実写版の影響を受けたっていうのは言えるかもしれない(新房)
──アニメの棋匠戦が楽しみです。アニメ「3月のライオン」は2016年10月から2017年3月まで第1シリーズが放送され、10月から第2シリーズが開幕。今年1月から第2クールがオンエアされています。第1シリーズと第2シリーズで変えたところはありますか?
新房 変えるつもりは全然ないので、変わったところはないと思います。もしちょっと違うところがあるとしたら、実写版の影響を受けたっていうのは言えるかもしれない。
──大友啓史監督の実写映画「3月のライオン」は、ちょうどアニメの第1シリーズが終わった2017年3月から4月にかけて前後編が公開されましたね。ご覧になっていかがでしたか?
新房 神木隆之介さんが演じた零は、本当に零そのものだって観ていて思いました。あの表情、あの動き、零が現実にいたら確実にこうなるっていう芝居でしたね。ちょっと運動神経が悪い走り方とかまで演じていたのですごいなあと。だからアニメのスタッフにも、できるだけ観てほしいと伝えました。「動く零って、たぶんこうだから」と。あと映画を観て、アニメの将棋の駒を汚くしたんですよ。
──なぜでしょう?
新房 映画で観た駒がめちゃくちゃ使い込まれてて渋くって。アニメの駒はキレイすぎた。でも第2シリーズからはちょっと汚れた感じにしてもらいました。
友田 実写映画では田中寅彦九段の秘蔵の駒をたくさん使ってて、もう芸術品だらけなんですよ。
新房 そうだったのですね。使い込まれた駒っていいですよね。あと第1シリーズと第2シリーズの違いをあえて挙げるとしたら、第2シリーズには「3月のライオン」好きのスタッフがより集まってくれています。それにキャラクターデザインの杉山(延寛)をはじめ、作画陣も慣れてきている分、どんどん自分の絵も取り込みつつ良い方向に向かっていっているかと。
新房監督は鬼気迫ってますよ(友田)
──第1シリーズはとても丁寧にじっくりと原作マンガをアニメ化している印象で、それから回が進むごとに、例えばある場面で野口先輩のタッチが野口英世の歴史学習マンガ風になったりと、アニメ独自の演出が入ってきていると感じました。
新房 最初は幅を探っていたので、そうかもしれませんね。第1シリーズは原作がある作品を確実に表現したいという思いが強くて、最近はここまではアニメの演出としてOKという部分を、徐々に広げています。
友田 第2シリーズの本読み(脚本を読んで内容を検討する会議)のときの監督は鬼気迫ってますよ。第1シリーズのときも要求が厳しかったですけど。
新房 早く終わらせて飲みに行きたいってことですかね(笑)。
友田 いやいや、そういう空気じゃなくて、気合いが乗ってる。本当に熱い思いを感じていて、羽海野さんは「幸せだ」ってよく話すんですよ。「キャストやスタッフの方々にがんばってもらって、こんなにいい映像を作ってもらって、幸せ以外の何物でもない」って。
──羽海野さんがアニメ「3月のライオン」をお好きなことは、羽海野さんのTwitterなどから伝わってきます。
友田 わかりますよね、本当に大好きで(笑)。さまざまな会社からアニメ化のお話をいただいたんですが、羽海野さんは新房さんが好きすぎて「新房さんじゃなきゃ嫌だ。そうじゃなかったらアニメ化できなくてもいい」と。
新房 そこまで思っていただけてありがたいですが、ちゃんと応えられているのか不安もありますね。
友田 いや、第2シリーズの4話の放送のあと、羽海野さんと「本当にすごすぎる」って話をして。「友田さん、私が新房監督を熱望したの間違ってなかったでしょ」って言われて、「うん、間違ってなかったからあんまり悩まず自信を持って生きていきましょうね」と言いました(笑)。
ひなた側に入り込まないように、公平に(新房)
──4話はひなたのいじめ問題が発覚する回で、第2シリーズの山場の1つでしたね。ひなたと仲良しのちほちゃんがクラスでいじめられて転校し、次にひなたにいじめの矛先が向くという。
友田 この部分って、原作も内容が濃くてマンガが掲載されたときもかなり反響があったんですが、アニメのスタッフとキャストたちが寄ってたかってもっと濃くしてくれた。作画も本当に美しいし演出もピタッとハマって、劇場版を観ているようでした。第2シリーズのピークはここなのかと思うくらい。
新房 そういえば4話の放送後に羽海野さんからLINEで「よかったです」って来て、安心しました。
──4話はどのような思いで制作されたんでしょう?
新房 いじめについてはできるだけ俯瞰して見せたくて、ひなた側に入り込まないようあえて公平に作っています。ほかのキャラクターが全部悪者で、ひなたがいい人で悲劇のヒロインというふうに見せたくなかった。ひなたたちのクラスの先生には先生の、積み重ねがあったりする。一概には言えないところがあると思っていて、僕たちがジャッジしていい部分ではないなと。観ている人に考えてほしかったんです。
友田 ちほをいじめた高城めぐみ役の悠木碧さんの演技、素晴らしかったですね。
新房 うん。嫌われ役を、腹をくくって演じてくれました。
──悠木碧さんは、キャスト決定時のコメントでも「観ている方に、イジメかっこ悪いと思ってもらうには、私がちゃんとイジメっ子然とできるかが鍵だと思うので、心苦しいという感情は捨てて、全力で嫌われにかかろうと思います!コイツだけは許せねぇ…と思ってもらえるよう、頑張ります!」とおっしゃっていましたね。
新房 こういう役者の覚悟を見ると、すごくうれしいですよ。
友田 このエピソードには、「自分のしたことはまちがってなんかない」と泣きながら言うひなたを見た零が「救われた」って思う場面があるじゃないですか。羽海野さんもすごい年月が経ってから、小中学生のときの自分が救われたって思った出来事があったらしくて。羽海野さん、本当に嘘が描けない人なんです。自分が思ったこと、感じたことしか描けない。
──「3月のライオン」のキャラクターたちの感情を、全部ご自身で感じているとしたらそれは凄まじいことですね。
友田 そう思います。僕が羽海野さんみたいに目や耳や心が敏感だったらどうなってしまうんだろうと。
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「3月のライオン」の食事はかわいさがないとダメ(新房)
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「3月のライオン」第5巻
(第2シリーズ1巻 / 全4巻) - 2018年1月24日発売 / アニプレックス
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12960円 / ANZX-13331 -
完全生産限定版 [DVD]
10800円 / ANZB-13331
- 収録内容
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- 本編DISC 1:第23話~第25話
- 本編DISC 2:第26話~第28話
- 特典内容
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- 特典DVD:9/3スペシャルイベント映像「川本家の秋まつり」
- キャラクターデザイン・杉山延寛描き下ろしBOX
- スペシャルブックレット
- シリーズディレクター:岡田堅二朗×第23話 絵コンテ・演出:大谷肇 スペシャルインタビュー
- 桐山零役:河西健吾×川本ひなた役:花澤香菜スペシャルインタビュー ほか
- キャストオーディオコメンタリー
- 本編DISC 1 第1話:河西健吾×茅野愛衣
- 本編DISC 2 第4話:花澤香菜×久野美咲
- エンドカードピンナップ
- 特典映像:ノンクレジットオープニング・エンディング/PV・CM
- アニメ「3月のライオン」
- NHK総合テレビにて毎週土曜23:00~23:25放送
※放送日時は変更となる場合があります - スタッフ
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- 原作:羽海野チカ(白泉社 ヤングアニマル連載)
- 監督:新房昭之
- キャラクターデザイン:杉山延寛
- 美術設定:名倉靖博
- 美術監督:田村せいき
- 音響監督:亀山俊樹
- 音楽:橋本由香利
- アニメーション制作:シャフト
- 製作:「3月のライオン」アニメ製作委員会
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- 桐山零:河西健吾
- 川本あかり:茅野愛衣
- 川本ひなた:花澤香菜
- 川本モモ:久野美咲
- 二海堂晴信:岡本信彦
- 幸田香子:井上麻里奈
- 高橋勇介:細谷佳正
- 島田開:三木眞一郎
- 三角龍雪:杉田智和
- 松本一砂:木村昴
- 川本相米二:千葉繁
- 林田高志:櫻井孝宏
- 宗谷冬司:石田彰
- 神宮寺崇徳:玄田哲章
- 横溝億泰:阪口大助
- 辻井武史:中村悠一
- 後藤正宗:東地宏樹
- 藤本雷堂:大塚明夫
- 柳原朔太郎:大塚芳忠
- 高城めぐみ:悠木碧
- 佐倉ちほ:西明日香
- 羽海野チカ「3月のライオン⑬」
- 発売中 / 白泉社
-
コミックス 525円
Kindle版 524円
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三月町の夏まつりで島田と初めて出会い、あかりと林田は、思いがけずそれぞれに転機を迎えることに。8月に開催される真夏の戦い・東洋オープンで、二海堂は“宗谷を倒した男”になるべく負けん気をたぎらせる。彼の指す将棋の駒音が、零や宗谷や滑川達、他の棋士達の胸中にまで響きわたっていく。
- 新房昭之(シンボウアキユキ)
- アニメーション監督、演出家。近年ではアニメ制作会社のシャフトを拠点としている。代表作に「〈物語〉」シリーズ、「ぱにぽにだっしゅ!」「さよなら絶望先生」「ひだまりスケッチ」「魔法少女まどか☆マギカ」など。
- 友田亮(トモダリョウ)
- 1992年に白泉社に入社。同年創刊のヤングアニマル編集部に配属。ヤングアニマル嵐編集長、花とゆめ編集長を経て、2015年よりヤングアニマルのある第三編集部部長を務めている。
- DVD「3月のライオン[前編]」
- 発売中 / 発売元:アスミック・エース / 販売元:東宝