コミックナタリー PowerPush - 映画「1/11 じゅういちぶんのいち」

1人のサッカー少年を巡る連作短編が実写映画化 原作者×監督×担当編集が座談会でパス交換

ジャンプスクエア(集英社)にて連載されているサッカーをテーマにした連作シリーズ、中村尚儁「1/11 じゅういちぶんのいち」が映画化を果たした。新進気鋭の映画監督・片岡翔によって、原作の短編群が1本の物語として紡がれていく。

コミックナタリーでは4月5日の公開を前に中村、片岡、担当編集の小菅隼太郎氏による座談会をセッティング。原作に込められた思いを紐解き、映画の見どころについて語ってもらった。また松居大悟、飯塚健、佐藤佐吉ら6人の映画監督から応援コメントも到着。こちらも併せてご一読あれ。

取材・文/宮津友徳

こんな変な形式のマンガ、映画にまとめるのは大変だったでしょう

──映画「1/11 じゅういちぶんのいち」の公開を記念しまして、監督の片岡翔さん、原作者の中村尚儁さん、そして担当編集者の小菅隼太郎さんにお集まりいただきました。中村さんは九州にお住まいとのことですが、片岡監督と会われるのは……。

映画「1/11 じゅういちぶんのいち」メインカット (c)2014 中村尚儁/集英社・「1/11 じゅういちぶんのいち」サポーターズ

中村尚儁 一度お会いしてるんです、撮影の見学に伺ったとき。撮影の最終日で大詰めだったので、お邪魔じゃなかったかなーと。すいません。マンガ家で言ったら締め切りの日に見学に来られるようなもんですもんね。

片岡翔 いやいや、まったく迷惑とかありませんし、こちらこそ狭い現場で座る場所もなくて申し訳なかったです。あのときは全然お話できなかったので、今日はたっぷり話せるかと思って楽しみにしてました。

中村 「1/11」はサッカーものとはいっても連作というか、オムニバスじゃないですか。こんな変な形式のマンガを1本の映画にまとめるのは、大変だったと思うんですが。

「1/11 じゅういちぶんのいち」より、唯一ほぼ全編にわたって登場する安藤ソラ。(c)中村尚儁/集英社

片岡 そうですね。各話ごとに主人公が違うし、どの話にもしっかりとした結末がありましたから、それを1本の物語として繋げたときにどう見せるのかっていうのは難しい部分でした。何度も脚本を書き直したり。

小菅隼太郎 最初僕たちのところに届いた脚本が第9稿でしたよね。「もう9回も書き直してるんだ」とびっくりしました。

中村 でもあの時点ですごく面白かったです。あれを読んで全面的にお任せして大丈夫だと確信したので。

片岡 ありがとうございます。やっぱりマンガと映画では見せ方が違ってくるので、どうしたら原作の良さを損なわずに映画としていい作品にできるか、それを考えていましたね。

新米監督はベテランスタッフからイジメられるって脅されてたんですが

中村 実はあの見学のとき、自分が書いたセリフを俳優さんがしゃべってるのを見て、ちょっと恥ずかしい気持ちになってたんですよ。なんだか自分の姿を見せられてるような感じがして。でもこないだ試写を拝見したらその違和感が払拭されていたので驚きました。「マンガのままだと恥ずかしいかな」と思っていた場面がアレンジされていたり。

──具体的にはどの場面ですか。

「1/11 じゅういちぶんのいち」より、仁菜が土下座をするシーン。(c)中村尚儁/集英社

中村 仁菜という子は父親に内緒でサッカー部のマネージャーをやってたんですが、バレちゃうんですよ。そのときマンガでは、土下座してマネージャーを続けたいって父親に言うんです。あそこ、映画では土下座はしないですよね。

片岡 生身の人間が演じると、土下座ではやりすぎになっちゃうかなと思ったんです。

中村 そういう部分を上手く変更して撮られていたので、片岡監督にやっていただいてよかったなと。片岡監督はこれが長編デビュー作なのに、限られた制約の中で上手く撮ってくださって、本当にすごいですよ。

片岡 それはスタッフの力が大きかったです。新米の監督はベテランスタッフからイジメられたり、怒鳴られたりするって脅かされていたからすごく怖かったんですが、実際は本当にいい方ばかりでした(笑)。

──撮影期間がたいへん短かったと聞きましたが。

片岡 10日間です。最初プロデューサーが「『1/11』だから11日間で撮る?」と言っていて、悪い冗談だと思っていたんですが、蓋を開けてみたらなぜか10日間で組まれていて(笑)。厳しいスケジュールだったんですが、スタッフに救われましたね、ほんと。

最近の高校生が使う言葉がわからなくて、喫茶店に行って聞き耳を

中村 10日で撮り切るのはありえないハイペースで、すごい手腕だと配給会社の方から伺いました。

「小説版1/11 じゅういちぶんのいち 行く春」(c)中村尚儁/集英社

小菅 中村先生も4月に出る小説版「1/11 じゅういちぶんのいち」はハイペースだったじゃないですか。

中村 小説は……大変でしたね。1週間ぐらいしか期間がなくて、イラストも描かなきゃならなくて。

片岡 えーっ、1週間で小説1本を書かれたんですか?

中村 10日で映画を撮るほうが大変ですよ(笑)。僕はもともとマンガでも、ネームにする前のプロットにあたるものを文章で書き起こしているんです。いつも長くなってしまって、小菅さんには申し訳ないんだけど。

片岡 箇条書きやセリフではなく、小説みたいな文章で書かれているということですか? それはなぜ。

中村 うーん……。自分で絵にしているうちに、もともと頭の中にあったイメージから離れていってしまう気がしているんです。だからまず頭の中にあるストーリーを、言葉を使ってシンプルに固めておこうというか……。片岡監督は脚本を書かれる上でコツみたいなものってありますか?

片岡 「1/11 じゅういちぶんのいち」で言えば、最近の高校生が使う言葉がわからなかったので喫茶店に行って、若い子の話に聞き耳を立てながら書いたりしました。あと悩んだのは、サッカーのシーンにどれくらいの分量を費やすかってことですね。原作はサッカーマンガなわけですけど、中村先生が伝えたいのはサッカーのプレイとか技術的なことではなく、サッカーを通して成長していく姿なんじゃないかなと思ったんです。

中村 それは原作者としては本当に感謝したいところです。僕が思っている作品のテーマをわかって大切にしてくださったんだな、と。やっぱりこの作品がサッカーマンガかと言われると、本当にそうなのかな、と思ってしまうところがあるので。

映画「1/11 じゅういちぶんのいち」 / 2014年4月5日(土)シネ・リーブル池袋、TOHOシネマズ川崎ほか全国公開
映画「1/11 じゅういちぶんのいち」
自分の才能に限界を感じ、中学卒業とともにサッカーを辞めることを決意した安藤ソラ(池岡亮介)。だが、若宮四季(竹富聖花)との出会いを機に、高校でも再びピッチに立つことを決意する。そんなソラの姿を暑苦しそうに眺める学校一のイケメン凛哉(工藤阿須加)。サッカー部への勧誘を受ける演劇部の瞬(阿久津愼太郎)。まっすぐな気持ちでサッカーに取り組む、ソラに惹かれる、サッカー部マネージャーの仁菜(上野優華)。それぞれが抱える過去や想いとは──。

出演:池岡亮介、竹富聖花、上野優華、工藤阿須加、阿久津愼太郎、東亜優、古畑星夏、田辺桃子、楡木直也、河井青葉、久遠さやか、鈴木一真、奥貫薫

原作:中村尚儁(集英社「ジャンプスクエア」連載)

脚本・監督:片岡翔

予告編映像
中村尚儁「1/11 じゅういちぶんのいち」8巻 / 2014年3月4日発売 / 540円 / 集英社
中村尚儁「1/11 じゅういちぶんのいち」8巻

サッカーの世界は実力勝負、それはどこでも変わらない──。たとえ弱小高校の先輩と後輩であっても、プロチームのベテランと新人であっても。だが、実力で勝る若手といえども容易に習得できないのが“経験”──。ピッチ上でそれぞれの魂がぶつかり合い、先輩から後輩へ信念が受け継がれてゆく──。中村尚儁が清新な筆致で描く、サッカーをテーマにした連作シリーズ第8巻。

中村尚儁(なかむらたかとし)

中村尚儁

10月5日福岡県生まれ。2006年に月刊少年ジャンプにて、読み切り「ストライカーは走れない」でデビュー。ジャンプSQ.19創刊号より「1/11 じゅういちぶんのいち」をスタートさせ、2012年からはジャンプスクエア(すべて集英社)へと発表の場を移し連載している。

片岡翔(かたおかしょう)

片岡翔

1982年生まれ、北海道出身。ショートショートフィルムフェスティバルにて三年連続で観客賞を受賞し、2011年には「SiRoKuMa」がSTOP!温暖化部門で3冠を獲得。また、「くらげくん」が第32回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞したほか、全国各地の映画祭で7つのグランプリを含む13冠を達成し、大きな評価を得る。佐藤佐吉監督「Miss Boys!」前編・後編、西加奈子原作による廣木隆一監督「きいろいゾウ」で脚本を担当。