コミックナタリー Power Push - ゲッサン1周年記念特別インタビュー あだち充
色褪せることない永遠の少年心 デビュー40年、生涯「ムフ」宣言!
いろいろ試せた少女マンガ時代
──20代で売れなくてよかった、ってフレーズはあだち先生、折に触れていろんなところでおっしゃってますけど、それは単に遊ぶ時間があって楽しかったって話ではないですよね?
20代くらいで売れて、消えていった人が山のようにいるんだよ、あの頃は。
──消えていったというのは、消費されてしまう、飽きられてしまうという外的な理由と、もうひとつは作家として枯渇する、描けなくなってしまうという内的な理由とあると思うんですが。
ものすごい流れが速かったでしょ、時代的に。特に少年誌ってどんどんマンガが変わっていったから、いきなり数年で絵が古くなったりしてましたからね。その頃にいっぱい消えましたよね。特に昔のマンガ家たち、付いていけなくなって。
──いまだと絵柄が古ければ古いで「古い絵の人」として人気を得ていたりもしますけど。
昔のマンガ家たちが時流に合わせようと苦労して、絵柄変えたりなんかしたの。それでものすごく不自然な、絵のバランスが崩れちゃったりした人、いっぱいいますから。
──あだち先生は、そういうのを見て流行の絵柄との距離感とかは考えたり?
とりあえず絵を描くのは好きだから、両極端とも描いてたね、劇画っぽいのも子供っぽいのも。劇画も本当に好きだったんですよ。それで子供っぽい、マンガっぽいのも好きだから、両方描けたんです。
──それは器用だったってことですよね。
まあ器用といえば器用だったのかも。原作に合わせて絵を選んで描いていたような感じでした。だから売れなかったんだよ。編集の人も使いどころが定まらなくって。
──俺はこれだな、この絵で行くぞ、っていうのを決めたりしたのは。
ははは、それはですなー、少女マンガ時代、好きなように読み切りを描かせてくれたんだよね、オリジナルの。それがかなり練習になったと思うんだ。劇画調のも、いまみたいな匂いのするものも、いろいろ試して。その辺で自分らしい道みたいなもんが……見えたんでしょうか?(笑) そんな冷静には判断してなかったけどね、その当時は。
「ナイン」2話で自分の道を見つけた
──デビューして9年目、ようやく初めてのオリジナル連載「ナイン」が始まります。
描きたいものがなんとなく出てきたかな、という時代ですね。ちょうどその辺でオリジナルに目覚めてしまって。28歳かそんなもんかな。遅いっつーんだよ(笑)、デビューして10年近く経ってから。
──描きたいものっていうのは具体的にはどういうことですか?
原作付きを描いてた頃は文字を絵にすることがただ楽しかったんだけど、だんだん考えるようになってきて、自分だったらこうしたいとかいうのが出てきた。キャラクターが喋るセリフとかにちょっと、違和感を感じるようになってきたんだよね。この場面でこうは言わないんじゃないかとか、自分だったらこう言わせるのに、みたいな。
──なるほど。そのストーリーやセリフ回しに工夫しはじめた時期と、先程おっしゃっていた自分なりの絵柄を工夫しはじめたのって、同時期くらいなんですか。
少女マンガの読み切りの頃だよね、どっちも。それでようやく自分らしいやり方が見えてきたかな、ってとこで、「ナイン」で少年誌に戻るんです。少年誌ってことで、「ナイン」はどの絵でいこうかひどく悩んだ。結局1回目はかなり劇画調で描いて、けど2回目からは、もう。
──いまのあだち絵に連なる感じの。
その2回目、なんとなく自分の道を見つけた感じがするのは、「ナイン」の2話目だと思うんですよね。そっからは、ほとんどいまの路線。
──QuickJapan(Vol.62・太田出版)のインタビューで先生は、「ナイン」の頃に楽な描き方を見つけた、っておっしゃっていました。その「楽な描き方」とは何なのか、ずっと気になっていたんです。
あれ、そんなこと言ってた? 「ナイン」の1回目はものすごい力を入れて、熱血色も入れて描いたんだ。けど、2話目から思いっきり力抜いたんですよ。それは自分で意識したんだよね。そしたら読者の食いつきがやたらよかったので、ああこれでいいんだ、と。
──脱力…… 肩の力を抜いたらいい具合になったんですね。
基本的にうちのマンガはそっちだな、剛速球じゃないな、というのがわかったという。またその頃がちょうど、読者がそういうマンガを読んでくれる時期でもあったんだよね。世の風潮が。ほーんとその数年前までは、そういう力の抜けたマンガはダメだったんだ。熱血でない限り許されない少年誌界だったんだよ。
──時代の風潮とのアジャストがラッキーだったと。
それは本当にラッキーもいいとこだよね。熱血時代には生きられない作家ですから。あんな熱血一色の少年誌では……ほんとうに一色だったよね。それが世の中が少し変わってきて、でもまだ他のマンガはちゃんと熱血してたから、おかげで少女マンガ帰りの僕は助かった。生きる道があったんです。
あらすじ
6年前に事故で亡くなったはずの兄と地縛霊になって再会!?
やんちゃな兄・久の幽霊に高校生活をひっかき回されている弟・厚だったが、さらに厚のことを「初恋の人」と呼ぶ女の子“大内忍”の出現で……春の嵐の予感!?
あだち充が描くちょっぴり切ない兄弟の絆の物語、第2巻!!
8月号ラインナップ
原作 伊坂幸太郎・漫画 大須賀めぐみ「Waltz」/原作 犬村小六・作画 小川麻衣子「とある飛空士への追憶」/あだち充「QあんどA」/あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」/西森博之「いつか空から」/高田康太郎「ハレルヤオーバードライブ!」/森茶「BULLET ARMORS」/村枝賢一「妹先生 渚」/あずまよしお「ぼくらのカプトン」/原作 武論尊・作画 マツセダイチ/四位晴果「よしとおさま!」/原作 和田竜・作画 坂ノ睦「忍びの国」/島本和彦「アオイホノオ」/モリタイシ「まねこい」/ヒラマツ・ミノル「アサギロ~浅葱狼~」/原作 木原浩勝・漫画 伊藤潤二「怪、刺す」/福井あしび「マコトの王者~REAL DEAL CHAMPION~」/吉田正紀「楽神王~vero musica~」/中道裕大「月の蛇~水滸伝異聞~」/荒井智之「イボンヌと遊ぼう!」/ながいけん「第三世界の長井」/アントンシク「リンドバーグ」/横山裕二「いつかおまえとジルバを」/石井あゆみ「信長協奏曲」
あだち充(あだちみつる)
1951年2月9日、群馬県生まれ。本名は安達充(読み同じ)。石井いさみのアシスタントを経て、1970年にデラックス少年サンデー(小学館)にて北沢力(小澤さとる)原作による「消えた爆音」でデビュー。その後しばらく原作付き作品の執筆をメインに行い、幼年誌、少女誌での連載を経て、少年サンデー増刊(小学館)にてオリジナル作品「ナイン」を執筆。少女誌での連載経験を活かし、既存の野球漫画にはなかったソフトな作風で人気を博した。続く「みゆき」「タッチ」で第28回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。両作品ともアニメ化し、歴史に残る作品として幅広い世代に親しまれている。野球漫画家としても評価が高く、東京ヤクルトスワローズのファンとして球団の宣伝ポスターも手がけている。