コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第6回 あいだ夏波「圏外プリンセス」「スイッチガール!!」
スクールカーストのリアルを追求する
スクールカーストは、意外と簡単に崩れることもある
──友情にも非常に重きを置いて描いていらっしゃる感じがしています。「圏外プリンセス」では、3人組の仲良しの1人マルちゃんが、男子と打ち解けていく美人(みと)と彼氏のいる春に疎外感を感じてしまうエピソードがあって、とても胸を打たれました。
恋愛が苦手な分、ほかに目が行きやすいというのはやっぱりあると思います。学生時代のことは、いいことも悪いことも、友達関係で覚えていることがたくさんあって。あの時の感情を描けないかなと思っています。あの子とあの子は表面的に仲良くしているけど実際どうなんだろう、今どう思ったんだろう、っていう一瞬を見逃さない、みたいなタイプで。観察したり推察するのが当時から好きだったんですよね。
──大人が読んでも、3人が気持ちをぶつけあって友情が復活する場面を見て泣けてくるということは、リアルタイムで悩んでいる学生さんたちが読んだらどれだけ勇気づけられるだろうと思います。
3人組っていうのが、仲良くなりやすい反面トラブルも起きやすいですしね。そこは共感してもらえるんじゃないかなと思います。私も、マルちゃん側になったことも、美人(みと)とか春ちゃん側になったこともあって、どっちの気持ちもわかるから、どっちの感情も描きたくて。板挟みになっちゃってる春ちゃんの感情も、「ああ、すごく気を遣ってるなあ」とすごくよくわかる。新しい世界に出会って浮かれちゃって、周りが見えなくなっちゃう美人(みと)の気持ちもわかる。そういうことってありますよね。みんなが被害者であって、加害者であって、悪がいるわけじゃない。3人の間に流れているぎこちない、微妙な空気が描きたかった。すれ違いだけでこんなふうになっちゃうこともあるし、本音を出せば、またちゃんとひとつになれるんだ、と。
──「スイッチガール!!」のキモくんのキャラクターもとてもよくて。いわゆるスクールカースト的なものでは下のほうに位置する男子ですが、境界線みたいなものを越えて、違うグループの人とも友情は作れるんだ!ということが彼を通して伝わってきました。
実は、そこはすごく描きたかったところなんです。普通はなかなか、キモのようなポジションの男子と新とかマサムネのような頂点のポジションにいる男子が交わることはほとんどないし、友情も生まれないと思う。ちょっと話して「ああ、いい人だ」って思うくらいで終わることがほとんどで。でもキモたちは徐々に仲良くなっていって、最後は完全な仲間になる。学校って、小さな社会、小さな国みたいですよね。逃げられない場所みたいなところでもあって。「圏外プリンセス」に出てくる美人(みと)たちも、スクールカーストでいうと、あんまり高くないところにいて。(クラスメイトの)増木さんのような「上位の子たち」とはそれほど交わりはしないんだけど、1対1で話してみると、「そんなに悪いやつじゃなかったんだな」みたいに意外な面が見られたりする。私の夢が入っているとも思うんですが、カーストは狭い社会の中では絶対的なものでありつつ、意外と簡単に崩れるものでもある……そういう部分も描きたかった。
──増木さん、すごくいいですよね。ジャケットを返すときに、ちゃんとメモを添えますよね。でもその字がすごく……汚くて(笑)。一気に好感度が上がりました。
ああいう字を書きそうだなと思って(笑)。女の子の書く、読みづらい字。書体のサイトで調べて、あの字を選びました。性格って字に出るので。
──そこまでこだわっていらっしゃるんですね。単行本の空きスペースにはいろんな人の日誌が挿入されていますが、それぞれに、その人らしい字で書かれています。
あれが結構大変で……美人(みと)のお父さんの字は、実際に私の父親に書いてもらって。マルちゃんは、昔ああいう字を書く子がいたんですよ。ビシッと定規で引いたような字を書く。美人(みと)は私のまんまの字です。
そーっと興味を持ってもらえる、“楽しい性教育”をやりたい
──先ほど言った毛の処理問題のことなどもそうですが、たくさん生々しいことや下ネタが出て来るのも特徴的ですよね。
はい(笑)。小学生が読んでいるのに、こんなに下ネタを描いて大丈夫かな!?と思ってはいたんですが、彼女たちは、わからない下ネタは飛ばして読んでくれるんですよね。「よくわかんない」とか、「わかんないけどこうかな?」「大きくなったらわかるかな?」なんて思うだけで。私も一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」に「腰は男の命」っていうセリフが出てきた時に、なぜ命なのかがわからなかったんですが、大人になって「あ、そういうことね」と謎解きができて(笑)。「たぶん大人なことが描いてあるんだな……それを読んでる私、大人!」っていう、ちょっと優越感みたいなものも持つんですよね。たまに「実は私、あれ知っちゃってるんです。私ってエロいんです」みたいなお手紙をいただくんですが、すごくかわいくて。「私だけが知ってる秘密」みたいな感じで読んでくれているんじゃないかなと。
──確かに子供の頃って、エッチな部分をそうやって読んでいました。
下ネタをマンガに入れることに関しては、個人的なこだわりがありまして。
──こだわりですか。
学校で教える性教育って、きれいごとが多いような気がしていて、あまり役には立たない。それなのに、少子化だから子供は産め、みたいなことは言われる。中間がぽっかり抜けちゃっているように思うんです。じゃあそこは何で学べばいいのかって言ったら、もちろんネットもあるとは思うんですが、私はマンガで学んだんですよね。小学校中学年くらいの時から桂正和先生の「電影少女」とか、エッチなマンガに興味を持って読んでいたんですよ。そーっと興味を持って、そーっと読む。私のマンガにも、自分が子供の頃に読んだちょっとエッチなマンガにあったような、情報みたいなものをいっぱい描いて、そーっと興味を持ってほしいなと。
──確かに、マンガはそういう役割を担っているところはありますね。
“楽しい性教育”みたいなものを、やれたらいいなと。恋愛や性のことに興味を持ちはじめている子たちが、もう一歩知ることができる、みたいな。だけど、読んでもちゃんとはわからないんですけどね。なんだかわからないけれど、もう少しで手の届きそうな高いところにある、おいしい何か、みたいなことは感じている(笑)。ちょっと危険な感じを見せたいなと思って、下ネタをいっぱい描いてきました。
──なるほど……ただ面白く読んできましたが、そんなに深い意図があったんですね!
はい(笑)。
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あいだ夏波(アイダナツミ)
2001年、マーガレット(集英社)にて「そんな聖なる夜も」でデビュー。 その後、「純情ポルノ」「革命教室」といった作品を発表する。2006年から2014年まで同誌にて連載された「スイッチガール!!」は累計680万部の大ヒット作となり、ドラマ化もされた。2014年6月より、同じくマーガレットにて「圏外プリンセス」を連載中。
2016年1月22日更新