「青に、ふれる。」特集 鈴木望×有村藍里対談|容姿のコンプレックスと向き合ってきた2人が語る、「私なんか」を減らせる青春ラブストーリー

「ブサイクです」とDMをもらって

──有村さんがネガティブな思考の癖を持ってしまったのは、いつ頃からなんでしょうか。

有村 もとから、自分に自信が無くて内気な性格ではありました。そんな自分を変えたくて、まったく違う人間になりたくて、芸能界の仕事を始めたんです。世の中に名前が広まってからは容姿のことを指摘されることも増えました。「かわいくない」「あなたの顔ブサイクです」と言われるようになって、どんどん落ち込んでいっちゃったなと思います。匿名掲示板を見てしまったり、DMで直接送られてきたりもして。「確かに」って思って、どこか申し訳なさを感じちゃう自分がいたんですよね。それで、自分を卑下するようなことも、言うようになっちゃいました。

──それは、人に言われる前に自分で先回りして防御する感じですか?

1巻より、アザのことをつい自虐的に言ってしまう瑠璃子。親友の七実は、そんな瑠璃子の心の機微を見抜き、彼女を気遣う。

有村 それもあるし、「自虐しているのが面白い」「振り切っているのが好き」と言ってもらえたりしたのでそれはうれしかったんです。こんな自分でも受け入れてくれる人はいるんだなあって。でも、後で見返してみると、自分で自分を卑下してるときの表情って、本当に暗くて。見た目うんぬんよりも、心が死んじゃっていました。その病んだ気持ちが外にもにじみ出ていて。それがすごく嫌だったので、そういう自分を変えたいと思って整形を決意しました。

──見た目に対するネガティブな気持ちが強まったのは、芸能界に入ってからだったんですね。鈴木さんの場合は、いかがですか。

鈴木 高校に入るときとか、就職活動とか、婚活とか、「社会に出る」ようなタイミングできついことを言われる機会が増えましたね。それまでは私、アザがあることが悪いと思わずに生きていたんです。他人からはっきり、「隠すのが礼儀でしょ」という言われ方をされてから、捉え方が変わりました。有村さんと同じで、他人からの言葉がコンプレックスに強く影響しているんだな、と改めて思いました。

いろいろな選択肢を否定したくない

──「青に、ふれる。」では、瑠璃子がSNSを通じて知り合った、太田母斑を持つ女性たちが出てきます。彼女たちはレーザー治療を行ったり、メイクでアザを隠していたりしますよね。鈴木さんは、治療を考えたことはあるんでしょうか?

2巻より。瑠璃子の周りには、太田母斑にレーザー治療やカバーメイクといったアプローチをしている友人もいる。

鈴木 レーザー治療の経験はあります。以前は症状がおでこ全体に広がっていたのですが、働き出してまとまったお金が入ったときに、治療に踏み切りました。ただ、すごく痛いんですよ。何度も通わないといけないし、目の周りに照射する場合は失明の危険もあって……途中でどうしても怖くなり、治療を続けるのをやめました。

──そこからは治療をせず?

鈴木 そうですね。マンガ家として生きていこうと決意したので、自分には必要ないよな、と思えたんです。「青に、ふれる。」では、アザがあってもいいと思える人も尊重したいし、アザがあって嫌だという人にはレーザー治療もあるしカバーする方法もあるし、いろいろな選択肢があるよねというのを伝えたいと思って。どれも否定しないように気を付けています。有村さんは整形手術を受ける際、恐怖や不安はありませんでしたか。

有村藍里

有村 「なんでこんな痛い思いをしないといけないのかな」とは思いました。手術なんてせずに生きていければ一番いいんですけど……。でももうあのとき、「ただ笑う」ということができなくなっていたんですね。コンプレックスの口元が気になって歯を見せて笑うことができなくなってしまって。もちろん楽しかったら笑うときもあるんですが、心の中で口元気持ち悪くないかなと思ったり、隠して笑ったりしていて。家の中でも、常に鏡を置きながら生活して、口元をずっとチェックしていました。仕事で打ち合わせをしているときすら、口元が気になっちゃって、トイレに見に行ったり。普通に人と話して、普通に笑うのがなんでできないんだろう……という気持ちでいっぱいになってしまって。

鈴木 笑うこともできなくなる感じ、つらいですよね……。そのときの「どうしてこんなことしないといけないんだろう」という気持ち、今はどうですか?

有村 整形前の本当にネガティブなときよりは、前向きになったと思いますね。まだまだ悩むことはいろいろありますけど、整形して、本当によかったです。

自分の気持ちは、自分が変えないと変わらない

──鈴木さんは、レーザー治療の前後で、気持ちに変化はありましたか?

鈴木 太田母斑の場合、レーザー治療をしたら不可逆というわけではなくて、ホルモンバランスの変化でまた発症したりするんですよね。治療をする前は、レーザー治療すればすべて解決だと、まるで宝くじに当たるみたいな夢物語を想像していました。でも、治療だけでは、当然自分の気持ちって変わらなくて。自分の気持ちは自分で変えないとダメなんだと腑に落ちたんです。どういうふうに生きたいかを考えるきっかけになったと思います。

有村 私は本当に、「ただ笑う」っていうのをできるのがうれしくて、それだけかもしれないです。あとは、整形前に比べて、口紅を塗ることを楽しめるようになったのはありますね。

──整形を公表されたあと、悩みを抱えている方たちからの反響はいかがでしたか。

有村 「手段として知れてよかった」とか「勇気づけられた」というメッセージをくださる方が多くて、それはうれしかったです。整形にマイナスのイメージを持っている人でも、私が笑顔になれる手段として整形を選んだことを知って、考え直してくださったみたいで。

──「整形しようか悩んでる」と相談されたときは、どうしていますか?

鈴木望

有村 結局のところ、本当に「本人次第」だと思うんですよね。自分が本当にしたいと思うのであればそうするのがいいと思いますし、本当にしたいのであれば徹底的に調べるだろうし。私からは、「したらいいよ」とも「やめたほうがいいよ」とも、どちらとも言えません。自分で考えて、自分で決めることかなと。

鈴木 人それぞれでいいんですよね。太田母斑に関しても、「私は幸せになったから、あなたも治療したらどう?」と親切心ですすめてくる人もいれば、「ありのままで生きていらっしゃって素敵ですね」というような言葉をかけてくる人もいて。有村さんが、自分の選択を世の中に発信しているのは、すごく励まされます。

──鈴木さんのもとにも、見た目に悩んでいる方からの声は届きますか?

鈴木 瑠璃子は、今のところアザをそのままにしているのですが、マンガを読んだ方から「レーザー治療をする勇気が出た」「アザのある顔を好きになれた」など色々な感想をいただいています。治療する・しない、メイクでカバーする・しないは個人で決めてほしいので、「自分はどうしたいのか」を考える1つのきっかけになっているのはうれしいです。