コミックナタリー Power Push - 「アトム ザ・ビギニング」

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一対談 「天馬とお茶の水の“一番いい時間”」の作り方

良きバディだがロボットに対する考えは真逆?

ウマタロウとヒロシ

そんな「鉄腕アトム」の天馬博士とお茶の水博士が、実は学生時代からの親友だった……という設定で描かれるのが「アトム ザ・ビギニング」。国立練馬大学ロボット工学科修士の研究生である2人の天才は、周囲には変人扱いされながらもロボット開発に没頭している。「アトム ザ・ビギニング」は、「アトム開発までの前日譚」でありながら、「ちょっと変わった2人の天才のキャンパスライフ」を描いた青春作品でもあるのだ。

天馬午太郎(てんま・うまたろう)=通称・ウマタロウは自分の発想と技術には絶対的な自信を持つ天才肌、その態度は時に傲慢にも見えるほど。この自信満々のイケメンが、将来バレバレの変装をしてアトムを助けると思うと微笑ましい。

対するお茶の水博志(おちゃのみず・ひろし)=通称ヒロシは優しく親しみやすい性格で、マイペースで時に暴走しがちなウマタロウをいつもフォローする役目。

彼らはなぜかウマが合い、共同で研究を行っている。2人での研究などが上手くいくと、お互いの鼻をつまみ合って心を通わせているシーンが何度も見られるが、これはカサハラテツローによると「こうやって2人は鼻を引っ張り合っているから、将来でかくなってしまう」とのこと(参照:カサハラテツローインタビュー)。こういった小ネタも多く登場するので、「鉄腕アトム」を知っている人は2作品の関連性を考えながら見てみるのもいいだろう。

基本的にはお互いの才能を認め合い、ロボット作りという共通の目的を持つウマタロウとヒロシ。しかしロボットに対する考え方は異なる。それが顕著に出るのが、2人の共同作であるA106(エーテンシックス)を、ロボット同士を戦わせるロボット・レスリングの大会に出場させたエピソードだ。ウマタロウはA106に「相手を派手にぶっ壊せ」と命じるが、A106を「心やさしき科学の子」(このフレーズは言わずもがな、アニメ「鉄腕アトム」主題歌が元ネタ)と呼ぶヒロシは、相手ロボットのメインスイッチやバッテリーだけを狙う戦法でA106を勝利に導く。

その後も「ロボットは人間の友達」とするヒロシと「ロボットは人間を超越した存在=神」とするウマタロウは衝突。些細なことでケンカしつつも結局は仲がいい2人だが、この部分においてはお互いに譲れない様子。

この文章のタイトルには「アトムの本当のお父さんは誰?」と書いたが、生みの親・天馬と育ての親・お茶の水、もちろん2人いてこそのアトムだ。2人が「アトム ザ・ビギニング」時代から「鉄腕アトム」時代にいたるまで「ロボットに心は必要か?」「人はロボットに何を求めるのか?」と考えを出しあったからこそ、アトム誕生につながったと言える。そして、「鉄腕アトム」の頃には距離ができてしまう2人の“アトムの父”が、正面から意見をぶつけていた時代を描くのが「アトム ザ・ビギニング」なのである。

著名人からのコメント / ストーリー&キャラクター 佐藤竜雄×After the Rain 座談会  第2回特集はこちらから

テレビアニメ「アトム ザ・ビギニング」2017年4月よりNHK総合テレビにて放送

ストーリー

大災害後の日本に、未来を夢見るふたりの天才がいた。ひとりは天馬午太郎。もうひとりはお茶の水博志。天馬はその手で「神」を作り出すことを、お茶の水はその手で「友」を作り出すことを夢見て、日夜ロボット研究に明け暮れていた。そしてふたりの友情が生み出した1体のロボット、A106(エーテンシックス)。A106は果たして「神」となるのか「友」となるのか。若き天才コンビは、来るべき未来を垣間見る──。

スタッフ
  • 原案:手塚治虫
  • プロジェクト企画協力・監修:手塚眞
  • コンセプトワークス:ゆうきまさみ
  • 漫画:カサハラテツロー(「月刊ヒーローズ」連載)
  • 協力:手塚プロダクション
  • 総監督:本広克行
  • 監督:佐藤竜雄
  • シリーズ構成:藤咲淳一
  • キャラクターデザイン:吉松孝博
  • 総作画監督:伊藤秀樹
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:朝倉紀行
  • アニメーション制作:
    OLM×Production I.G×SIGNAL.MD
  • オープニングテーマ:After the Rain「解読不能」
  • エンディングテーマ:南條愛乃「光のはじまり」
キャスト
  • 天馬午太郎:中村悠一
  • お茶の水博志:寺島拓篤
  • A106:井上雄貴
  • 堤茂理也:櫻井孝宏
  • 堤茂斗子:小松未可子
  • お茶の水蘭:佐倉綾音
  • 伴俊作:河西健吾
  • 伴健作:飛田展男
    ほか
カサハラテツロー
カサハラテツロー

1967年生まれ。1993年、3年の科学(学習研究社・当時)掲載の「メカキッド大作戦」でデビュー。メカニカルなロボットの描写に定評がある。「アトム ザ・ビギニング」のほかの代表作に「RIDEBACK」「ザッドランナー」「フルメタル・パニック! 0」など。

手塚治虫(テヅカオサム)
手塚治虫

1928年11月3日大阪府豊中市生まれ。5歳のとき現兵庫県宝塚市に引越し、少年時代をここで過ごす。1946年、少国民新聞大阪版に掲載された4コマ作品「マアチャンの日記帳」でデビュー。1950年、漫画少年(学童社)にて出世作となる「ジャングル大帝」の連載を開始。以降「火の鳥」「リボンの騎士」といった歴史的ヒット作を連発し、人気マンガ家としての地位を確立した。1963年、自身の設立したアニメスタジオ「虫プロダクション」にて日本初のテレビアニメとなる「鉄腕アトム」を制作。現代のマンガ表現における基礎を打ち立てた人物として世界的な知名度を誇り、その偉大な功績から“マンガの神様”と呼ばれ支持されている。1989年2月9日胃癌のため死去、享年60歳。

ゆうきまさみ
ゆうきまさみ

1957年北海道生まれ、B型。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビューし、1990年には「機動警察パトレイバー」にて第36回小学館漫画賞を受賞。代表作に「究極超人あ~る」「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」「鉄腕バーディー」など。現在は週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「白暮のクロニクル」を連載しており、単行本は10巻まで発売中。また月刊!スピリッツ(小学館)でシリーズ連載中の「でぃす×こみ」は2巻まで発売されている。

手塚眞(テヅカマコト)

東京生まれ。ヴィジュアリスト。高校時代から映画・テレビ等の監督、イベント演出、CDやソフト開発、本の執筆等、創作活動を行っている。1999年映画「白痴」でヴェネチア国際映画祭招待・デジタルアワード受賞。テレビアニメ「ブラック・ジャック」で東京アニメアワード優秀作品賞受賞。手塚治虫の遺族として宝塚市立手塚治虫記念館、江戸東京博物館「手塚治虫展」等のプロデュースを行う。著作に「父・手塚治虫の素顔」(新潮社)、「トランス位牌山奇譚」(竹書房)ほか。


2017年3月24日更新