コミックナタリー Power Push - 「アトム ザ・ビギニング」

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一対談 「天馬とお茶の水の“一番いい時間”」の作り方

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一 対談

取材・文 / 藤津亮太 撮影 / 上山陽介

鼻を引っ張り合うシーンは使い所を考えないといけない(藤咲)

午太郎と博志が生み出したロボット、A106(CV:井上雄貴)。

──原作「アトム ザ・ビギニング」の第一印象を教えてください。

藤咲淳一 今回のオファーで、改めて原作を読み直したのですが、この原作をアニメ化したときにまず大事なのは、A106(エーテンシックス)の自我の芽生えだなと思いました。そういう意味で、どこに重心をおいてアニメ化すべきかがすごく明確な原作でした。そこを縦軸に、本広克行総監督、佐藤監督などのやりたいことをいかに盛り込んでいくかが、脚本家の役割だなと。あとカサハラテツロー先生が何を思われて描かれているかはすごく興味があったので、それを聞き出すことも重要だなと思いました。

午太郎と博志がバイトする便利屋「マルヒゲ」の社長・伴健作(CV:飛田展男)。

佐藤竜雄 僕は最初に企画を聞いたときは「なぜ俺に『アトム』?」と思いました(笑)。そこからカサハラ先生の「アトム ザ・ビギニング」が原作だと聞いて、いろいろ納得したのですが。ただカサハラ先生のマンガは、絵柄は親しみやすいけれど、ガジェット関係はディティールが細かい。アニメにすると大変だぞ、と(笑)。僕が以前マッドハウスで仕事をしていたとき、隣でカサハラ先生の「RIDEBACK」を制作していまして、傍目に見ても大変そうだったので、そこはちょっと緊張しましたね。

──原作は「鉄腕アトム」の前日譚。アトムの生みの親・天馬博士とアトムの後見人になるお茶の水博士の若き日々が描かれます。

藤咲 キャラクターが原作を踏み越えてアニメオリジナルにならないようには気をつけなくてはいけないなと思いました。特に天馬午太郎とお茶の水博志ですね。2人の周囲にいる、原作にオマージュを捧げたキャラクター……例えばマルヒゲ社長などは、原作以上にヒゲオヤジっぽく膨らませてしまってもよいだろうと考えましたが。

劇中で何度も登場する、午太郎と博志がお互いの鼻をつまむシーン。

佐藤 オリジナルの「鉄腕アトム」に出てくる天馬とお茶の水と、若き午太郎、博志をあまりイコールで結び付けなくてもいいかなとは思いました。例えば天馬は、すごく一匹狼な性格なのに、後に科学省長官というお役人になっている。その間にはきっと何かあったんだろうと。午太郎と博志は、いつか距離ができてしまうのかもしれないけれど、この作品では、その手前の一緒にいられる時間を描いている、という意識でいます。

藤咲 2人の“一番いいとき”を描いているという意識で、脚本も書きました。だからこそ、原作で何回も出てくるお互いの鼻を引っ張り合うシーンは使いどころをちゃんと考えないといけないな、と思いました。一歩間違うとラブシーンみたいに見えてしまうかもしれないから。

天馬役の中村くんは、上から言われてもムカつかない感じがある(佐藤)

──カサハラ先生は「こうやって2人は鼻を引っ張り合っているから、鼻が大きくなってしまった」と考えてるようですね(笑)。佐藤監督は演出の観点から、天馬とお茶の水をどう見せようと考えていますか?


天馬午太郎(CV:中村悠一) お茶の水博志(CV:寺島拓篤)

佐藤 2人ともカサハラ先生らしくひょろっとしたシルエットは共通なんですが、午太郎は上から目線もしくは斜に構えている。お茶の水は割とフラットな感じで棒立ち。そういう佇まいはちゃんと描いていきます。

──声の出演は天馬役が中村悠一さん、お茶の水役が寺島拓篤さんです。

佐藤 午太郎は、上から目線のセリフが多いので、どうしてもトゲがあるキャラクターになってしまいがちなんです。それを品良く演じられる人はなかなかいませんね。中村くんはシャープな感じはあるけれど、そういうムカつき要素の出ない芝居ができる人なんです。それが午太郎役をお願いした理由です。寺島くんは僕が監督した「シゴフミ」では太い声で演じてくれたんですが、今回は「こんなにだらしない声もできるんだ」と驚きました(笑)。そのほかの出演者の方も、また新しい側面を出してもらえるようなキャスティングにしたつもりなので、そのあたりも楽しんでもらえればと思います。

藤咲 アフレコはこれからですが、いいチームになりそうなキャストが揃ったと思いますね。

著名人からのコメント / ストーリー&キャラクター 佐藤竜雄×After the Rain 座談会  第2回特集はこちらから

テレビアニメ「アトム ザ・ビギニング」2017年4月よりNHK総合テレビにて放送

ストーリー

大災害後の日本に、未来を夢見るふたりの天才がいた。ひとりは天馬午太郎。もうひとりはお茶の水博志。天馬はその手で「神」を作り出すことを、お茶の水はその手で「友」を作り出すことを夢見て、日夜ロボット研究に明け暮れていた。そしてふたりの友情が生み出した1体のロボット、A106(エーテンシックス)。A106は果たして「神」となるのか「友」となるのか。若き天才コンビは、来るべき未来を垣間見る──。

スタッフ
  • 原案:手塚治虫
  • プロジェクト企画協力・監修:手塚眞
  • コンセプトワークス:ゆうきまさみ
  • 漫画:カサハラテツロー(「月刊ヒーローズ」連載)
  • 協力:手塚プロダクション
  • 総監督:本広克行
  • 監督:佐藤竜雄
  • シリーズ構成:藤咲淳一
  • キャラクターデザイン:吉松孝博
  • 総作画監督:伊藤秀樹
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:朝倉紀行
  • アニメーション制作:
    OLM×Production I.G×SIGNAL.MD
  • オープニングテーマ:After the Rain「解読不能」
  • エンディングテーマ:南條愛乃「光のはじまり」
キャスト
  • 天馬午太郎:中村悠一
  • お茶の水博志:寺島拓篤
  • A106:井上雄貴
  • 堤茂理也:櫻井孝宏
  • 堤茂斗子:小松未可子
  • お茶の水蘭:佐倉綾音
  • 伴俊作:河西健吾
  • 伴健作:飛田展男
    ほか
佐藤竜雄(サトウタツオ)
佐藤竜雄

1964年7月7日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督、演出家。大学卒業後、亜細亜堂で動画を担当した後、演出に転向。1994年に「赤ずきんチャチャ」の演出で脚光を浴び、1995年「飛べ!イサミ」では監督を務め、1996年の年の「機動戦艦ナデシコ」では初脚本。2012年の「モーレツ宇宙海賊」では監督、シリーズ構成、脚本を担当した。そのほか監督としての代表作に「学園戦記ムリョウ」「輪廻のラグランジェ」「ねこぢる草」など。

藤咲淳一(フジサクジュンイチ)
藤咲淳一

1967年8月6日生まれ。茨城県出身。Production I.G所属の監督、脚本家。押井守が主催していた企画会議「押井塾」にて「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の原案となる企画を発表。同作の小説、ゲーム制作にも携わり、テレビアニメ「BLOOD+」では監督、シリーズ構成も務めた。そのほかの主な参加作品として「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢」「ダイヤのA」など。

本広克行(モトヒロカツユキ)
本広克行

1965年7月13日生まれ、香川県出身。CM製作会社を経て、共同テレビジョン入社。深夜ドラマで監督デビューを果たし、「NIGHT HEAD」、「お金がない!」などで注目される。自身が演出した人気ドラマの映画化「踊る大捜査線 THE MOVIE」が大ヒットを記録、その後も続編やスピンオフ作品「交渉人・真下正義」などを手がけた。2012年10月にはアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の総監督を務めた。


2017年3月24日更新