コミックナタリー PowerPush - 「青の祓魔師」劇場版

ただのTVアニメ続編にあらず!? ひと癖ある美術監督・木村真二が構築する正十字学園町

美術監督・木村真二インタビュー

バンドデシネのような加藤先生の絵に興味を持った

──まず今回「青の祓魔師」劇場版に参加することになったきっかけを教えてください。

季刊エスに掲載された加藤和恵「赤い大地に生まれた戦士のはなし」(「TIME KILLERS 加藤和恵短編集」収録)

TVシリーズの美術設定をされていた末武康光さんという方からお話をいただいたのがきっかけですね。末武さんは昔、大友克洋さんのアシスタントをされていた方で、僕が「スチームボーイ」の美術監督をしたときに知り合ったんです。あとは加藤和恵さんの絵を季刊エス(飛鳥新社)で見ていたりもしました。

──エスでご覧になられていた加藤さんの絵はどんなものだったんでしょう?

加藤さんが「青エク」の連載をされるより前、カラーページのマンガがたまに掲載されていたのですが、それがバンドデシネ風な感じだったんですね。ちょっと厚塗りで、(ニコラ・)ド・クレシーのような。なおかつ女の人が描く絵とはちょっと違う風にも見えました。女性でフレンチコミックっぽい絵を描く方って、あんまり見たことがなかったので……。

原作冒頭、燐が正十字学園町に到着するシーン。

──木村さん自身、加藤先生の絵に興味を持たれていたんですね。

そうですね。キャラクターというより、どちらかというと世界観や舞台設定が面白いな、と。「青エク」って「ヘルボーイ」にかなり影響を受けてるんじゃないかと思うんです。多分加藤さん自身も、そういう世界観が好きなんじゃないかな。あと冒頭1、2話目くらいに「こういう舞台ですよ」という説明的な場面があるんですが、そこをもうちょっと突っ込んで映像に置き換えたら面白いんじゃないかと。

高低差のある街並みが“木村真二印”

──美術背景は原作の舞台設定に近づけて描かれたんですね。では具体的に背景のことについてお伺いしたいのですが、特に今回は祭のシーンがとても見応えがありました。どんなイメージを持たれてあの造形を作り出していったんでしょうか。

お祭りシーンの美術ボード。

お祭って淫靡な感じとか、気持ち悪い感じが必ずどこかしらにあると思うんです。そこを出せればなと。あとねぷたのイメージで、大きいものがあって、それが内部発光をしている感じにしたいという監督の依頼もありました。ただねぷたって、夜に見るものなので、造形的にそれほど凝っているものではないんですよね。映画では昼間のシーンも多いので、もっとフォルムに凝っています。

──色味も、ものすごくカラフルですね。

派手にしようと、たくさん色を使ってますね。あと調べていくうちに、中国や台湾のお祭りのほうがすごく豪華だってこともわかったりして、その辺りも取り入れたりしています。

──祭りだけではなくて、街並みもアジアっぽいと思います。看板がたくさんあるのも中国や台湾っぽい。

割と無国籍な感じになってますね。どちらかというと発展途上の上海がモデルかな。上海って古い建物もあるけど、新しい建物もどんどん建ってるので。そのあたりは原作を読んで、そんなイメージを受けました。実際に、看板がたくさん出ている街並みのシーンも冒頭にありましたし。あと「鉄コン筋クリート」もそうですけど、僕、高低差のある感じが好きなんです。

正十字学園町街並みの美術ボード。原作にも看板が多い街並みが登場。

──確かに今回も、とても長い階段が出てきたりと、高さがあるイメージです。

正十字学園の美術ボード。

普通は家の上はもう急に空だけど、階段を入れたりして次の建物の層を入れたりしたりしています。平らなものだとちょっと面白くないかなと。世界遺産を見てても、大体そういう構造のものが多いかなとも思いますしね。まあその分描くのは、労力的に大変なんですけど(笑)。

──この高低差のある背景が“木村真二印”という感じです。

「青の祓魔師」劇場版 / 2012年12月28日(金)全国東宝系にて公開
「青の祓魔師」劇場版
あらすじ

11年に一度の祝祭を前に、高揚感と喧騒で溢れかえる正十字学園町。悪魔の侵入を防ぐため、祓魔師たちは結界張り替えに勤しんでいた。一方、暴走する幽霊列車(ファントムトレイン)の退治にあたった奥村燐は、任務の途中、少年の姿をした幼き悪魔に出会う。

加藤和恵(かとうかずえ)

プロフィール画像

1980年7月20日生まれ。東京都在住。赤マルジャンプ2000年SUMMER(集英社)に掲載された「僕と兎」でデビュー。2005年、月刊シリウス創刊号(講談社)より「ロボとうさ吉」を連載。その後、ジャンプスクエア(集英社)に活動の場を移し、同誌2009年5月号より「青の祓魔師」を連載開始。2011年4月にはTVアニメ化を果たす。