アニメ「アルスの巨獣」オグロアキラ監督×大槍葦人対談|絵の魅力を綿密に生かした、構想5年のファンタジー大作がここに (2/2)

ジイロがクウミを助けるのではなく、クウミがジイロを救う話(大槍)

──そうしてクウミを中心にしてから、ジイロの扱いはどう考えられたんですか?

オグロ 「合体して戦う」っていう設定は最初からありましたっけ?

大槍 ありました。ただ、合体じゃなくて、幽霊みたいに取り憑く設定だった。でもそうやって画面の中に幽霊みたいにずっといるのは、ちょっとウザいかもね……って話になって(笑)。

オグロ そうだ、そうだ。絵の設定が先にあったので、表現の形を変えるとしても、やっぱり合体して戦うことは必要かな、と。

クウミとジイロの合体シーン。
クウミとジイロの合体シーン。

クウミとジイロの合体シーン。

──キャラクターが十字に切り裂かれた絵はインパクトがありました。

オグロ あそこは俺が考えたんです。世界の設定を考えたときに、なるべく物理的に融合してほしいなという考えが、まずあったんですよ。そうするとメカメカしい感じよりも、もうちょっと科学技術が先に進んでいる、ファンタジーなんだけど、超SF的な世界とも取れるような表現でやったほうが面白いかなと思った。

──なるほど。

オグロ 少し話がずれましたけど、ジイロの扱いでもう1つ考えたのは、クウミを引き立てるために、一番効果的なキャラクターにすることですね。そこからどんどん、死んじゃった奥さんの話とか、ジイロの背負っているお話を俺のほうで膨らませていった。そういうふうに話を考えつつ、クウミの保護者的立場でいてくれると面白いかなと考えていましたね。

大槍 ただ結局は、ジイロがクウミを助けるんじゃなくて、ジイロがクウミに救われる話なんですよね。

オグロ そういうラストから逆算して1話を作り始めたので、ジイロは最初飲んだくれている、軍人あがりのイケすかないおっさんからスタートすることになったんです。(資料の衣装を見ながら)だから原案のこの衣装も、これも使ってないですもんね。ジイロの衣装関係は、話が固まってから改めてお願いしたような気がするな。

大槍 細かくいろいろありましたし、そもそも彼が帝国にいた時代の服しかなかったんで、実際のお話に沿った冒険をするための服は、そこから考え始めた感じですね。帝国服はクウミのものもデザインしてあったんだけど、クウミが帝国に属することはなかったんで、これも結局使わずじまいで。

ジイロのイメージイラスト。

ジイロのイメージイラスト。

クウミのイメージイラスト。

クウミのイメージイラスト。

──監督が参加されてから、追加で生まれたキャラは?

オグロ ロマーナは途中で増やしたキャラでしたね。あとメラン、ミャアはいたのか。……いや、ミャアは頼みましたっけ?

大槍 最初からああいう、亜人のキャラはいた気がするけど、デザインがちょっと違ってたかも。パーティの中でも見た目のバランスを取るために、けっこう細かいメンテナンスを行った気がします。

ロマーナのイメージイラスト。「七草のロマーナ」の二つ名を持つ旅の医者。

ロマーナのイメージイラスト。「七草のロマーナ」の二つ名を持つ旅の医者。

──ミャアといえば頭の上のネコですが、これは?

大槍 海法さんが「頭の上に動物を乗っけているのが当然」みたいな感じで脚本を書いてくるから、うーん……って悩みながらあの形に(笑)。ただ、そうやって描いただけなので、そもそもこの猫は生きているのかそうじゃないのかとか、よくわからない部分もあって。

オグロ そこらへんはあえてふわっとさせてますよね。

ミャアのイメージイラスト。行商として旅をする、“ニャ”が口癖のカブリ族。

ミャアのイメージイラスト。行商として旅をする、“ニャ”が口癖のカブリ族。

女の子の脚、とにかくそこです(大槍)

──そんな大槍さんの絵を、アニメの絵として描いていく際のこだわりはどんなところに?

オグロ 原案だけじゃなく、アニメ用のキャラクターデザインを起こすときの調整も、まるっきり大槍さんに任せていました。俺がこだわったのは、実際に現場で作業が始まってからですね。あがってきた原画に「脚はもっとこのぐらいです!」と、直接上に紙を載せて、指示を描き込んでしまう。スケジュールを考えると、そのほうが早く進められるので。

大槍 僕のほうでは、女の子の脚だけはちょっとこだわりがあったので、とにかくそこですね。普通の描き方と、ちょっと違うんですよ。でも、キャラクターデザインですごくうまく描いてくれたなって思ってます。

──(資料を見ながら)もう少し細かく解説していただくとすると……太もものラインですか?

大槍 なんて言うんですかね、O脚じゃないんだけど……。

オグロ 脚と脚が合わさるところのラインが、通常とは違う。

大槍 そうですね。そこと、太もものラインとひざ下のラインの軸が微妙にちょっとずれてる感じで描いてほしい。描きましょう(ペンを手に取って、資料に描き込む)。こういうふうに、普通はラインをつなげるように描くんですけど、僕としてはこう、ズラして描いてほしい【※画像参照】。そのほうが色気が出るというか、生っぽくなるんです。この脚のラインだけは、どうしても意識してほしいこだわりです。

“カンナギモード”のクウミのイメージイラスト。

“カンナギモード”のクウミのイメージイラスト。

取材中、大槍がペンで描き込んだ資料のアップ。ひざ下は普通、太ももから膝までのラインに沿って線を引くが、大槍は軸を微妙にズラしてひざ下を描いている。

取材中、大槍がペンで描き込んだ資料のアップ。ひざ下は普通、太ももから膝までのラインに沿って線を引くが、大槍は軸を微妙にズラしてひざ下を描いている。

オグロ それにおしりがくっつくと完璧なんですよね、大槍さんのキャラは。

大槍 ははは(笑)。あと手の指ですね。大人っぽい、関節のハッキリした指じゃなくて、女の子の指は赤ちゃんみたいな感じで、ソーセージみたいに先のとんがった形にしてほしい。それぐらいかな?

──いい話です!

大槍葦人

大槍葦人

広げた風呂敷がどうなるか、自由に想像してもらえたら(オグロ)

──キャラクターの作画も大変だったと思うのですが、もう1つこの作品、食事シーンも多いじゃないですか。クウミの大食い設定もあって。あれは、どういう意図があって入れているのでしょう?

オグロ シナリオ段階からそうなっていたものではあるんですが、俺の中では食べるシーンって、数少ない生きてる感じがする、生活感の象徴なんです。だから手間がかかるので作画の人たちは嫌がるんですけど、いっぱいあったほうがいいかな、と思ってはいました。

大槍 食べるシーンは文化が出るところですしね。

第6話より。

第6話より。

オグロ そうですね。大槍さんも海法さんもそのへんはこだわっていて。

大槍 異世界なんだから、一般的なほかのアニメの食い方と同じなのはちょっと変でしょ? と。食べるものもだし、作法も違わないと。

オグロ 確かに。ただ、後半になるとお話がどんどん動くから、食事してる場合じゃなくなって、そういうシーンも減るんだよな……(笑)。

オグロアキラ監督

オグロアキラ監督

──中盤以降はどうなっていくのでしょう? 今後の見どころは。

オグロ 終盤に向けての見どころは、やっぱりクウミがこれからどうなっていくのか。

大槍 あと、微妙に世界の秘密がわかってくる。

オグロ ですね。秘密がある程度わかって、そして、そろそろ過去を振り返ることも終わり始めます。あとは各キャラクターがそれぞれ、どう成長していくか。

大槍 いろんな人がどういう目的で動いているのか、だんだんわかってくる感じですね。

オグロ あとは広げた風呂敷がどうなるか。そこは皆さん、ご自由に想像していただければ(笑)。見終わったあとで「あっ!」と思うような、小ネタもいろいろ仕込んでいますので、まずは最後まで楽しんでいただいて、そこからいろいろと考えてもらえたらうれしいですね。

左からオグロアキラ監督、大槍葦人。

左からオグロアキラ監督、大槍葦人。

プロフィール

オグロアキラ

アニメーター、演出家、アニメーション監督。「勇者指令ダグオン」「勇者特急マイトガイン」「ジェネレイターガウル」のキャラクターデザインを担当。監督作品に「なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA-」がある。

大槍葦人(オオヤリアシト)

マンガ家、イラストレーター、ゲームクリエイター。1996年に「LITTLEWITCH」で商業誌デビュー。NOCCHI名義で、富野由悠季の著書「密会~アムロとララァ」(角川スニーカー文庫)の表紙、挿絵を担当する。2011年に「絵師100人展」第1回に参加。2013年に初の個展「大槍葦人*少女画展」がArt Complex Center Tokyoで行われた。