「雨の日と月曜日」大好きなWeb小説の更新停止から10年…コミカライズを担当するコマkomaがほとばしる原作愛を語る

「雨の日と月曜日」は、大人しい性格の女性・珠恵と“ワケあり”な過去を持った男性・風太の関係性を描いた物語。図書館で働く珠恵は、雨の日にだけ図書館を訪れる風太とひょんなことから交流を持つようになる。次第に特別な感情を抱くようになった2人だったが、あるとき珠恵にお見合いの話が持ちかけられて……。きみねによるWeb小説のコミカライズ作品で、原作を10年以上愛してやまないコマkomaがLINEマンガで連載している。

コミックナタリーではコマkomaにインタビューを実施。山奥の限界集落の空き家に住んでいた、などの色濃い経歴やコミカライズを担当するに至った経緯、そして何より「雨の日と月曜日」へのほとばしる思いを語ってもらった。

取材・文 / 三木美波

10年近く「雨の日と月曜日」のエッセンスを溜め込んでいた

──「更新されなくなってしまった大好きなWeb小説をコミカライズすることになった」というコマkomaさんのツイート、4.7万リツイート、17.5万いいねと本当に反響がありましたね。10年前、心の支えにしていたWeb小説の更新が止まり、続きが読めないことに絶望して、作者さんがいつかどこかで続きを書いていてくれないかと、思いつくワードを片っ端からインターネットで検索して、ファンアートを描いて……と長年燻り続けていた気持ちと、そこから“自分がコミカライズすることになった”という奇跡が書かれた連続ツイートに「素敵」「泣ける」などたくさんの反応がありました。

たぶん、同じようなことを経験した方がたくさんいらっしゃったと思うんです。私が読んでた頃は個人サイトでWeb小説を発表することがすごく多くて。そういう個人サイトが閉鎖したりして、さみしい思いをした人が共感してくれたのかなと。

──今主流の投稿サイトでも、連載が何年も更新されないことは多々あります。読者としては面白い小説を読ませてくれてありがとうと感謝の気持ちでいっぱいですが、続きが読みたいという我欲も捨てきれない。未練がましく数カ月に1回、更新されていないか見に行く……という作品がいくつかあって。

わかります! 更新を切望する方、「昔大好きだったあの小説、続いてたらどうなってたかな」って妄想する方が全国にいっぱいいると思うんです。切ない思いを抱えて、かといって続きを探しても見つからないし、万が一作者さんを見つけたとしてもどんな思いでやめたのかと思うとせっつくこともできない……。私は今46歳なんですけど、個人の小説サイト全盛期にWeb小説を書いてた人や読んでた人って40~50代も多い。当時はWeb小説を書籍化ってあんまりなかったですが、その頃のWeb小説にも名作がすっごくあるんですよ! 今だったら「書籍化待ったなし!」みたいな!

──そういうふうに好きなWeb小説への思い出を抱えてる方がたくさんいて、コマkomaさんの投稿に共感したんでしょうね。今46歳とのことですが、この「雨の日と月曜日」が商業デビュー作ですよね?

はい!

──どういった人生を送ってきたのか、すごく気になります。

暗くて、ずっと小説を読んでる学生でした。特にコバルト文庫が大好きで。氷室冴子さんとか若木未生さんとかがCobalt(集英社)本誌に載ってた頃に高校生だったんですが、Cobaltが発売されたら学校は早退して、家に両親がいるのでバレないよう公園の木の下に転がってCobaltを読むっていう(笑)。

──文系少女の青春ですね。

学校を卒業してからは伝統工芸の職人になりまして。給料が安かったのでなかなか食っていけず、似た境遇の女3人で集まって山奥の限界集落の空き家に一緒に住んでたり。山奥の空き家はあまりにも衝撃的なエピソードの連続だったので、「女三人で山奥で暮らしていた話」というタイトルで2ちゃんねるに投下しました。それから結婚して、子供も産まれて。

──ツイートに「授乳中だったワシの乳の出がな…更新があるのとないのとでは明らかに量が変わるくらいだったんじゃ…」とありました。「雨の日と月曜日」の小説に出会ったのはその頃ですか?

はい。その後は飲食業のパートを長らくしていて、お店に工事現場のお兄さんとかおじさんとかが来るんですよ。そうすると「雨の日と月曜日」の妄想が始まるんですね。風太さん、こういう感じかなーって。「姉さん、うどんちょうだい」とか言われると、(風太が働く)古澤工務店の人たちっぽいなー、カッコいいなーって(笑)。仕事中だけじゃなく、いい感じのアパートを見ると風太がここに住んでたらいいなとか、スーパーでビールを買ってる工事現場のお兄さんを見ると「風太さんか?」とか。

コマkomaによるファンアート。

コマkomaによるファンアート。

──作品とキャラクターへの解像度がどんどん上がっていく(笑)。日常的に「雨の日と月曜日」のエッセンスを自分の中に溜め込んでた?

そうですね、10年近く。でも吐き出すところがないので、Twitterにファンアートを投稿していました。ほかにも海外のロマンス小説が大好きなので、そのファンアートを描いたり、萌えるシチュエーションをイラスト化して投稿していたり。Twitterに「こんな話面白いんじゃない?」ってポロっと呟いたら周りの人もどんどんアイデアをくれて、それが「軍人婿さんと大根嫁さん」という同人誌になったり。そうしているうちに、LINEマンガの編集さんが「一緒に仕事をしませんか?」と声をかけてくれたんです。

もしマンガ家になって1作品だけ描けるんだったら「雨の日と月曜日」

──オリジナル作品を連載するという選択肢もあったと思うのですが、「雨の日と月曜日」をマンガ化することになった経緯は?

もしマンガ家になって1作品だけ描けるんだったら、「雨の日と月曜日」がよかったんです。編集さんは「スーパーひまわり」(「家族経営のスーパーの女の子と近くの工事現場のお兄ちゃんの話」のタイトルでTwitterに投稿されたオリジナル作品)を見て気に入ってくれたみたいで、ほのぼのした男女のお話を求められていたのかもしれません。でも「雨の日と月曜日」が最初で最後の商業作品だとしても後悔はなくて。だから「雨の日と月曜日」という知る人ぞ知るWeb小説があって、10年くらいハマってて、素晴らしい物語だからどうしても広げたいって編集さんにすごい熱量でプレゼンしたんです。ドン引きされたかもしれないんですが、編集さんも原作小説を読んでくれて「面白いです」って言ってくれて、それだけで本当にうれしくて。そんなこんなで企画が通り、連載できることになりました。

コマkomaによるファンアート。

コマkomaによるファンアート。

──コマkomaさんの熱意が周りを動かしたんですね。

なんか1人で「雨の日と月曜日」に狂ってたら周りが巻き込まれてくれたって感じです。「わかったから落ち着け!」みたいな(笑)。

──そこまでコマkomaさんを狂わせた「雨の日と月曜日」の魅力はどこだと思いますか?

もう全部好きすぎて……! あえて言うなら、作中で大なり小なり事件は起こるんですが、現実から逸脱していない物語である点です。一見普通に見える女性と、悲しい過去を持っている男性という主人公2人の絶妙な配置、そして必然性と偶然性を織り交ぜて読者を納得させるストーリー展開。10年間、私は何度も何度も読み返したんですが、物語が破綻しないんですよ。例えば「風太ともう会わない」と決めた珠恵が、風太と再会してしまい、彼にすがるシーン。なぜ珠恵がそこまで傷付いたかすごく納得のいく理由があるから、読者側もスッと受け入れられる。そして随所随所に出てくる風太さんの言動がいちいちカッコよくって……! 「もおー!」って言いたくなっちゃう(笑)。

「雨の日と月曜日」第1話より。雨の中、風太と珠恵が再会するシーン。©︎Koma•Kimine/LINE Digital Frontier

「雨の日と月曜日」第1話より。雨の中、風太と珠恵が再会するシーン。©︎Koma•Kimine/LINE Digital Frontier

──伊達男って感じがします(笑)。

そう、イタリアが入ってるんです。モテ男。

──珠恵は一見おどおどしてますが成長しますよね。

そうなんです! すごく弱い珠ちゃんが、強い風太に頼り切りで、引っ張られる話だと最初は思うかもしれません。でも、この話はそうじゃないんです。風太は珠恵と出会ったことで心の闇が炙り出されたところがあって、珠恵がいないと生きていけないという弱さが出てしまう。珠恵は物語が進むにつれ、愛を得たことによって逆に強くなっていく。風太と珠恵は共依存で、風太も珠恵がいないとダメになるタイプなんですよ。お互いしかいないっていう強い絆、よくないですか?

──萌えます。

でしょう!?