ナタリー PowerPush - 坂道のアポロン
菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会
いかに素材の味を活かした料理を作るか
──監督にとっては初めての原作ものということですが、作る過程において、今までやってきたオリジナルものとの違いってどんなところですか。
全然違いますよね。今までは食材から自分で作って、自分で調理してたんですけど、今回はよくできた食材を渡されて、さあ料理してくれということだから。なまじ原作がよくできてるので難しいっていうのはあります。もちろん自分流に勝手な味付けをしてしまう、という作り方もあるんだけど、そういうのは素材が美味しくないときにやったほうがいいと思うんで(笑)。今回せっかく上物の食材なんだから、うまく塩を振って、素材の良さをうまく活かしながらアニメにするということをいちばんに考えてますね。
──でもそれは、原作をそのままアニメにするということとは、また違いますよね。
もちろん。どこを抽出してどう構成して、どこを省略してどこを活かすか。調理法しだいで食材が美味しくなくなっちゃったり、味付けすぎてしょっぱくなっちゃったりしちゃうんで、元の味の良さをどうやって活かしながら適度に調理するか。生のまま食っても面白くないからね。いかに素材の味を活かした料理を作るかに腐心してます。
手で描いたがゆえの独特の生々しさ
──その料理の仕方にいちばんこだわっているのは、やはり演奏シーンだと思うのですが、生演奏している姿を動画に撮って、それを原画に起こす作業をされている、とお聞きしました。これは、ものすごく大変なことだと思うのですが……。
ええもう、とてつもなく大変です。スタッフが本当に頑張っています!
──CGを使うという選択肢もあったわけですが、なぜあえてアナログで?
実際は、労力も考えて一部はCGも使っているんですが、やはり全面CGにしてしまうとすごく嘘っぽいというか、人形が動いているような感じになってしまうんですよ。テクノならそういうのもいいけどね(笑)。
──生のジャズには、CGは向いていない、と。
演奏シーンって、物語上でもすごく大事な役割を果たしているんです。例えば文化祭のシーンでも、2人に溝ができるんだけど、演奏をすることで気持ちがつながっていく。ただ演奏してるってわけじゃないんで、人形みたいな動きじゃダメなんです。あと、手で描いたがゆえの独特の生々しさみたいなものが出るんですよ。本当にこのキャラクターが演奏しているような感じ。ただ、動きが合ってるねっていうだけじゃなくてね。まあ、コストも労力もかかるんですが、アポロンでここをちゃんとやらんと興ざめだろうということで頑張ってもらっています(笑)。
長いカット割りのほうがジャズらしい
──監督のアニメーションって、音楽のテンポと映像のカット割りを合わせたり合わせていなかったりするのを感じていたんですが、シンクロさせる/させないのが気持ちいいっていうジャッジはどこでされるんですか?
すべてその場その場で。テンポが合うのが気持ちいい時もあるし、合いすぎると逆につまんなくなる時もあるし、小節できれいに切ったりするときも、ズラすときもあるし。メソッドではなく感覚的なものですね。音楽がそうであるように。
──都度都度なんですね。「アポロン」は4ビートの曲が多くて今までとはちょっと違うと思うんですが、それは映像にどういった影響を及ぼすんでしょうか。
4ビートの映像になってるかどうかは分かんないけど(笑)。たしかにビート感として、ロックのほうがカット刻みが細かい気がしますね。ジャズはパッパッと割っちゃうと合わない感じがします。演奏シーンをもっと細かくカット割るっていう手もあったんですけど、やってみたらジャズじゃねえなって感じがして。
──カメラがパッパッと変わるのは、ジャズっぽく見えない?
そうなんですよ。あとはその作品でなにを表現しているかにもよるんで、例えば映像を細かくカットアップしてカッコよく見せたいときもあるし、そうじゃないときもあるし。「アポロン」の演奏シーンの場合だと、キャラクターが本当にここで演奏してるみたいっていうのを見せたいっていうのがあって。それはあんまり細かくカットを刻んでしまうと、カッコいい映像の連続になってしまって、本当にキャラがそこにいて演奏しているような感じがしなくなっちゃうんで。
──何を見せたいかがまずあるわけですね。キャラの体温が伝わるのは長いカット割りだった、と。
そうですね。よく若いクリエイターに「ビバップみたいなのってどうやったら作れるの」って聞かれたりしますけど、やっぱりロジックだけで作ってるんじゃないんで、説明しがたいものがあって。だいたいマニュアルとかロジックで作れるようなものは、たいしたモンじゃないよ(笑)。
──現場の熱気という意味では、「アポロン」の録音現場はどんな雰囲気ですか?
音楽の収録は、毎回が学園祭のような感じで(笑)。今回は演技指導まであるし、ちょっと普通の録音とは趣が違いますね。
──音楽の演技指導というのは、具体的にはどんな指示があるんですか。
「好きな女の子が見に来てて、最初は調子が出ないが、ピアノにバンバン煽られて何くそと(ドラムを)叩き始める」みたいなね。そういう演奏上のお芝居をミュージシャンにやってもらって、毎回カメラ10台くらい使って素人撮影隊が大わらわで撮ってます(笑)。あ、裏話をひとつ。本編に出てくるロックバンドのオリンポスの演奏は、「ビバップ」の音楽を演奏していたシートベルツにやってもらってます。今堀恒雄さんという超絶うまいギタリストに、「ギター覚えたての奴が目一杯テンパって弾いてる感じ」とかをやってもらったんだ(笑)。
オンエア情報
初回放送:2012年4月12日(木)25:10~
以降毎週木曜24:45~フジテレビ「ノイタミナ」にて放送。ほか各局でもオンエア。
原作:「坂道のアポロン」小玉ユキ(小学館「月刊flowers」連載)
監督:渡辺信一郎
脚本:加藤綾子・柿原優子
キャラクターデザイン:結城信輝
総作画監督:山下喜光
音楽:菅野よう子
アニメーション制作:MAPPA/手塚プロダクション
本年、第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞したマンガ「坂道のアポロン」を、アニメ業界随一の音楽通で知られる渡辺信一郎監督が渾身のTVアニメ化!さらに、映像音楽業界で第一線を走り続ける菅野よう子が作品の音楽をトータルプロデュース!ジャズの名曲と共に、60年代のどこまでも純粋で眩しい青春がよみがえる!
収録楽曲
1. KIDS ON THE SLOPE / 2. Chick‘s Diner / 3. Moanin‘ / 4. Bag‘s Groove / 5. Blowin' The Blues Away / 6. Satin Doll / 7. YURIKA / 8. Rosario / 9. Curandelo / 10. Transparent / 11. Run
CD収録曲
- アルタイル
- アルタイル<backing track>
初回限定盤収録内容
Music Video収録DVD
初回盤/通常版共通特典
小玉ユキ先生 描き下ろし「坂道のアポロン」オリジナル・ジャケット仕様
渡辺信一郎(わたなべしんいちろう)
1965年、京都府生まれ。1994年にOVA「 MACROSS PLUS」で監督デビュー(共同監督)。代表作はTVシリーズ「COWBOY BEBOP」、映画「COWBOY BEBOP THE MOVIE」、TVシリーズ「SAMURAI CHAMPLOO」、OVA「ANIMATRIX / KID'S STORY, A DETECTIVE STORY」、映画「GENIUS PARTY / BABY BLUE」など。