新番組「Re After Recording」番組収録レポート | 関智一&小林ゆうが「昭和元禄落語心中」の再アフレコに挑戦

アニメ専門チャンネル・AT-Xによる動画配信サービス「AT-DX」内で、新番組「Re After Recording」が5月23日にスタートした。第1回の作品としてピックアップされたのは、キャストの魂込もった演技が話題となったアニメ「昭和元禄落語心中」。番組では与太郎/三代目助六を演じた関智一、小夏を演じた小林ゆうが「昭和元禄落語心中」、「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」の一部シーンの再アフレコに挑戦し、収録後は和気あいあいとトークに花を咲かせた。

コミックナタリーでは、番組収録に密着。8年ぶりに役を演じるという関、小林のアフレコの模様を臨場感たっぷりにお届けする。収録後に行ったインタビューでは、2人に声優という職業の魅力、もう一度アフレコをしてみたい作品について語ってもらった。

取材・文 / 岸野恵加撮影 / ヨシダヤスシ

「Re After Recording」とは

声だけでどれだけの熱量がアニメに吹き込まれているのか。“声優の本職を見せる”ため、アフレコブースでの姿をさまざまな角度で捉えた番組。キャストが過去に出演したアニメの再アフレコに挑戦するアフレコパートに加え、思い出のシーンや当時のアフレコ現場の裏話などについて語り合うトークパートが楽しめる。関、小林が出演する第1回「昭和元禄落語心中」は、前編・後編に分かれており、後編は5月30日に配信開始される。

「Re After Recording」

「Re After Recording」公式サイト

「Re After Recording」収録現場レポート

アフレコ時の緊張感やライブ感を見せることで、声優という職業の魅力を伝え、また作品をより深く楽しめるきっかけにしたい、という思いから企画された「Re After Recording」。記念すべき第1回の作品となったアニメ「昭和元禄落語心中」は、雲田はるこのマンガを原作とし、2016、2017年にそれぞれ第一期、第二期が放送された落語人情物語だ。放送終了から7年の時を経て、与太郎/三代目助六役の関智一、小夏役の小林ゆうが、再びキャラクターへ息を吹き込むべく都内某所のアフレコスタジオへ集まった。

「昭和元禄落語心中」より、与太郎/三代目助六。刑務所服役中に聴いた八代目八雲の落語に感動し、出所直後に八雲のもとへ駆け付け、弟子入りを志願する。天真爛漫だが世間知らずで間抜けな面があるため、八雲から「与太郎」と名付けられるも、芸を磨き真打へと昇進。小夏の父で伝説の落語家・助六の名を継ぎ、三代目の座に就く。©︎雲田はるこ・講談社/落語心中協会

「昭和元禄落語心中」より、与太郎/三代目助六。刑務所服役中に聴いた八代目八雲の落語に感動し、出所直後に八雲のもとへ駆け付け、弟子入りを志願する。天真爛漫だが世間知らずで間抜けな面があるため、八雲から「与太郎」と名付けられるも、芸を磨き真打へと昇進。小夏の父で伝説の落語家・助六の名を継ぎ、三代目の座に就く。©︎雲田はるこ・講談社/落語心中協会

「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」より、小夏。気が強く癇癪持ちだが、素直でまっすぐな性格をしており、亡き父・助六と彼の落語をこよなく愛す。両親を失ったあとは、八代目八雲のもとに身を寄せる。助六の血を絶やしたくないという思いから、父親の名を明かさず、子供を産もうとする。©︎雲田はるこ・講談社/落語心中協会

「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」より、小夏。気が強く癇癪持ちだが、素直でまっすぐな性格をしており、亡き父・助六と彼の落語をこよなく愛す。両親を失ったあとは、八代目八雲のもとに身を寄せる。助六の血を絶やしたくないという思いから、父親の名を明かさず、子供を産もうとする。©︎雲田はるこ・講談社/落語心中協会

今回の収録は、通常のアフレコと同様にテスト、本番の順で実施。ピックアップされたのはアニメ第一期と第二期より、やがて夫婦となる与太郎と小夏のやり取りを描いた9つのシーンだ。まず関と小林は第一期第一話より、小夏の亡き父親である助六を称える与太郎と、ぶっきらぼうに返す小夏の会話シーンに挑戦した。「まったく会ってなかったわけではないけど、久しぶりですね」と和やかに言葉を交わし、マイクの前に立った関と小林。7台ものカメラに取り囲まれるという、通常のアフレコとは異なる雰囲気に少し緊張した表情を見せながらも、久々に演じたとは思えないほど、瞬時に役を自分の中にインストールしていく。

アフレコパートの収録風景の様子。左から小林ゆう、関智一。

アフレコパートの収録風景の様子。左から小林ゆう、関智一。

関が「ムフフフ」と独特な笑い声を放つと、天真爛漫な与太郎というキャラクターが実体を得たかのようにその場に立ち上がる。一方で小林も、落ち着いたトーンのクールな低い声で、小夏に生命を吹き込んだ。テストを終えると、関は小林に「大丈夫ですか、やりづらくないですか?」と声をかけ、小林のマイクの位置を微調整するよう番組スタッフへ依頼していた。「当時の気分に戻るのが難しいよね」と関が小林に話すと、小林も「8年ぶりになりますよね……」と返し、関は「そんなに前なの!?」と驚いた表情を見せる。

左から関智一、小林ゆう。

左から関智一、小林ゆう。

その後も小夏が妊娠したことを与太郎に告げ、与太郎が「その子の父親になれねぇか?」と小夏に申し出るシーンや、親分に啖呵を切った与太郎に対して小夏が怒るシーン、八雲との親子会を前に「失敗しませんように」と小夏が祈るシーンなど、次々に収録が進んでいく。関と小林は終始お互いに配慮しながら、真剣な表情で息を合わせて演じていた。

関智一

関智一

小林ゆう

小林ゆう

第二期第三話のシーンでは、小林が言葉のニュアンスを丁寧に確認する場面も。小夏が与太郎へ「八雲とも助六とも違うアンタの落語がこれからどうなるのか 見てみたくなったんだ」と伝える重要なセリフだけに、隅々までしっかりと表現したいという小林の思いがうかがえた。

小林ゆう

小林ゆう

台本のページをめくるタイミングにまでも、2人は繊細に気を配っていく。通常アニメのアフレコは、完成前の映像に合わせてアフレコされることが多いが、今回は完成されたアニメ映像で収録。声を合わせるのは口の動きをより意識する必要があるため、さらに緻密さが要求されるであろう。それは素人目にも、通常のアフレコより難しそうに感じられた。また今回は番組の初回収録ということで、関が番組スタッフを気遣い、声優が普段行っている映像の確認方法など、現場での収録について説明をする場面も。関のベテランらしい視野の広さと、物腰の柔らかさが印象的だった。

関智一

関智一

最後にアフレコされたのは、第二期の第十話より小夏が与太郎の子を妊娠したことを本人に伝える、心温まる場面だ。妊娠を知りポロポロと感動の涙を流す与太郎を、関は顔をゆがめて熱演。小林も「家族が増えるよ」と話す小夏を、優しい笑顔と声色で表現した。また与太郎がもらってきた団子を口に頬張る描写では、関と小林はまるで本当に団子が口の中に入っているかのように頬を動かし、咀嚼する様子をリアルに表現していた。

関智一

関智一

小林ゆう

小林ゆう

収録を通して、最初は距離のあった小夏と与太郎が次第に心を通わせて欠かせない伴侶となっていく過程が、2人の熱演によって温度を持って伝わってきて、胸が熱くなった。また「当時のアニメ本編ではどんな演技だったかな?」「この前にどんなやり取りがあったんだっけ?」とさまざまな思いが込み上げ、アニメ「昭和元禄落語心中」を観返したい思いにも満たされた。

トークパートでは関と小林が、再びアフレコに挑んだ感想や、2018年に亡くなった音響監督の辻谷耕史氏との当時のやり取りについて語った。また八雲役を演じた石田彰とのエピソードや、声優として活動するうえで意識していることも明かしている。

関智一×小林ゆうインタビュー
トークパートの収録風景の様子。左から関智一、小林ゆう。

トークパートの収録風景の様子。左から関智一、小林ゆう。

──収録の様子を拝見して、改めて声優という職業の奥深さや、おふたりのプロフェッショナリズムを感じました。番組に参加していかがでしたか?

小林ゆう たくさんのカメラがあって緊張したんですけど、関さんが隣にいてくださることで本当に安心できました。関さんの余裕と安心感に、すごく助けていただいて。そして関さんの与太郎さんがいてくださったからこそ、私も小夏さんになれたと思っています。本当に素敵な時間を過ごさせていただきました。

関智一 視聴者の方は普段、アフレコをしている僕たちの背中を見る機会はあると思うんですけど、収録中の表情や、どういうふうに台本と向き合いながらやっているのかは、あまり見られないですよね。番組ではそういう姿もしっかり観られると思います。

関智一、小林ゆう。

関智一、小林ゆう。

──ありがとうございます。改めて、声優という職業の魅力は、どんなところにあると思いますか?

 やっぱり、姿形にとらわれずいろんなものになれることだと思います。仮に俳優が10年前にやった役をもう一度やろうとしたら、見た目も変わってしまうし、少しパロディ感が強くなってしまうと思うんですね。でも我々は声だけだから。まったく一緒というわけにはいかないですけど、そんなに違和感なくやれるところが面白いし、醍醐味なのかなって。また性別を超えるのみならず、動物や無機物を擬人化して演じることができるのも面白さだと思います。

小林 私も同じことを考えていました。本当にいろいろな存在を演じられるんですよね。それがたとえ物であっても。例えば今座っている、このお椅子にだってなれますし。

 (椅子になりきって)痛いよう、痛いよう。座られて重いよう。

小林 (椅子を撫でながら)ごめんよう、ごめんよう。(少し腰を浮かせて)どうだい?

 あ、いいねえ。

小林 よかった、ありがとう。

──阿吽の呼吸で、ありがとうございます(笑)。

小林 関さんって本当にすごいですよね。大先輩なのに、すぐにこうやって付き合ってくださって……。

 (笑)。

小林 こうして何にでもなれるということに憧れて、この仕事を志した部分もあります。関さんが先ほどの収録の際におっしゃっていたんですけど、どうしたって完成したものが8年前に存在しているので、今回放送から8年経った後にやるにあたって、どう演じようか考えられたと。私も同じように感じたんです。小夏さんが持っている気持ちの核の部分は同じなんですが、今日改めて演じさせていただいたら、また違う部分も出てきたんですね。そういうものに出会えたこともうれしいです。関さんがいらっしゃるから、どこか違うところには行かず、ちゃんとここにいることができている。そういう自信も常に感じていたと思います。

 うん、お互いにね。

関智一、小林ゆう。

関智一、小林ゆう。

関智一、小林ゆう。

関智一、小林ゆう。

──今回のように、もう一度アフレコをしてみたい作品はありますか?

 どうでしょうね。我々はなんだかんだ、そのときそのときで精一杯やっているので、当時を超えるのは難しい部分があるんですよね。新たなアプローチで向き合う……例えば演出を変えてやってみるとか、意味合いがあるとやりやすいですし、やりがいを見出せる気がします。

小林 そうですね。当時は当時で宝物ですし、今日は今日でまた違った宝物ができたので……。自分が出演していなくても素敵な番組だと感じていたと思うのですが、第1回にこうして関さんと呼んでいただいたこと、本当に感謝しています。

 あ、でも、デビュー作は少しやってみたいかな。初めて主役を演じた役とか。

小林 ああー!

 今やっても新鮮さはないし、まぶしさや初々しさは敵わないと思うんですけどね。でも今の自分がどうやるのかは気になりますし、面白くなる気がします。

小林 素敵ですね。私は、もし叶うなら、ほかの作品の別の役柄でも、関さんと掛け合いをしてみたいです。いろいろな作品でご一緒させていただいているので、できればまた関係性の深い役柄で。……って、私が関さんを独占しているみたいですね。勝手にすみません!

 (笑)。それも楽しそうだね。これから声優として活躍していく方々は、僕たちとはスタイルがまた変わってくるとは思うんですけど、声優を目指している方たちにとっても、参考にしてもらえる番組になったらいいなと思います。

関智一、小林ゆう。

関智一、小林ゆう。

プロフィール

関智一(セキトモカズ)

9月8日生まれ、東京都出身。代表作は「ドラえもん」(骨川スネ夫役)、「機動武闘伝Gガンダム」(ドモン・カッシュ役)、「PSYCHO-PASS サイコパス」(狡噛慎也役)、「のだめカンタービレ」(千秋真一役)、「鬼滅の刃」(不死川実弥役)、「呪術廻戦」(パンダ役)、「ゴールデンカムイ」(海賊房太郎役)など。声優のほか、俳優やラジオのパーソナリティとしても活躍し、「劇団ヘロヘロQカムパニー」では旗揚げメンバーとして座長も務める。

小林ゆう(コバヤシユウ)

2月5日生まれ、東京都出身。代表作は音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」(東方天乙統女役)、「進撃の巨人」シリーズ(サシャ・ブラウス役)、「銀魂」シリーズ(猿飛あやめ役)、「デジモンゴーストゲーム」(月夜野瑠璃役)、「ダンジョン飯」(シスル役)、TVドラマ「FBI特別捜査班」シリーズ(マギー・べル役)など。

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