コミックナタリー PowerPush - 「青の祓魔師」劇場版

ただのTVアニメ続編にあらず!? ひと癖ある美術監督・木村真二が構築する正十字学園町

TVシリーズを見たのは冒頭くらいです

──ちなみにTVアニメ作品の映画化に参加されるのは初めてですよね?

木村真二

初めてですね。変な言い方ですが、一般向けの作品は初めてというか。いままで「スチームボーイ」や「鉄コン筋クリート」をやってきて、やっぱり自分が選ばれる作品ってある程度固まっちゃってる気がしてました。どうしてもクセのあるものしか受けられなかったり。でも今回は作品にそこまでクセはなくても、世界観的にはいつもと同じベースでやれるんじゃないかなと思ったんですよね。

──同じベースというのは?

ヘンテコでもいいっていう(笑)。あと若干重めの絵でもいいかな、と。

──なるほど。TVアニメは全部ご覧になられて背景のイメージを作っていったんでしょうか?

冒頭くらいですね。冒頭を見ればやりたいことはわかるので。……こんなこと言うと問題あるかもしれないんですけど(笑)。

背景に違和感があればあるほど面白い

──(笑)。でもそれであの世界観が作れるのはすごいことだと思います。キャラクターと背景の、いい意味での違和感もありますよね。

「青の祓魔師」劇場版メインビジュアル

それは毎回自分の頭の中にはあって。キャラクターとその後ろがマッチングするのがすべてではないというか。違和感があればあるほど面白い。美術という仕事はキャラクター以外のものなので、実は結構対抗意識はあるんです(笑)。キャラクターに負けないように背景もがんばらないと、という。もちろんキャラクターを潰すということではなくて。背景を見せる映画ではないですし、お客さんはキャラクターを見に来るわけですから。

──キャラクターを見に来た人でも、多分あの背景は目に留まると思いますよ。TVシリーズと映画の背景は印象が違いました。

高橋監督もTVシリーズにはそんなに関わってない人なので、自分たちが原作を読んだ印象を持ってやってるんじゃないでしょうか。でも映画を見に来られる方はTVシリーズを見ていた方が多いと思うので、そこを外してしまうのも違う気がするし。その点、キャラクターデザインの佐々木啓悟さんはTVシリーズからずっとやられている方なので、キャラクターがズレることはないので安心してください。そこがズレなければ、世界観が若干ズレても、問題ないんじゃないかな、と思います。

──キャラクターがブレなければ大丈夫、と。

燐と雪男の部屋の美術ボード。

そうですね。とは言っても、背景もそこまで大きくは変えないようにはしています。やっぱりファンの方も、最初に見たものの印象のほうが強いわけだから、TVのイメージを壊してほしくないと思うので。そういう人たちを裏切ってはいけないですしね。ちなみに今回、燐と雪男が住んでいる寮はTVシリーズに合わせて作ってます。といっても部屋の中はちょっと変えてますが。どうしても床の見える面積が大きいので、単調にならないように床の模様を直線から格子にしてみたり。

──こういうところ、劇場版ならではの「2度美味しい」感があると思います。

細かいところですけどね。あとはやっぱり、いちばんその作品を知っている人は原作者ですから。その人から、自分で作ってもこういう世界観だよねって言ってもらえるのがいちばんうれしいかな。

木村真二(きむらしんじ)

1981年、小林プロダクションに入社。美術スタッフとして「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」などの作品に参加し、1986年に「プロジェクトA子」で美術監督デビュー。2004年には大友克洋監督の「スチームボーイ」で、2006年には松本大洋原作のアニメ映画「鉄コン筋クリート」で美術監督を務め好評を博す。また大友克洋との共著となる絵本「ヒピラくん」は、木村自らが監督を務めアニメ化。2012年には絵本「サブレ」を出版した。

「青の祓魔師」劇場版 / 2012年12月28日(金)全国東宝系にて公開
「青の祓魔師」劇場版
あらすじ

11年に一度の祝祭を前に、高揚感と喧騒で溢れかえる正十字学園町。悪魔の侵入を防ぐため、祓魔師たちは結界張り替えに勤しんでいた。一方、暴走する幽霊列車(ファントムトレイン)の退治にあたった奥村燐は、任務の途中、少年の姿をした幼き悪魔に出会う。

加藤和恵(かとうかずえ)

プロフィール画像

1980年7月20日生まれ。東京都在住。赤マルジャンプ2000年SUMMER(集英社)に掲載された「僕と兎」でデビュー。2005年、月刊シリウス創刊号(講談社)より「ロボとうさ吉」を連載。その後、ジャンプスクエア(集英社)に活動の場を移し、同誌2009年5月号より「青の祓魔師」を連載開始。2011年4月にはTVアニメ化を果たす。