「自分だけじゃないんだ」と思えるうれしさ
──作中のキャラクターを描くうえで、心がけていることはありますか?
鈴木 デリケートな題材を取り扱っているので、気を付けても気を付けきれない、と思って描いています。太田母斑だけではなく、神田先生が抱えている相貌失認に関しても、当事者の方に取材させていただいています。あとは、白河先生のように“持ってる”ように見える人にも、その人なりの悩みや苦しさがあるとか、寄り添って描くようにしていますね。
──有村さんは、瑠璃子以外で惹かれたキャラクターはいますか?
有村 やっぱり神田先生ですよね。カッコいいのはもちろんなんですけど、見た目ではわからない病気を持っているのは、どれほどしんどいことだろう、と考えてしまいます。そんな中で、相手の中身をしっかり見てくれる人柄が素敵で。白河先生のことを救ってあげてほしいな……と応援したい気持ちがあります。
──有村さんご自身は、見た目へのコンプレックスを打ち明けている人はいましたか?
有村 整形するまで、あまり話をする相手はいなかったですね。Twitterで情報発信しているアカウントを自分で見て回って、自分だけで考えていました。あ、YouTuberの整形アイドル轟ちゃんの本(※)には励まされました。「特別美人になりたいとか、人からちやほやされたいとかじゃなくて、自分の思う“普通”になりたかったんだ」ということが書いてあって。こんなふうに思っていたのは、私だけじゃなかったんだ、って思いました。自分にそこまでの力があるとは思ってないんですけど、私の発信を見ている人にも、「自分だけじゃないんだ」と思える人が、1人でもいてくださったらすごくありがたいし、その言葉をもらって私もがんばりたいです。
※整形アイドル轟ちゃん「可愛い戦争から離脱します」(幻冬舎)
鈴木 すごく素敵ですね。以前、高校生の進路指導のボランティアをさせていただいたとき、生徒たちが「自分にはいいところなんか1つもない」と言うのを聞くことがあって。「そんなことないよ!」と言ってあげたいんだけど、その言葉が説得力を持つには、私自身が変わらないといけない。「青に、ふれる。」を描くうちに、コンプレックスに対する自分なりの解消の仕方とか、自分の心のご機嫌の取り方への考えを深められてきたかなあとは思っているんですが。
──作品が巻を重ねることで、鈴木さんの気持ちがポジティブになった部分もありますか?
鈴木 それは、すごくあります。マンガ家って、ネガティブなものをいかにポジティブに、プラスに転じていくかを描くことも仕事の1つだと思っています。
「私なんか」を少しずつ減らしていけるマンガ
有村 読んでいて、一番心が苦しくなったのが、喫茶店でバイトをしていた瑠璃子がお客さんにひどいことを言われるエピソードなんです。「慣れてるので平気です」と笑った瑠璃子に対して、神田先生が「慣れなくていいし、平気になんかならなくていい」って言うじゃないですか。私は職業柄、見た目やいろいろなことを評価されるのは当然だなと思って暮らしていたんですけど、嫌なことは嫌って言っていいんだなあと、怒ってもいいんだなあと、背中を押された気持ちになりました。
──これは、鈴木さんご自身が経験したことなんでしょうか?
鈴木 私も、有村さんや瑠璃子と同じで、怒りを出せなかったんですよ。「こういうこと言われてさ、傷ついてさ」って、ずっと周りに言えなかった。だから、怒ってくれる人がいたらすごく幸せだったなと思って描きました。
有村 発売中の3巻まで読ませていただいたのですが、この後どうなるか気になって、早く続きが読みたくてたまらないです!
──最後におふたりから、「青に、ふれる。」に興味を持った方へのメッセージをお願いします。
有村 瑠璃子って、「私なんかが……」って考える子ですよね。私自身も「私なんかがいいのかな」と考えてしまいがち。整形後でも全然あります。それを少しでもなくしたい、前向きになりたいという気持ちで生きています。「青に、ふれる。」は、そんな「私なんかが」を少しずつ減らしていけるマンガです。
鈴木 私自身がすごく自分に自信がなくて、自分が10代の頃に読みたかったマンガを描いています。自分を好きになろう、自分に自信をつけようと言われても、私は「難しいよ」と思っちゃうほうなんですね。でも、嫌いなことをやめるとか、ココアを作るときに……スプーン2杯でいいところを3杯入れるみたいな小さな楽しみを増やすとか、そういうことを大事にしています。人それぞれが感じて、考えて、ゆくゆくはコンプレックスをいい方向に持って行けるように、このマンガでも、いろいろな選択肢を示していければと思っています。
──ありがとうございました!
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