アニメ「3月のライオン」が佳境を迎えている。2017年10月より連続2クールでオンエアされている第2シリーズでは、原作マンガでの発表時も大きな反響があったという、クラスのいじめに直面するひなたのエピソードを展開。この後は新人王になった桐山零が、宗谷名人と交流を果たす新人戦記念対局を経て、作中屈指の名勝負、柳原棋匠と島田八段が激突する棋匠戦へと続いていく。
コミックナタリーでは、羽海野チカが「『新房監督でシャフトさんで!』この夢が叶えられないのならアニメ化は出来無くてもいい……。」とまで願った新房昭之監督と、単行本のあとがきなどで羽海野と仲のいいやりとりを披露する担当編集者・友田亮の対談をセッティング。羽海野の魅力からキャストたちの覚悟、そして藤井聡太四段の話まで、縦横無尽に語ってもらった。
取材・文 / 三木美波
どこまでやったら引退なんだろう(新房)
──羽海野チカさんはどんな方ですか?
友田亮 これまでにもよく、他社自社問わず若い編集者にその質問をされることが多いんですが、そのたびに「たまらん魅力を持った人です」と答えてます。
新房昭之 ああ、わかります。
友田 「ハチミツとクローバー」「3月のライオン」という、これだけのヒット作を描いている人ですが、本当にいつもいつも、いろんなことに悩んでいるんです。
──3巻のあとがきでも、羽海野さんは「ネガティブエンジン」を持っていて、たまに大暴走してご自身が黒焦げになってしまう……と書かれていましたね。
友田 そう。羽海野さんもインタビューで言っていましたが、例えばある人間関係に悩むと、ずーっとずーっと十何年、ことによると何十年もそれについて考えて、消化して、マンガにする。彼女と打ち合わせすると、「人はここまで物事を考えられるのか」とか「そんな些細なことを考えてるの羽海野さんだけだよ」とか思ったりするんですけど、それが「3月のライオン」のエピソードに繋がってたりするんですよね。不思議な不思議な生き物・羽海野チカさん。
新房 初めてお会いしたとき、なんかすごい人が来るのかと思ったら小さい普通の人が来た。でも話をしていると、心に魔物を飼ってるんですよね。たぶん、たまにその魔物が言うことを聞かなくなるんだと思います。でもそれがいるから、あんなにすごいマンガを描ける。
友田 人の気持ちを揺らすスタンド使いなんだと思います。
新房 確かに(笑)。ひなたのいじめのくだりや柳原棋匠と島田八段の棋匠戦は、アニメにするのにチェックしていて、取り込まれそうでした。作品のことを考えて、3時間ぐらいぼーっとしてしまうことがある。だから「深く考えすぎちゃいかん!」って。
──66歳の現役プロ棋士最年長・柳原棋匠の永世棋匠が懸かり、島田八段が「何にかじりついたとしても」欲しいと願った初タイトルへの挑戦でもあった棋匠戦は、本当に心が締め付けられる激闘でした。
新房 柳原棋匠のも、島田八段のも、どちらの気持ちもわかるんですよ。冷静にはなれない。
──印象的な場面が多い「3月のライオン」の中で、監督が棋匠戦にそこまで心を動かされた理由はなんでしょう?
新房 今の自分が、その2人の間くらいにいるんじゃないかって思ってるからでしょうか。
──年齢的にも、立場的にも。
新房 僕もこれからどこまでやったら引退なんだろう、と考えたりします。次世代もどんどん出てきてるけど、ちょっとでもアニメを作れると思ったらもう1本やるのかもしれないし、わからないです。この歳になると、やっぱり業界の知り合いで亡くなる方がいらっしゃって。そのたびに「あ、僕はこの業界から去れないな」って思ってきました。
──一緒に戦ってきた仲間がどんどんいなくなり、おびただしい数のたすきを託された柳原棋匠に通じるお気持ちですね。
三木さんが「島田は声帯が潰れているはず」と(新房)
友田 羽海野さんが描いた将棋の対局の中でも、4巻の宗谷-島田戦と、8巻の柳原-島田戦はストーリーと将棋の内容もうまく噛み合っていて本当に傑作だと思います。棋匠戦が収録された8巻の表紙には柳原さんとたすきが描かれているんですが、本当は宗谷を描く予定だったんです。でも羽海野さんから「やっぱり柳原さんを描きたい。描いていいかしら?」って電話がかかってきて。「棋匠戦も素晴らしいし、ぜひ描いて」と言ったらすぐにラフを4枚くらい送ってきてくれた。「羽海野さんはどれが好きなの?」って聞いたら、今の表紙になったラフを挙げたので、僕も「これで行こう」となりました。羽海野さん、表紙に悩むからギリギリになることが多いんですけど、このときはすごく早くて。よっぽど気持ちが乗ってたんじゃないかな。
──友田さんのベストバウトはどちらも島田八段の対局ですね。島田八段は、自分を応援してくれている故郷の人々の期待に応えるためにも錦を飾りたいという思いが切なくて、つい力を入れて応援してしまうキャラクターです。
新房 僕もアニメの第1シリーズを振り返ってみると、島田八段のエピソードをやってるときがすごく楽しかったんです。やっぱり島田さんはすごくカッコいい。
──三木眞一郎さんの声もぴったりですよね。
新房 本当にそれに尽きる。三木眞一郎さんはすごいですよね。
友田 最初から島田の声をかなり作りこんでましたよね。
新房 そうそう。最初、「島田は胃が悪いから、胃酸が喉まで上がってきて声帯が潰れているはず」ってすごいガサガサの声で演じて。それはちょっとやりすぎということで今の声になりましたけど、そこまで考え抜いていてさすが三木さんだと思いました。僕の中で、最も信頼している声優さんといっても過言ではないです。
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実写版の影響を受けたっていうのは言えるかもしれない(新房)
- Blu-ray / DVD
「3月のライオン」第5巻
(第2シリーズ1巻 / 全4巻) - 2018年1月24日発売 / アニプレックス
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完全生産限定版 [Blu-ray]
12960円 / ANZX-13331 -
完全生産限定版 [DVD]
10800円 / ANZB-13331
- 収録内容
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- 本編DISC 1:第23話~第25話
- 本編DISC 2:第26話~第28話
- 特典内容
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- 特典DVD:9/3スペシャルイベント映像「川本家の秋まつり」
- キャラクターデザイン・杉山延寛描き下ろしBOX
- スペシャルブックレット
- シリーズディレクター:岡田堅二朗×第23話 絵コンテ・演出:大谷肇 スペシャルインタビュー
- 桐山零役:河西健吾×川本ひなた役:花澤香菜スペシャルインタビュー ほか
- キャストオーディオコメンタリー
- 本編DISC 1 第1話:河西健吾×茅野愛衣
- 本編DISC 2 第4話:花澤香菜×久野美咲
- エンドカードピンナップ
- 特典映像:ノンクレジットオープニング・エンディング/PV・CM
- アニメ「3月のライオン」
- NHK総合テレビにて毎週土曜23:00~23:25放送
※放送日時は変更となる場合があります - スタッフ
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- 原作:羽海野チカ(白泉社 ヤングアニマル連載)
- 監督:新房昭之
- キャラクターデザイン:杉山延寛
- 美術設定:名倉靖博
- 美術監督:田村せいき
- 音響監督:亀山俊樹
- 音楽:橋本由香利
- アニメーション制作:シャフト
- 製作:「3月のライオン」アニメ製作委員会
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- 桐山零:河西健吾
- 川本あかり:茅野愛衣
- 川本ひなた:花澤香菜
- 川本モモ:久野美咲
- 二海堂晴信:岡本信彦
- 幸田香子:井上麻里奈
- 高橋勇介:細谷佳正
- 島田開:三木眞一郎
- 三角龍雪:杉田智和
- 松本一砂:木村昴
- 川本相米二:千葉繁
- 林田高志:櫻井孝宏
- 宗谷冬司:石田彰
- 神宮寺崇徳:玄田哲章
- 横溝億泰:阪口大助
- 辻井武史:中村悠一
- 後藤正宗:東地宏樹
- 藤本雷堂:大塚明夫
- 柳原朔太郎:大塚芳忠
- 高城めぐみ:悠木碧
- 佐倉ちほ:西明日香
- 羽海野チカ「3月のライオン⑬」
- 発売中 / 白泉社
-
コミックス 525円
Kindle版 524円
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三月町の夏まつりで島田と初めて出会い、あかりと林田は、思いがけずそれぞれに転機を迎えることに。8月に開催される真夏の戦い・東洋オープンで、二海堂は“宗谷を倒した男”になるべく負けん気をたぎらせる。彼の指す将棋の駒音が、零や宗谷や滑川達、他の棋士達の胸中にまで響きわたっていく。
- 新房昭之(シンボウアキユキ)
- アニメーション監督、演出家。近年ではアニメ制作会社のシャフトを拠点としている。代表作に「〈物語〉」シリーズ、「ぱにぽにだっしゅ!」「さよなら絶望先生」「ひだまりスケッチ」「魔法少女まどか☆マギカ」など。
- 友田亮(トモダリョウ)
- 1992年に白泉社に入社。同年創刊のヤングアニマル編集部に配属。ヤングアニマル嵐編集長、花とゆめ編集長を経て、2015年よりヤングアニマルのある第三編集部部長を務めている。
- DVD「3月のライオン[前編]」
- 発売中 / 発売元:アスミック・エース / 販売元:東宝