グッとこらえる展開から開放されるカタルシスを知ってほしい(笑)
──今って、読んでてストレスをあまり感じさせないストーリーだったり、苦労はあってもすぐにスカッとする展開だったりする作品が多いですが、「雨の日と月曜日」はその流行には乗ってないですよね。高圧的な父親の支配下にある、自分に自信のない女性が主人公で。
そうだと思います。最初から、これはハマる人にしかハマらないと考えていて。ちょっと昭和感のある展開かもしれません。でも、私的にはストレスの少ない物語に慣れている人にこそ、グッとこらえる展開からの、それが解放されるカタルシスを知ってほしい(笑)。
──あはは(笑)。「雨の日と月曜日」というタイトルも少し古風な少女マンガっぽいですよね。
タイトルでネタバレというかあらすじ紹介して、どういう物語か読む前から読者に伝わるようにする作品、多いですもんね。「今はそういうものなんだろうな」と思いつつ、ドキドキしすぎて「来月が待てない!」みたいな読書体験をしてきた昭和51年生まれとしては「そればっかりじゃないぞ」っていう反発心もあって。樹なつみ先生の「OZ」(白泉社)とかドキドキしすぎて負荷としてはすごかったですが、カタルシスも凄まじかったです。麦畑を見たら今でも思い出しますもん。
──印象深くてよく覚えています、「19(ナインティーン)の髪の色だ」ですね。
最終回でキスの伏線を回収したときは「ぎゃあああああ!」ってなって(笑)。ああいう読書体験は、“ストレスフリー”みたいなものとは違うところにある。私が読みたいのはそれで、みんなにも味わってほしい。だから「雨の日と月曜日」を描いてます。
──コミカライズは、原作小説と構成を変えています。コミカライズの1話と2話で風太と珠恵が結ばれる直前を描き、3話からは過去を振り返る形でストーリーが展開しました。13話で時系列が2話の続きに戻りましたが、この構成にした理由は?
2人が初めて結ばれるエピソードが作品のピークの1つだと思っていて、そこをチラ見せできるよう前に持ってきました。私の中でここが物語の大きな区切りっていう認識なんです。
──風太と珠恵が結ばれるまでが前半、それ以降が後半というイメージですか?
前半と後半というか、むしろエピソード0と本編みたいな。バズったツイートにも少しだけ書いてるんですが、原作のきみねさんは一度小説の更新を止めて、サイトから撤退してるんです。なのでこの物語を通読できたのはけっこう後になってからだったのですが、トータルで読んだら、結ばれてからが本当に深いんです。親の愛情を受けられなかった主人公2人が、ここからともに成長していきます。
──風太と珠恵が結ばれてからが、本当の始まり。
そうです。だから本当に今から本番!って感じで気合いが入ってて。(※取材は15話が公開されたタイミングで行われた)
──テンポよく物語が進む印象ですが、そこは意識されていますか?
それは完全に編集さんの腕のよさです。私1人だったら、たぶん全然物語を進められてないと思います。まだ珠恵がカラオケに連れ込まれてないと思う。
──思い入れがあると、じっくり全部描きたくなってしまうのかもしれないですね。
「このエピソードも入れたい!」って言って「それだと全然進まないから!」って言われて(笑)。でもトータルで見たら、やっぱりテンポ感が必要なので編集さんのアドバイスは本当にありがたいです。原作小説が完璧な構成だと思ってるので、コミカライズでの再構成はすごく苦心しました。原作とは異なり、珠恵の見合い相手である門倉さんとのエピソードを最初に持ってきた時点で「これはコミカライズなんだ」と自分を納得させて。私のコミカライズで物語が破綻したら嫌だと思ってたんですが、面白い物語はエピソードを前に持ってこようが後ろに持ってこようが面白いんだなって再確認した感じ。「やっぱどこに持ってきても面白いわ!」と思いながら描いてます(笑)。
風太の眉尻を描いているときが一番幸せ
──コマkomaさんが描いてて楽しいキャラクターは誰ですか?
風太ですね。眉毛が太いんですけど、それが好き。私の絵だと風太の眉尻にシュッシュッシュッシュって何本か線を入れるんですよ。それを描いているときが一番幸せです。珠恵はキャラデザですごく悩んだんですけど、風太はそれもなくて。脳内にずっといたので、それを3Dプリンタで出力する感じでした。髪も手も着てる服もこうに違いない!って。
──10年間妄想し続けてきたんですもんね。会心の出来だとご自身で思える表情が描けたシーンってありますか?
16話で、風太が「俺は珠恵のことが 可愛くて可愛くてしかたがねえ」って言うシーンです。もう描いててスクショを撮りました。自分で、パシャって。
──あはは(笑)。
違うんですよ、自分のオリジナルマンガにはこんなに萌えないんです! (「軍人婿さんと大根嫁さん」の)誉だと描いててこうなることはないんですが、私が今描いてるのは「雨の日と月曜日」の風太なので……!
──ずーっと大好きだった作品の主人公ですからね。作品のモチーフになってる“雨”の描写が、webtoonと相性がいいと思いました。それは意図していましたか?
いえ、webtoonについては本当に右も左もわからなかったので……。ただ、雨は上から下に落ちていくものなので、縦にスクロールするwebtoonだと本当に降ってるふうに見えていいですよね。第1話を描いてるときに「これはいい!」と思って。キャラクターの感情が昂ったときに雨の描写を入れるようにしてたら、なんだか原作小説の雰囲気とも合ってきた気がします。
──webtoonでマンガを描くのは初めてだと思いますが、苦労してますか?
実は私には向いている気がしてるんです。横読みのマンガと違って、ある程度縦長でフォーマットが決まっているので脳内のカメラの映像をどんどん縦にはめ込んで描いていけばいい。映像で思考するタイプには合ってると思います。
──フルカラーも苦ではない?
はい! カラーがきれいって言われるとうれしくて、図に乗っちゃってずっと気持ちよく塗ってる(笑)。今の仕事はずーっと楽しいんです。
──楽しく描いてるのが伝わってきて、素敵です。
うれしい! 今、楽しくてしょうがないんです。編集さんと好きな作品のコミカライズをブラッシュアップするためにああじゃない、こうじゃないってワーワー激論交わしてるのも楽しくて……もう青春ですわ。46歳で甲子園みたいな青春してます。
──最後に読者に伝えたいことはありますか?
これからはとにかく風太がデレます! これを推したい。あと出版社の方がもしこのインタビューを読んでいたら、原作小説の書籍化を検討してほしいです。私でよければ表紙とか挿絵とかPOPとか帯とかも協力するので……。原作、本当に素晴らしいのでみんな読んで!広まって!と思いながら生きています。
プロフィール
コマkoma(コマ)
マンガ家。きみねによるWeb小説「雨の日と月曜日」のコミカライズをLINEマンガで連載中。毎週日曜日に更新される。ほかオリジナル作品「軍人婿さんと大根嫁さん」を自身のTwitter、pixivで発表している。
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