大高忍が語る映画「アラジン」|“変わりたい”という思いを力強く肯定してくれる、「マギ」の作者が豪華絢爛な映像から受け取った前向きなメッセージ

「ホール・ニュー・ワールド」などの名曲で知られる、ディズニーの名作アニメーション映画「アラジン」が実写映画化され、ついに日本でも上映がスタートした。主人公のアラジン役にはメナ・マスード、ディズニープリンセスとしても人気の高いジャスミン役にはナオミ・スコットといった若手俳優が抜擢され、ランプの魔人ジーニー役はウィル・スミスが演じている。プレミアム吹替版ではアラジン役を人気俳優の中村倫也、ジャスミン役を新進気鋭のミュージカル女優・木下晴香が担当。さらに、ジーニー役はこれまでにもウィル・スミスの吹替を多く務め、アニメーション版でも同キャラクターを演じた山寺宏一が担当することでも話題を呼んでいる。

ナタリーでは映画「アラジン」の公開を記念した特集を展開。コミックナタリーでは「千夜一夜物語」をモチーフに、アラジンという名の少年を主人公とした物語「マギ」でヒットを飛ばした大高忍へインタビューを依頼した。歌あり、踊りあり、アクションありと、エンタテインメント満載の同作から大高が受け取った“前向き”なメッセージとは? 「マギ」と「アラジン」の共通点を挙げながら語ってもらった。なお音楽ナタリーでは、=LOVEの齊藤なぎさによるインタビューも公開されているので、こちらも併せてチェックしてほしい。

取材・文 / 大谷隆之

ディズニーランドのパレードのような体験

──誰もが知るディズニーの名作アニメーション「アラジン」を実写映画化した本作。ご覧になった感想はいかがでしたか?

「マギ」のイラスト。「マギ」は「千夜一夜物語」をモチーフに、アラジンという名の少年を主人公とした冒険ファンタジー。同作で少年少女の心を掴んだ大高は、同じくアラジンという名の少年を主人公とした「アラジン」をどう見たか?

楽しかったです。試写の後、このインタビューのお仕事が控えているのもすっかり忘れて。思いっきり没入しちゃいました(笑)。

──何にそんなに心を掴まれたのでしょう?

まずはやっぱり、ビジュアルの完成度ですね。豪華な宮殿。石造りの街並み。埃っぽい路地裏。あとは王族から庶民まで、さまざまな人々が身に着けている色とりどりの衣装! 自分が好きな「千夜一夜物語」のモチーフがふんだんに入っていて、匂いまで感じられそうな世界観そのものがエンタテインメントだなって思いました。たとえばオープニングで、主人公のアラジンとお猿のアブーがバザール(市場)みたいな場所を逃げ回るでしょう。

──アニメーション版にも登場する有名な場面ですね。今回の実写版ではオリジナルのシークエンスを踏襲しながら、アラジンと追っ手のチェイスをよりたっぷりと細かいところまで見せています。

映画「アラジン」より。

あそこですごいのは、アラジンがいきなり、上下左右すべての方向に動きまくるじゃないですか。パッと土の壁を駆け上がったと思ったら、次の瞬間には高い屋根からピョーンと飛び降りたりして。それをカメラがいろんなアングルから自在に追いかけていく。見てるこっちも、まるで彼と一緒にアグラバーの町を駆け抜けている感覚になるんですよね。あの冒頭のシーンで、完全に「アラジン」の世界に連れて行かれました。

──実写版ならではの、リアルな肌触りがあった。

そうですね。強い陽射しと、日本とはまったく違う乾いた空気感。スクリーンからアラビアの匂いが漂ってくる気がしました。ランプの魔人に1つ目の願いを叶えてもらったアラジンが、王子様に姿を変えてアグラバーに帰ってくるシーンも楽しかったです。象に乗って、長い行列を引き連れて……。個人的にはなぜか、東京ディズニーランドのパレードを連想しちゃったんですけど。

──ああ、なるほど。

要は、完璧なファンタジー世界を見せてくれるってことなんでしょうね。見ていて「あ、また久々にパレード行きたいな」って思いました。劇中何カ所か、フラッシュモブみたいなダンスが突然入ってくる演出も今っぽくて楽しいし。しかも、そういう視覚的・体感的な面白さに加えて、ちゃんと現代的なテーマみたいなものも盛り込まれている。そこがまた、作品として素敵だなと。

──例えば、どういった部分ですか?

登場人物がそれぞれ、いろんな願いを心に秘めているところかな。この映画のモチーフになっている「アラジンと魔法のランプ」って、それ自体はけっこうシンプルなお話なんですよね。貧しい青年が洞窟の中で魔法のランプを手に入れて、魔神の力でお金持ちになる。一度は悪い魔術師に身ぐるみをはがされてしまうけれど、最後はランプを取り戻して、愛するお姫様と結ばれる。うんと単純化して言うと、そういう物語だと思うんですよ。

──そうですね。確かに。

映画「アラジン」より、ジャスミンとアラジン。

そこには「富を得たい」とか「幸せに暮らしたい」という、昔から変わらない普遍的な願望が流れている。でもそれだけだと、現代を生きる観客にはたぶん響かないでしょう。本作のアラジンは、お姫様のジャスミンに対して「自分はジーニーの力で王子になったのに、嘘をついたまま幸せになっていいのか」という葛藤を抱えてますし。ジャスミンはジャスミンで、王宮から飛び出して世界を見たいと願っている。「千夜一夜物語」という古典が持っている強さを十分に生かしつつ、現代の人が感情移入できる要素もいろいろ入っている気がしました。単なるハッピーエンドの物語ということではなく。

──大高さん自身は、どのキャラクターに思い入れを?

映画「アラジン」より、ジーニー。

うーん……。私は断然、ジーニーかな。自分でも嫌なんですけど。

──1000年間ランプに閉じ込められていた魔人ジーニーに? 一体なぜですか?

ジーニーと同じで、たぶん私の心にも「解き放たれたい」という願望があるんじゃないかな。自分では自由に生きてきたつもりだったのに、怖いですよね! どのキャラクターに心を惹かれるかで、その人が本当に求めているものが炙り出されちゃう。だから観る方は覚悟していかないと!

──ははは(笑)。

まあ、それは冗談として。置かれている状況によっていろんなキャラクターに感情移入できるのは、「アラジン」という映画の魅力じゃないかな。例えば出世して大勢から認められたい人は、悪役のジャファーに共感してもおかしくないと思うし。自分でも気付かない願望が見えたりするかもしれない。

ジーニーはランプに閉じ込められていたけど、私は何に囚われているんだろう……

──ジーニー役のウィル・スミスの印象はいかがでした?

当然ですけど、めちゃくちゃ上手かった! 歌ったり踊ったりラップしたり、本当にのびのび楽しそうでした。でもそういう豊かな表情の裏側に、寂しさも感じさせる。なんだろう、“サラリーマンの哀愁”みたいな感じかな。

──え? “宇宙最強の魔人”がサラリーマン、ですか。

使われる者の悲しさ、ですかね。ほらジーニーって、どんな圧倒的なパワーを持っていても、それを自分のためには使えないでしょう。だから、変なたとえだけど、つい「社畜」って言葉を思い出しちゃうんです。アラジンに対しては余裕たっぷりに振る舞っていても、自分のことになると微妙に表情が曇ったり動揺したりする。そのギャップが妙に心に残って。

──テンションの高さと、寂しげな佇まいとのコントラストが絶妙で。ついつい感情移入してしまうと。

映画「アラジン」より、アラジンとジーニー。

そうだと思います。「ジーニーはランプに閉じ込められていたけど、私は何に囚われているんだろう」みたいな。本当はアラジンとかジャスミンについて語りたいのに、そこに反応しちゃう自分が情けない(笑)。ただ、そうやってジーニーをアニメーション版よりもっと人間くさいキャラに造形したことは、作品にとってはすごくよかった気はします。

──そういえばウィル・スミス本人も「キャリア30年の集大成」として本作に臨んだみたいですね。ラッパー、コメディアン、演技派俳優。これまで自分が培ったすべてを今回の実写版「アラジン」に注ぎこんだ、と。

なるほど。

──また彼自身も、ハリウッド・スターとしての重圧に苦しみ、そこから解放されたいと願った時期もあったそうで。そういう個人的な思いも、今回の役には強く反映されているらしいです。

へえ! ウィル・スミス本人の気持ちも反映されたキャラクターだったんですね。だからあんなにも、自由になりたいという気持ちが伝わってきたのか。納得しました。私、何も知らず「社畜の哀愁」とか言っちゃってホントすみません(笑)。

──いえいえ(笑)。アラジンを演じたメナ・マスードは1992年生まれの、エジプト系カナダ人。ジャスミンを演じたナオミ・スコットは1993年生まれの英国人で、母方はアフリカやインドの血を引いています。若手2人の印象はいかがでしたか?

映画「アラジン」より、ジャスミン。

とてもフレッシュでしたね。特にアラジン役の俳優さんは、「このチャンスをステップにもっと成長するんだ!」という思いがいい意味で出ていて、迫力がありました。劇中では偉い人から「クズ」「ドブネズミ」みたいなひどいことを言われてましたけれど(笑)。“なにくそ”感が全身から滲んでる気がした。すごく主人公らしい主人公だなと。ジャスミン役の女優さんはとにかく笑顔がキュート。お金を払わずに貧しい子どもにパンを渡しちゃう天真爛漫さとか、よく出ていました。ただ彼女の役は、1992年のアニメーション版よりもさらに時代に合わせてアップデートされている感じもしました。

──具体的にはどういう部分でしょう?

いわゆる「王子様の登場を待っている受動的プリンセス」ではなくて。自分が欲しいものは欲しい、要らないものは要らないとはっきり主張する、自立した女性として描かれているところ。それと劇中、ピンチに陥ったジャスミンが熱唱するミュージカルシーンがありますよね。

──新曲の「スピーチレス~心の声」ですね。

あの曲を歌っているヒロインの表情が、すごく強い意志を感じさせて。どこか映画「アナと雪の女王」の劇中歌「レット・イット・ゴー」を思い出させる、凜とした迫力が伝わってきました。この部分こそきっと、制作チームが新たに加えたかった大切なテーマなんだろうなって。ファンの愛着が強いオリジナル版のプロットは基本変えず、でも時代に合わせてきちんとブラッシュアップもされている。そんなバランス感覚もディズニーらしいですね。それで言うと、ジャスミンの侍女さんが一番印象的だったかもしれない。

──ナシム・ペドラド演じるダリア。彼女も1992年のアニメーション版には出てこない、実写版からの新キャラクターです。

彼女はジャスミン王女とはまた違った意味で、賢い女性なんですよね。王女の将来を心から案じつつ、「あなたは恵まれた立場にいるんだから、変に軋轢を起こさず、それを享受して楽しく生きたらどうですか」ってアドバイスする。環境にうまく適応して生きていける人だと思います。彼女の存在があるから、ジャスミンの若さや生きづらさもドラマの中でより際立つ。あと、ダリアを敵対する存在として描くんじゃなく、2人がちゃんと友情で結ばれているところもリアルでいいなと感じました。だって、現実はそんな簡単に割り切れないですし。

──そう考えると、ダリアが最後に下す選択も興味深い。

そうですね(笑)。そこはぜひ、映画館で確かめていただきたいです。

「アラジン」
公開中
ストーリー

“ダイヤモンドの心”を持ちながら、本当の自分の居場所を探す貧しい青年アラジンが巡り合ったのは、王宮の外の世界での自由を求める王女ジャスミンと、“3つの願い”を叶えることができる“ランプの魔人”ジーニー。アラジンとジャスミンの心が重なるとき、昨日と同じ世界が “新しい世界”となって輝き出し、2人はこれまで気付かなかった願いに気付いていく。この身分違いの恋を見守るジーニーもまた、宇宙で最も偉大な力を持ちながらも、ランプから自由になることを密かに願っていた。この運命の出会いによって、彼らはそれぞれの“本当の願い”を叶えることができるのだろうか……?

スタッフ

監督:ガイ・リッチー

脚本:ジョン・オーガスト、ガイ・リッチー

音楽:アラン・メンケン

キャスト

アラジン:メナ・マスード

ジャスミン:ナオミ・スコット

ジーニー:ウィル・スミス

ジャファー:マーワン・ケンザリ

プレミアム吹替版キャスト

アラジン:中村倫也

ジャスミン:木下晴香

ジーニー:山寺宏一

ジャファー:北村一輝

大高忍(オオタカシノブ)
大高忍
2003年、ガンガンパワード(スクウェア・エニックス)にて「芥町」でデビュー。2004年のヤングガンガン(スクウェア・エニックス)創刊号より「すもももももも ~地上最強のヨメ~」を連載。同作は2006年にTVアニメ化されるなどヒットを飛ばす。2009年からは、かねてからの夢であった週刊少年マンガ誌での連載を果たすべく、週刊少年サンデー(小学館)に移籍。同誌で2009年から2017年にかけて、魔導アドベンチャー「マギ」の連載を行った。同作は2014年に第59回小学館漫画賞少年向け部門を受賞し、2期にわたるTVアニメも放送された。また「マギ」のスピンオフとなる「マギ シンドバッドの冒険」も連載され、同作もTVアニメ化されるなどシリーズを通して人気を博した。2018年からは週刊少年マガジン(講談社)にて「オリエント」を連載中。