コミックナタリー PowerPush - アニメ「暗殺教室」

岸誠二(監督)×上江洲誠(シリーズ構成・脚本)対談 名コンビが原作愛ほとばしる制作の裏側を語る

上着を脱いで、タンクトップ姿で演じはじめた福山潤

──キャストの話も聞かせてください。殺せんせーはかなり個性的かつ重要なキャラですから、キャスト選びはご苦労されたのでは?

上江洲 あれは難航するかなと思っていたんですけど、福山潤さんをオーディションに呼ぼうとラルケの比嘉(勇二)プロデューサーが思いついて、これが最高の冴えでしたね。

 オーディションで一声発した瞬間に、まあ、すげえ!! という感じでした。もうこれで決まりだね、と。

上江洲 ご本人の気合もすごかったんですよ。本番となったら、いきなり上着を脱いで、タンクトップ姿で演じはじめた。

 あれはすごかったね。面白くて、素敵だった(笑)。

上江洲 で、それを見た岸さんが、「演技も良いけど、彼のそういう、人間性の部分も買おう」と。いい意味で、アホや!という部分は、素敵な魅力ですからね。

アニメ「暗殺教室」より。

 オーディションで面白さを見せるのも、やる気のひとつですよ。ほかにも、もともと福山さんはすごい芸達者な方で、そこも重要な点でした。殺せんせーは、芸の振り幅というか、役の振り幅が求められるキャラですから、技術のしっかりした人でないと、対応できないですからね。

上江洲 殺せんせーは面白いだけじゃダメなんです。カッコいい瞬間もあるから、お客さんが「面白い声のまま、カッコいい!」と思える演技をできないとダメ。もう、唯一無二のキャスティングじゃないかなと今は思いますね。

 なかなかお目にかかれんよね、こういうのは。ありがたいです。現場でも縦横無尽に動いてもらってますし。

上江洲 福山さんの存在が、すごくフィルムの強度を高めていると思う。

 底上げしてくれているね。非常に助かってます。役者さんがワッ! と動いてくれると、現場全体の硬さがなくなるんです。福山さんのおかげで、アフレコブースの中の空気がいい感じになり、大プロジェクト特有の重さ、堅さを切り崩しやすくなってるんです。もの凄い作品貢献度ですよ。だから、大きいタイトルであればあるほど、主役は軽やかに動ける人じゃないと困るんですね。

抱えている闇の部分が、渚の芝居にハマるんじゃないか

──メインどころでは、潮田渚役の渕上舞さんも印象的です。おふたりの作品では「蒼き鋼のアルペジオ」でもイオナという重要な役を演じていました。

アニメ「暗殺教室」より。

 はい。またご縁があって、今回もお願いしました。渚くんは男の子ですけれども、女の子チックな見た目でもありますし、一体どういう声にしたらいいんだろう?と、みんなでうんうん唸りながら考えました。最終的には、女性に少年声でやってもらうのがいちばんいいんだろうな、という結論になって。でもやっぱり、微妙なユニセックス感がほしいけど、そんな声を出してくれる人って誰よ?という話になったわけですよ。そこで渕上さんの名前が挙がった。

上江洲 あとポイントになったのは、彼女が持っている闇の厚みかな。「アルペジオ」のときに、岸さんが「あの子は闇が深いね。次の作品では、その部分を活かしたいね」みたいなことを、渕上さんを見て言ってたのを覚えてて(笑)。

 うん、言った(笑)。

上江洲 彼女が秘めている繊細な人間性が、渚の芝居にハマるんじゃないか。岸さんのその読みが、当たったんですね。

岸誠二

 もともと人間として複雑なものを抱えている人のほうが、役としても良いものを見せてくれますよね。

上江洲 そうそう。キャラクターになってもらうには、その人の人間としての深さや、面白さがないとね。ほかにも、「暗殺教室」のキャストには、面白人間が集まってますね。

──ちょっと細かいですけど、ジャイアンみたいないじめっ子の役を、本物のジャイアン(=木村昴さん)がやっているというキャスティングは面白かったです。

 あれも、最初に案を出したのは比嘉プロデューサーでしたね。やってみたら、やっぱりハマるんですよ。

上江洲 何の違和感もなかった。でも、誤解のないように言っておきたいのですが、比嘉プロデューサーが声をかけたのは、ジャイアンよりも、「廻るピングドラム」のお兄さん(高倉冠葉)役の印象からだそうなんです。あの独特さが、寺坂竜馬という役にハマるんじゃないか、という狙いがありました。

 そうそう。

上江洲 キャストに関しては、半分くらいは比嘉プロデューサーのすごい冴えで、あとは岸さんと飯田里樹音響監督のテクニカルな采配です。かなり考えられた配役で、飯田さんはさすがだなと思いますね。

コメディ、ギャグは放送期間が長い方が上手くいく

──イトナ役の緒方恵美さんも、最近のおふたりの作品に縁が深い方ですよね。

 こちらもまた、ご縁がありましてというところで。緒方さんも福山さんと同じで、開口一発、「うわぁ、すげえ!」でしたからね。

上江洲 その説得力たるや!

 「みんなが思っているイトナがそこにいるじゃん!」ってね(笑)。

上江洲 「もうしょうがないよね、イトナだもん」みたいな感じだった(笑)。

──では最後に2クール目の見どころを。

 2クール目では、夏休みを経て、2学期の物語に突入していきます。

上江洲誠

上江洲 これまで多くのアニメを作ってきた経験則でいうと、コメディ、ギャグは放送期間が長い方が上手くいくんですよ。スタッフがどんどんノリが良くなって、フィルムがどんどん楽しくなってくる。結果、画面のクオリティも上がる。だから僕も、後半の出来が楽しみです。制作が後ろに行くほど、現場は大変になるんだけど、フィルムは面白くなっていくんですよ。そういう面白いアニメが出来る「奇跡」に、また出会えそうな予感が、この作品にはしてます。

 計算したよりもさらに面白いものが出来上がりそうな感じはありますね。

上江洲 「暗殺教室」は関係者のみんながみんな、番組を盛り立てようとしている。そこがすごくいいことだと思います。

 実写映画もありますし。

上江洲 映画も観てくださいね!

 いやいや、むしろ気持ちとしては、「映画のお客さん、アニメも観てね!」です。

上江洲 ですね。どうぞ両方よろしくお願いします!

──「ソニックニンジャ」(「暗殺教室」の劇中作品)の長編アニメ化も楽しみにしていますね!

 ぶはははは! ありがとうございます(笑)。

左から岸誠二、上江洲誠。
TVアニメ「暗殺教室」 / フジテレビにて毎週金曜24:55~放送 ほか各局でも放送
TVアニメ「暗殺教室」
あらすじ

進学校の落ちこぼれクラス、3年E組に担任教師として現れた謎の生物・殺せんせーと、殺せんせーの暗殺を課せられた生徒たちが織り成す学園コメディ。暗殺に成功すれば100億の報酬が与えられるという状況下のもと、教師と生徒であり、標的と暗殺者でもあるという関係性の奇妙な日常が描かれる。アニメの監督を務めるのは「Persona4 the ANIMATION」などを手がけた岸誠二。「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載中の松井優征による原作は、単行本累計発行部数1350万部を突破しており、実写映画も大ヒット上映中。

岸誠二(キシセイジ)

滋賀県出身。チームティルドーン代表。2003年に「かっぱまき」で監督デビュー。主な監督作品に「瀬戸の花嫁」「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」「Persona4 the Golden ANIMATION」(総監督)など。

上江洲誠(ウエズマコト)

大阪出身。ギャグからSF、ゲーム原作まで幅広い作品を手がける脚本家。「天体戦士サンレッド」「人類は衰退しました」「瀬戸の花嫁」など岸誠二監督作品への参加も多い。