映画「惡の華」押見修造×井口昇監督インタビュー|破滅の先まで描かないと、本当に伝えたいことが伝えられない―― 互いがリスペクトし合う蜜月関係から生まれた“最高傑作”に迫る

「しつこい」と思われるまで何度もリテイクした変態シーン

──映画の中で、ベストシーンを挙げるとしたらどこでしょうか。

映画「惡の華」より。華」より、佐伯奈々子。

押見 うーん……。女子のパンツがぶら下がっている秘密基地の中で、仲村さんが足を組んだときに、春日が「ウッ」となるシーンですかね(笑)。

井口 やったー、うれしいです! あそこは僕もめちゃくちゃ演出をこだわっていたんですよ。普段はそんなにリテイクは出さないんですけど、あそこだけは何回もやりました(笑)。伊藤健太郎さんに「玉城さんが足を組む瞬間に、股の間が見えるベストポジションにいまだかつてない素早さで動いてください」とお伝えして。

──すごいディレクションですね(笑)。

井口 あと、仲村さんから「変態野郎」と言われているときの表情は、実際に僕が1回やって見せました。「こうだ!」って。

押見 (笑)。あそこは演技指導があったんですね。

井口 「しつこい」と言われるくらいやりましたね。ほかのシーンは多くて2~3テイクくらいなんですけど、そのシーンは5回以上はやったと思います。「もっとうっとりしてくれる?」って。でも、健太郎さんはすごく頭の回転の早い方なのでありがたかったです。健太郎さんだけでなく、玉城さんも秋田さんも、原作の世界観をしっかり理解して現場に入ってくださったおかげで、撮影はとても順調でした。

押見 原作者として映画を観ていても、「そうそう!」とうなずいてしまう瞬間が何度もありました。とくに玉城さんが演じた仲村さんは、セリフの言い回しもそうですが、ひとつひとつの所作が生き写しみたいな感覚があって。

井口 それはやっぱり先生が女の子の仕草を描くのが本当に上手だからだと思いますよ。女の子がセーターの袖口をきゅっと握っている描写とか、ああいうちょっとした仕草を丁寧に描写されているんです。だから「惡の華」を映像化するときは、とにかくディテールにこだわろうと思っていて。佐伯さんが春日とのデートで歩道橋を歩くとき、原作ではバッグを(体の正面で)両手で持つんですよ。秋田さんは「そんな持ち方したことないですよ」と笑うんですけど、「やらなかったらOK出しませんから!」って(笑)。

押見 本当にすごいです。そういう細かいところまで、全部拾ってくださっていたんですね。

今悩んでいる思春期の子たちを救う作品になってほしい

──最後にこれから映画を楽しみにしている方々に向けて、どういう部分を観てほしいか、ぜひ思いの丈を伝えていただけますか。

インタビュー中の様子。

井口 「惡の華」は、これを映像化できるなら監督を引退してもいい、と思うくらい念願の作品だったので、実際にこうして公開に漕ぎ着けたことがまずうれしいです。マンガやアニメを実写化すると、原作とは違う解釈で描かれるケースも多いと思うんですけど、今回の映画は押見先生の世界を忠実に再現しようとした作品です。僕は押見先生の作品はすでに映像的だと思っているので、なるべく原作の良さを壊さないで、コマ割りさえも忠実に再現したいくらい、尊重したいなと思っていました。あとはやっぱり、この作品を観てくださったお客さん、特に「自分は異常じゃないか」「どうやって生きていったらいいか」と悩んでいる方にとっての救いになってほしい。僕も思春期の頃、こういう青春映画に救われた部分があったので、同じような存在になれたらと思います。

押見 大切なことは全部、井口監督が言ってくださいましたが(笑)。僕が映画を観たとき、自分が「惡の華」を描いていて、隠し切れずににじみ出てしまっていた自分の生理的な部分を、監督が全部すくい取ってくださった感じがすごくしたんです。それは原作者として非常にうれしかったし、純粋に井口監督のファンの1人として、「井口監督の作品では『惡の華』が一番好き」と言えることがすごく幸せです。

──これまで井口監督が撮られた作品の中でも、「惡の華」が最高傑作だと。

押見修造

押見 本当にそうだと思います。

井口 うわー、泣きそうです。ありがとうございます!

押見 「惡の華」は連載当時、小中学生の子供たちが意外と読んでくださっていて、これまでにたびたびメッセージをいただくことがありました。僕もかつてマンガや映画など、暗い青春が描かれている作品を見て「自分もこういうのを描きたい」と思っていましたし、井口監督の作品からはそれをアウトプットする方法を教えていただきました。そうして描いた「惡の華」を、今度は井口監督が映像化してくださって、それをまた若い世代の方が観てくださるというのは、しっかりバトンを渡せたような、何か役割を果たせたような感じがあって、すごく感慨深いです。だから映画だけでも、できるだけ幅広い世代に観てほしいと思います。もちろんその後にマンガを読んでくれたらうれしいんですけど(笑)。

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2019年9月25日更新