくのアニマ」っていうセリフがあって。
吾妻 ああ、ありましたね。
高橋 やっぱりそうなんだと思って。
吾妻 阿素湖もそうですけど、僕は弱者が強者に負けない設定というか、それを実現するにはどうしたらいいかというのをずっと考えてるんですよ。自分が現実世界で生きにくいから。20歳の頃、高校生にカツアゲされたことあるしね(笑)。すごく恥ずかしかったけど、妄想の中でならなんでもできる。
──女の子にもなれる。
吾妻 なるというか、託してるだけですけどね。僕のしたいことを代わりにやってくれる女の子がいたらいいな、と。
高橋 なるほどね。
吾妻 同じ女の子でも、例えば「やけくそ天使」の阿素湖と「スクラップ学園」のミャアちゃんとは全然違うんですけどね。特に阿素湖は、はっきり弱者を救済する存在として描いてましたし。
ななこやミャアちゃんは今でも描けそう
高橋 そういえば私は今「怪談少年」っていうマンガを描いているんですが、簡単に言うと化け物の姉と真面目な弟の話なんです。なので設定は完全に「やけくそ天使」なんですよ(笑)。事後承諾になっちゃって申し訳ないのですが、また本を送らせていただきます。
吾妻 あ、ありがとうございます。連載中なんですね。僕も「ななこSOS」とか「スクラップ学園」の続きとか、描けたら描くかもしれないな。割と自分の中で死んじゃうキャラクターと、生きてるキャラクターってあるんですよね。
──ななこやミャアちゃんは、まだ吾妻先生の中で生き続けてるんですか?
吾妻 ええ。心の中ではまだ動いてるので、描けそうだなという気がする。高橋さんは、そういうキャラクターが勝手に動くということはありますか。
高橋 あー、どうだろう……。予期しない動きをしてくれるようなキャラクターが出てくれれば助かると思うんですけど、どうやって作ったらいいか全然わからない(笑)。
吾妻 夢幻(魔実也)さんは、基本的に人から頼まれて何かするタイプですものね。
高橋 基本的に働くのが嫌な人なので(笑)。無理矢理出しても動いてくれないから、周りの人に助けてもらっています。あとずっと生き続けているキャラクターといえば、「腸詰工場の少女」に出てくる那由子は、いじめられキャラとして確立してはいますかね。
吾妻 あ、ギャグでよく出てきますよね。僕も大好き。
高橋 「腸詰工場の少女」を描いてるときに、女の子のキャラクターに感情移入すると自分も女の子になっちゃうんだっていうのが初めてわかって。描いてたら変な感じになって、女の子の気分になっちゃうんですよ(笑)。
──へええ。吾妻先生は、自分の描かれた女の子に感情移入することってありますか?
吾妻 僕はあまりないかも。阿素湖なんかは自分を投影しているところもあるけど、基本的に僕の中で美少女というのは、アイドルとして好きになる対象なんですよね。僕自身がアイドルマニアなので。今でも篠崎愛ちゃんのグラビアのスクラップとかDVDがどんどん増えていってて、置き場所に困ってる。
高橋 じゃあいわゆるアニメオタクとか、そういう方とはあんまり接点がないということですか?
吾妻 うん、あんまり話が合わない。2次元好きは、真野恵里菜ちゃんを追いかけたりはしないですからね(笑)。
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怪奇幻想マンガの第一人者として君臨し続けるマンガ家・高橋葉介。今回刊行されるのは1970~80年代にかけての初期作品群の中から美少年・美少女が登場する短編を中心に集め、エロ・グロを排し作品の絵の魅力が伝わる構成で再編集した決定版作品集。同時期の単行本未収録の作品を加え、コンプリートを目指す熱烈なファンの要望にも応えます!
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吾妻ひでお(アヅマヒデオ)
北海道生まれ。1969年にデビュー後、「ふたりと5人」「やけくそ天使」などのギャグ、「パラレル狂室」「不条理日記」などの不条理・SF、「日差し」「海から来た機械」などのエロティックな美少女ものなど様々な作風で各方面から絶大な支持を得る。1979年、「不条理日記」が第10回日本SF大会星雲賞のコミック部門賞を受賞。その後1989年に突如失踪、その顛末は2005年「失踪日記」として発表され、同書は第34回日本漫画家協会賞大賞をはじめ多数の賞に輝いた。近著に「カオスノート」「チョッキン 完全版」など。
高橋葉介(タカハシヨウスケ)
長野県生まれ。1977年、駒澤大学4年生のときにマンガ少年8月号(朝日ソノラマ)掲載の「江帆波博士の診療室」でデビュー。怪奇と幻想を題材にした深遠な世界観を描き、毛筆とペンを併用した独特の画風で唯一無二の魅力を醸し出す。作品は猟奇要素の強い幻想怪奇マンガが多いが、ブラックジョーク、コメディ、冒険活劇など多岐にわたる。代表作に「夢幻紳士」シリーズ、「学校怪談」ほか、近著に「人外な彼女」など。