コミックナタリー Power Push - 「アトム ザ・ビギニング」

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一対談 「天馬とお茶の水の“一番いい時間”」の作り方

手塚治虫「鉄腕アトム」を原案とした「アトム ザ・ビギニング」がアニメ化され、4月よりNHK総合テレビにて放送される。マンガはカサハラテツローが手がけ、コンセプトワークスとしてゆうきまさみ、監修として手塚眞がそれぞれ参加している今作は、そのタイトルが示すように「鉄腕アトム」誕生までの物語。

アニメでは「踊る大捜査線」「PSYCHO-PASS サイコパス」の本広克行が総監督、「モーレツ宇宙海賊」の佐藤竜雄が監督、「BLOOD+」の藤咲淳一がシリーズ構成を担当している。

コミックナタリーではアニメ化を記念し、全2回の特集を展開。この前編では物語の中心人物である天馬とお茶の水という2人の博士について、「アトム ザ・ビギニング」「鉄腕アトム」を比較して紹介する。また佐藤と藤咲の対談を実施し、カサハラも関わったというアニメオリジナルエピソード、キャスト決定に関する裏話などについて話を聞いた。さらには本広総監督からもコメントが到着している。

アトムの本当のお父さんは誰? 毒親・天馬vs愛の人・お茶の水、学生時代からの因縁に迫る!

「アトム ザ・ビギニング」は、「鉄腕アトム」に登場する2人の博士の若き日を描いた物語……といっても、「鉄腕アトム」は1951年に誕生した作品。なんとなくのイメージでしか「鉄腕アトム」を知らない読者も多いのでは? ここでは「ビギニング」をより深く楽しむため、「鉄腕アトム」「アトム ザ・ビギニング」両作品における2人の博士について掘り下げる。「アトム ザ・ビギニング」に登場するウマタロウとヒロシが、年齢を重ねることで「鉄腕アトム」の天馬博士とお茶の水博士になるという、この設定を頭に入れてから「ビギニング」を観ると、2人のキャラクターや関係性がより面白くなるはず!

文 / 松本真一

アトム=“息子”を捨てた天才・天馬、優しき育ての親・お茶の水博士……2人が見せた愛情

テレビCMなどでしか「鉄腕アトム」を知らない世代には、アトムの生みの親はお茶の水博士だと誤解している人も多いかもしれない。しかし実際は育ての親で、生みの親に当たるのは天馬博士というキャラクターだ。天馬博士はお茶の水博士ほど出番が多くなく、認知度は低いかもしれないが、彼も「鉄腕アトム」における重要なキャラクターなのだ。

もともとアトムは、交通事故死した天馬博士の息子・トビオに似せて造られたロボット。しかし天馬博士はアトムが人間のように成長しないことに気付いて落胆し、サーカスに売り飛ばすという自分勝手な行動を取ってしまう。息子の代わりに作っておいて、気に入らなければ捨てるとは……!

アトムが出演していたサーカスを見て、その少年ロボットがただ者でないことを見抜き、引き取ったのがお茶の水博士。団子っ鼻がトレードマークの科学省長官だ。

お茶の水博士

アトムを引き取ったお茶の水博士は、彼を本当の息子のようにかわいがって人の心や優しさを説く。単に甘やかすだけではなく、アトムが勝手な正義感を振りかざそうとした際には「どうしてもわがままをいうならおまえの電子頭脳をこわすぞ」と厳しい発言をしたことも。

このコマでも相当ヘコんでいるが、このあとも部屋で「でも でもぼくは 正しいと思ったことなのに!」と引きずっていた。かわいそう。

お茶の水博士は平和を愛する人として描かれ、「地上最大のロボット」(浦沢直樹による「PLUTO」の原作としても知られるエピソード)に登場する百万馬力のロボット・プルートウに決闘を挑まれたアトムに対しては「おまえのちからはそんなつまらないことのためにあるのじゃないよ」と諭してる。

「ロボットはあくまで人のために役立つもの、人間の友達」という考え方の持ち主だ。

この画像はプルートウの持ち主・サルタンへのお説教。「地上最大のロボット」の回ではほかにも「もしちからの強いだけがえらいのなら プロレスの選手は世界一えらいことになる」「十万馬力のロボットだってその使い方によっては世界一のロボットになれるのじゃよ」とアトムに語るなど、お茶の水博士の思想が多く出てくるエピソードだ。

天馬博士

対する天馬博士は「ロボットはあくまで人間の奴隷」という考え方。

「ロボットは奴隷という思想の持ち主」で、「息子代わりに作ったアトムをサーカスに売り飛ばす」。この2点だけ見ると、お茶の水博士との対比もあって天馬博士はクソ野郎に見えるかもしれない。しかし本当にそうだろうか?

実は天馬博士、何度かアトムのピンチを救ったこともある。

文字通り「アトムに合わせる顔がない」ということなのか、ちょっと雑すぎる変装で正体を隠している。「会うのは気まずいが、それでもアトムの役に立ちたい」という気持ちが見え隠れして、かわいく思えてこないだろうか。

アトムが青騎士というロボットに破壊され、お茶の水博士から修理を依頼されたときには「アトムはなおったらわしのものだ」と独占欲を見せる。

一度は捨てたアトムに対し、お茶の水博士も引くほどの厳しい条件。そんな執着を見せたかと思えば……。

修理した後には「わしをおとうさんと呼んでくれ」とアトムに頼んでまでいる。

また前述の、百万馬力を持つプルートウにアトムが挑む際には、天馬博士は正体を隠さずにアトムの前に現れ、「話は聞いた」「おまえは百万馬力になりたいのだろう」と、十万馬力のアトムに百万馬力へのパワーアップ改造を施す。アトムに負けてほしくないがゆえの行動だ。

とはいえリスクを伴う改造なのがちょっと困り物だが……。

さらに、プルートウとの戦いでアトムが大破したときには、なんと涙も見せている。

一度は捨てたアトムに、意外にも執着心や深い愛情を見せているあたりは、実に人間的な存在。これでも天馬博士が悪者に見えるだろうか?

著名人からのコメント / ストーリー&キャラクター 佐藤竜雄×After the Rain 座談会  第2回特集はこちらから

テレビアニメ「アトム ザ・ビギニング」2017年4月よりNHK総合テレビにて放送

ストーリー

大災害後の日本に、未来を夢見るふたりの天才がいた。ひとりは天馬午太郎。もうひとりはお茶の水博志。天馬はその手で「神」を作り出すことを、お茶の水はその手で「友」を作り出すことを夢見て、日夜ロボット研究に明け暮れていた。そしてふたりの友情が生み出した1体のロボット、A106(エーテンシックス)。A106は果たして「神」となるのか「友」となるのか。若き天才コンビは、来るべき未来を垣間見る──。

スタッフ
  • 原案:手塚治虫
  • プロジェクト企画協力・監修:手塚眞
  • コンセプトワークス:ゆうきまさみ
  • 漫画:カサハラテツロー(「月刊ヒーローズ」連載)
  • 協力:手塚プロダクション
  • 総監督:本広克行
  • 監督:佐藤竜雄
  • シリーズ構成:藤咲淳一
  • キャラクターデザイン:吉松孝博
  • 総作画監督:伊藤秀樹
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:朝倉紀行
  • アニメーション制作:
    OLM×Production I.G×SIGNAL.MD
  • オープニングテーマ:After the Rain「解読不能」
  • エンディングテーマ:南條愛乃「光のはじまり」
キャスト
  • 天馬午太郎:中村悠一
  • お茶の水博志:寺島拓篤
  • A106:井上雄貴
  • 堤茂理也:櫻井孝宏
  • 堤茂斗子:小松未可子
  • お茶の水蘭:佐倉綾音
  • 伴俊作:河西健吾
  • 伴健作:飛田展男
    ほか
カサハラテツロー
カサハラテツロー

1967年生まれ。1993年、3年の科学(学習研究社・当時)掲載の「メカキッド大作戦」でデビュー。メカニカルなロボットの描写に定評がある。「アトム ザ・ビギニング」のほかの代表作に「RIDEBACK」「ザッドランナー」「フルメタル・パニック! 0」など。

手塚治虫(テヅカオサム)
手塚治虫

1928年11月3日大阪府豊中市生まれ。5歳のとき現兵庫県宝塚市に引越し、少年時代をここで過ごす。1946年、少国民新聞大阪版に掲載された4コマ作品「マアチャンの日記帳」でデビュー。1950年、漫画少年(学童社)にて出世作となる「ジャングル大帝」の連載を開始。以降「火の鳥」「リボンの騎士」といった歴史的ヒット作を連発し、人気マンガ家としての地位を確立した。1963年、自身の設立したアニメスタジオ「虫プロダクション」にて日本初のテレビアニメとなる「鉄腕アトム」を制作。現代のマンガ表現における基礎を打ち立てた人物として世界的な知名度を誇り、その偉大な功績から“マンガの神様”と呼ばれ支持されている。1989年2月9日胃癌のため死去、享年60歳。

ゆうきまさみ
ゆうきまさみ

1957年北海道生まれ、B型。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビューし、1990年には「機動警察パトレイバー」にて第36回小学館漫画賞を受賞。代表作に「究極超人あ~る」「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」「鉄腕バーディー」など。現在は週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「白暮のクロニクル」を連載しており、単行本は10巻まで発売中。また月刊!スピリッツ(小学館)でシリーズ連載中の「でぃす×こみ」は2巻まで発売されている。

手塚眞(テヅカマコト)

東京生まれ。ヴィジュアリスト。高校時代から映画・テレビ等の監督、イベント演出、CDやソフト開発、本の執筆等、創作活動を行っている。1999年映画「白痴」でヴェネチア国際映画祭招待・デジタルアワード受賞。テレビアニメ「ブラック・ジャック」で東京アニメアワード優秀作品賞受賞。手塚治虫の遺族として宝塚市立手塚治虫記念館、江戸東京博物館「手塚治虫展」等のプロデュースを行う。著作に「父・手塚治虫の素顔」(新潮社)、「トランス位牌山奇譚」(竹書房)ほか。


2017年3月24日更新