「アリータ:バトル・エンジェル」日本語吹替キャスト 森川智之、島﨑信長、神谷浩史インタビュー|豪華声優陣がハリウッド版「銃夢」に吹き込んだ生命とは?

木城ゆきと「銃夢」を原作とした実写映画「アリータ:バトル・エンジェル」が、全国公開された。「タイタニック」「アバター」で世界中を興奮の渦に巻き込んだジェームズ・キャメロンが25年もの構想期間を経て、満を持して映像化した本作。監督は「スパイキッズ」「シン・シティ」「マチェーテ」など、人気シリーズを手がけてきたロバート・ロドリゲスが務める。

コミックナタリーでは日本語吹替キャストとして参加した、イド役の森川智之、ヒューゴ役の島﨑信長、ザパン役の神谷浩史へのインタビューを実施。百戦錬磨の森川、劇場公開映画の吹き替え初挑戦となる島﨑、原作「銃夢」への思いを語る神谷、三者三様のアプローチ方法や、作品への向き合い方に迫る。

取材・文 / 増田桃子 撮影 / 佐藤類(P1~2)、島袋智子(P3)

INTERVIEW

森川智之(イド役)インタビュー

イド×森川智之

ラブストーリーに打ちのめされました

森川智之

──完成した「アリータ:バトル・エンジェル」をご覧になって、いかがでしたか。

僕はラブストーリーに打ちのめされましたね。これはアリータとヒューゴの近未来SFラブストーリーですよ。ヒューゴが葛藤しながらもザレムへ行きたいという気持ちを手放せなくて、それをアリータが応援して「2人でザレムへ行こう」って話をするじゃないですか。あれがね、なんか昭和な感じがしてよかった。

──男を支える女的な……。

そうそう。いつまでも役者を目指しているダメな男とくっついちゃった彼女みたいな感じで(笑)。しかもアリータは自分のコア(心臓)だって躊躇なく差し出す。もう最高ですよ。一番お気に入りのシーンがどこかと聞かれたら、あのシーンですね。

──確かにあのシーンはかなり衝撃的ですよね。

「私これだけお金持ってるのよ」って銀行の通帳を出して「使っていいわよ」っていうレベルの話じゃないですよ。「この心臓を売って。私は安い心臓でいいから」って、究極ですよ。そりゃヒューゴもコロッといっちゃうよなと(笑)。

──アクションシーンではなく、真っ先にアリータとヒューゴの恋愛部分に注目されるというのは面白いですね。

この映画をどういう切り口で観るかによると思うんですよね。僕はイドっていうアリータの父親的存在を演じている立場なので、どちらかというとヒューマンの部分というか、関係性みたいなものからこの物語を観てしまって、どうしてもドラマのほうに視点が行くんですよね。もちろん試写を拝見して、アクションシーンにしてもCGにしても、その技術や美しさにびっくりしましたよ。

「アリータ:バトル・エンジェル」より、クズ鉄町とザレムの風景。

──クズ鉄町も、一見ボロボロですけどとても美しいですよね。

そうなんですよね。ボロボロなのに生活感があるというか、社会として成立している。「クズ鉄町」なんていうと、荒んだ廃墟みたいに感じる人もいるかもしれないけど、意外にそれぞれの生活があって、みんなそれなりに幸せに暮らしていて。きっとイドたち以外にも面白いキャラクターもいっぱいいると思うんですよ。あの町でどんな生活をしているのか、すごく興味があります。

ジェームズ・キャメロンは、本当に日本に対する愛が強い

──日本のマンガを原作に、ジェームズ・キャメロン監督が製作を務めるということで、非常に注目度も高い作品ですね。

ジェームズ・キャメロンは、本当に日本に対する愛が強いですよね。近未来を描いたマンガって、日本が得意分野とするところですし、たくさんの作品がある。その中で「銃夢」という作品を見つけ出し、惚れ込んでずっと温めて、今のこの時代に出してきた。こういった日本のサブカルチャーも含めて認めてもらって、取り込んでくれているのは、素晴らしいことだなと思います。しかも作品の世界観をしっかり映像として具現化してくれて、僕も声だけとはいえ、そんな作品に参加できたことを光栄に思います。

──今回、イドは原作よりもだいぶ年上に変更になっていますし、亡くなった娘や妻のチレンといった設定も増えていますね。

そうですね。映画のイドについては、テーマとしては「父親」という要素が大きく乗ってくる。最愛の子供を亡くして、常にロスしたものを背負いながら生きていた中、運命的にアリータと出会った。娘の代わりというわけではないんだけども、娘のように大切に彼女と接していく。アリータが、イドに空いた大きな穴を埋めてくれたんですね。まあアリータには「私はあなたの娘じゃない」って言われてしまうんですけど(笑)。でもそれを理解しながらも、自分の娘と重ね合わせながら成長を見守る存在だと思って演じました。

「アリータ:バトル・エンジェル」より、イド。

──特に映画では父親っぽさが全面に出ていますよね。それでいて、元はザレム人であったり、ハンターだったりと原作と同じく秘密を抱えたキャラクターでもあります。

根はすごく優しい男だと思うんですが、裏の顔がいっぱいありますからね。そこは物語が進んでいくに連れて明かされていく部分もありますが、映画本編ではすべてが明らかになるわけではなく。ザレム自体もまだ謎が多いし、彼がなぜ夫婦揃ってクズ鉄町に降りてきたのかもわからないままですから。そういったイドの秘密を抱えた部分も、声のニュアンスや演技で表現できたらいいなと思いました。

エモーショナルに演じるというより抑え気味に

──森川さんはトム・クルーズやキアヌ・リーヴスなど、さまざまな俳優の声を務めてらっしゃいますよね。今回、イドを演じられるにあたってどんなアプローチをされたんでしょうか。

過去をずっと引きずったまま、抜け出せないでいる寂しい男というか、あまりにもポッカリと心に穴が空いてるんですよね。だからエモーショナルに演じるというより抑え気味に、一歩引いた演技を心がけていました。

森川智之

──(先にインタビューをした)島﨑さんも神谷さんも「森川さんはやっぱりすげえ」と声を揃えておっしゃっていて。

いやいや(笑)。

──島﨑さんはヒューゴ、神谷さんはザパンを演じられていますが、おふたりの演技はいかがでしたか?

信長くんの芝居はピュアでよかったですね。劇場作品の吹き替えでメインキャストをやるのは初めてって聞いたけど、そんな感じ全然しなかったですよ。最初の登場シーンのちょっとスカした、クズ鉄町でチャラチャラしてる奴、みたいな見せ方も上手いし、ザレムに憧れてなりふり構わず悪事に手を染める姿もよかった。これはネタバレになってしまうので言えないけど、ヒューゴはラストシーンが印象に残ってます。

──では神谷さんのザパンはどうでしょうか。

神谷くんのザパン、面白かった! すごく面白かった。最初ザパンを観たときは「神谷くんっぽくないキャラだな」とは思ったんですけど、そこかしこに神谷節が炸裂していて、しっかりお土産残してるなと(笑)。彼も衝撃的なラストを迎えるんですけど、もうあの動揺している演技、素晴らしいですよ。

アリータのピュアさと、上白石さんが初めて挑む演技が重なった

──今回、アリータの役を上白石萌音さんが演じられています。一番共演するシーンが多かったと思うんですけど、上白石さんのアリータはどうでしたか。

「アリータ:バトル・エンジェル」よりアリータとイド。

いや、もうピッタリですよ。すごかった……と思いません?

──思いました……!

アリータって、ごみ溜から拾われて、何も知らない赤ん坊のような状態からスタートして、凄まじいバトルを繰り広げるように成長するわけで、言ったら0から100まであるじゃないですか、表現の幅が。なかなか難しい仕事ですよ。だから正直、大丈夫なのかなって、老婆心ながら不安だったんです(笑)。でも試写を観る前に、日本語吹替版のトレーラーを録ったんですけど、彼女のセリフが入っている映像を聞きながら収録しまして。それを聞いたときに「え!」と驚いて。彼女の才能というか……彼女がどこまで考えて、どこまで声の演技のことを理解しながら表現しているか、僕にはわからないけれども、形として残っているものを観させてもらって、素直にすごいなと思いましたね。なんの心配なく、最後まで観ていられました。

──上白石さんは洋画の吹き替え初挑戦なんですよ。

これは僕の解釈なんですけど、アリータって目が大きいじゃないですか。あの目の大きさって、何に対しても興味がある、なんでも知りたいっていうアリータの気持ちが表現されているんじゃないかと思っていて。イドに身体を与えられて、記憶が何もない状況の中だからこそ、もらったオレンジを皮ごとかじったり、チョコレートをむしゃむしゃ食べたり、ヒューゴに対しても異性としてすごく興味津々でね(笑)。アリータの目の大きさってそういう演出意図もあるのかなって思いながら観ていたんですよ。何も知らない、わからないところから、いろんなものを見聞きして、自分の信じたもののために行動していく……。上白石さんがそこまで考えているかって言ったら、考えてないと思うんですが、そのアリータのピュアさと、彼女が初めて挑む演技が重なったんじゃないかな。

森川智之

──アリータにかなり感情移入されて、アフレコにも挑んだそうです。

きっと、彼女は本当にアリータとして生きようとして、全部感じたままにぶち当ててるんだろうね。どうしても僕らは、「ブレス合ってるかな」とか「リップシンクはもう少しこうすればよかった」とかいろんな反省をしながら観ちゃうんですけど、そういう技術的なものを吹き飛ばすエネルギーを感じました。

──視聴者側の立場でも、俳優と声優の演技って、やっぱり違うお仕事の人がやっているなと感じることは多いですが、上白石さんにはそういう違和感がまったくなかったです。

森川智之

すごいよね。まあ声優はついサービスしすぎちゃうから(笑)。アニメは2次元の世界なので、エモーショナルにやったほうがハマるから、どうしてもオーバーに、デフォルメしすぎる部分がある。我々は黙っていると仕事にならないので(笑)、声だけですべてを表現しようとしちゃうんですよ。それは僕らの悪い癖でもあって。でも実写は、黙っているときでも間や空気、表情で演技ができる。そういう意味では、吹き替えは役者さんの演技を踏まえて、抑えながらマッチする部分に収めていく作業ですね。

──では最後に、これから映画を観る方にメッセージをお願いします。

なんと言っても吹替版のいいところは、字を追わなくていいので、映像美を十分に楽しめること。アリータの表情やアクションシーンも、細かいところまで堪能できるし、やっぱり上白石さんの演技が素晴らしいので、吹き替えも観てほしいです。でもどういう理由であれ、劇場に足を運んでもらえれば、映画が始まったと同時に「アリータ」の世界に入り込めることは間違いないので、自由に楽しんでもらえたら。あと個人的には女性に観てほしい。

──それは最初におっしゃった、アリータとヒューゴのロマンス的な部分ですかね?

ロマンス的な部分もそうだし、今の時代にマッチする物語なんじゃないかな。アリータの持っている芯の強さ、正義感に何かを感じてもらいたいなと思いますね。