「アマネ†ギムナジウム」|古屋兎丸×こざき亜衣の“思春期こじらせ系”師弟対談

「ライチ☆光クラブ」や「帝一の國」で知られる古屋兎丸の最新作「アマネ†ギムナジウム」1巻が4月21日に発売された。人形作家の宮方天音が、自分の作った7体の球体関節人形と織り成す、耽美で不思議なモラトリアムストーリーだ。

コミックナタリーではこれを記念し、古屋の元で長らくアシスタントを務めていた「あさひなぐ」のこざき亜衣との対談を実施。こざきが古屋のアシスタントをしていた時代の思い出話や、ふたりの意外な共通点、お互いの作品についてなど、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 増田桃子 撮影 / 石橋雅人

“黒歴史”が勝手に動き出したら嫌だなと思って(古屋)

──こざきさんは、古屋さんの最新作「アマネ†ギムナジウム」を読まれていかがでしたか?

和気あいあいと話を進める古屋兎丸とこざき亜衣。

こざき亜衣 すごく古屋先生らしい話だなと思いましたね。先生の好きなものがいっぱい詰まっていて。先生って好きなものを下地に描くことが多いですよね。

古屋兎丸 そうだね。新撰組とヒストリーチャンネルで見た十字軍の話が合わさって、「インノサン少年十字軍」ができたりね。

──今回の「アマネ†ギムナジウム」は、球体関節人形作家の女性・宮方天音が主人公です。球体関節人形作家について描こうと思ったのは?

古屋 ヴァニラ画廊で展覧会をやったときに、球体関節人形の作家さんに話を聞く機会があって。人形作りって、すごい肉体労働なんですよ。体力もいるし、ヤスリで磨いたときの粉塵で肺が真っ白になるし。その話が面白かったから、球体関節人形作家の話を描いてみようと思ったんです。それに球体関節人形が好きな人って、意外といっぱいいるじゃないですか。ボークスのドールとか、僕も好きで持ってますし。でも球体関節人形のマンガってあまりないから。

主人公の天音が中学生の頃に作ったノート「アマネ†ギムナジウム」より。天音は“中2病”時代に書いたこのノートの設定に沿って、7体の球体関節人形を作り出す。

──自分が作った人形が動き出す、というアイデアはどこから来たんでしょうか?

古屋 それは、自分が思春期のときに描いたマンガとか小説とか、いわゆる“黒歴史”みたいなものが勝手に動き出したら嫌だなと思って。

こざき それは……抹消したいです(笑)。

古屋 目も当てられないでしょ。自分が作り出した妄想の人たちが、その設定通り動き出したら「あっちゃー」って思うでしょ?

こざき 大人になった自分の理性と、中学生の頃の自分の本能が目の前でぶつかるってヤバいですよね(笑)。また天音の考える人形の設定も細かくて、まさに中学生の妄想って感じで。

エログロナンセンスと見せかけて、すごく現実的なところもある(こざき)

──球体関節人形たちの世界がギムナジウム(寄宿学校)、というのも面白いですよね。

天音は球体関節人形たちが安心して過ごせる環境を作るため、門前仲町にある築80年のオンボロな自分の住まいをギムナジウムに改造。27年間溜め込んだ大切なマンガは断捨離を決行してダンボール40個分捨てたが、山岸凉子、萩尾望都、手塚治虫の作品は取っておくという天音の趣味がわかる描写も。ちなみに「兎丸はもういいや」と兎丸作品は捨てられた。

こざき ギムナジウムも昔から好きですもんね。

古屋 ギムナジウムものはずっと「いつか描きたい」って思ってたんだけど、そのままギムナジウムの少年たちの恋愛関係を描くってのもちょっと違うな、と思って。客観的な視線を入れたくて、天音を主人公にしたの。

こざき 先生って耽美な話をストレートには描かないですもんね。

古屋 ちょっと恥ずかしいからね。

天音のノート「アマネ†ギムナジウム」より。1体1体に詳細な設定が記され、動き出した球体関節人形たちはその設定通りの性格と特徴を備えている。

こざき 先生の作品って、耽美なエログロナンセンスと見せかけて、すごく現実的なところもありますよね。「ライチ(☆光クラブ)」も耽美を装ってはいるんだけど、ツッコミのような視線があって。もちろん真面目に描いているんですけど、描いている世界が普通じゃないっていうのも自覚してるから。

古屋 「アマネ」に関しては、まだ結末を決めて描いているわけではないんだけど、思春期の自分とどうやって決別していくか、っていう話になるだろうなと思うよ。

こざき なんかホント、先生らしい話ですよね。

古屋 一番守るべきところはそこなんだよね。自分らしいかどうか。いいネタ思いついても、自分らしくないなと思ったら描かないしね。

古屋兎丸「アマネ†ギムナジウム」1巻
発売中 / 講談社
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耽美な人形作家・宮方天音の素顔は、地味な派遣社員。ある日、贔屓にしていた画材屋を訪れた天音は、店主・西園寺徳一から店じまいをすることを告げられる。途方にくれる天音だったが、代わりにもらった50年前の粘土を元に、どうにか7体の少年たちを作り上げる。無事、個展を終えた天音は、徳一から告げられた「粘土の秘密」を思い出し、人形たちに“あること”をしてしまい──。

こざき亜衣「あさひなぐ」22巻
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中学まで美術部だった東島旭は、「強い女」になるため二ツ坂高校薙刀部に入部する。まったくの素人からでも活躍できる可能性がある“高校部活界のアメリカンドリーム”、それが薙刀。その言葉を胸に刻み、日々旭は強くなるため練習に励むのだ!

古屋兎丸(フルヤウサマル)
古屋兎丸
1994年にガロ(青林堂)より「Palepoli」でデビュー。以後、精力的に作品の発表を続け、緻密な画力と卓越した発想力、多彩な画風で、ヒット作をコンスタントに発表する。主な著書に舞台化、映画化を果たした「ライチ☆光クラブ」をはじめ、「インノサン少年十字軍」「幻覚ピカソ」「人間失格」「帝一の國」など。現在モーニング・ツー(講談社)にて「アマネ†ギムナジウム」、ゴーゴーバンチ(新潮社)にて「少年たちのいるところ」をそれぞれ連載中。「帝一の國」は3度にわたり舞台化されたほか、実写映画が4月より公開される。
こざき亜衣(コザキアイ)
こざき亜衣
「さよならジル様」でちばてつや賞一般部門大賞を受賞。2011年より、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「あさひなぐ」を連載開始。「あさひなぐ」は2015年に第60回小学館漫画賞一般向け部門を受賞し、映画化と舞台化も決定している。