「1122 いいふうふ」高畑充希&岡田将生がW主演したドラマ版の魅力をライター・ひらりさが深掘り

渡辺ペコ原作によるドラマ「1122 いいふうふ」の独占配信が、Prime Videoでスタートした。同作の主人公はセックスレスで子供がいない、結婚7年目の仲良し夫婦・相原一子いちこ二也おとや。2人は夫婦仲を円満に保つため不倫を公認する“婚外恋愛許可制”を選択するが……。一子役を高畑充希、二也役を岡田将生が演じ、監督を今泉力哉、脚本を妻の今泉かおりが手がけた。また主題歌にはスピッツの「i-O(修理のうた)」が使用されている。

ナタリーでは「1122 いいふうふ」のジャンル横断特集を実施。コミックナタリーでは少女マンガ好きのライター・ひらりさが、ドラマ「1122 いいふうふ」の魅力を掘り下げたレビューのほか、渡辺のメールインタビューをお届けする。

文 / ひらりさ

ドラマ「1122 いいふうふ」予告編公開中

ひらりさ レビュー

誠実で贅沢で、幸せな映像化

「何度故障しても直せるからと 微笑みわけてくれた」
──スピッツ「i-O(修理のうた)」より

なんて幸せな映像化なんだ。

ドラマ「1122 いいふうふ」を全話観終えて、まっさきに思い浮かんだ感想です。

「パートナー公認不倫」を切り口に、“夫婦”という関係性の不可思議さを丁寧に描き出した、渡辺ペコの人気マンガ「1122(いいふうふ)」。

そのドラマを今泉力哉監督が手がけるというニュースを見たときから、配信日をとても楽しみにしていました。しかも、高畑充希&岡田将生共同主演って。ちょっと豪華すぎませんか。

左から高畑充希扮する一子、岡田将生扮する二也。

左から高畑充希扮する一子、岡田将生扮する二也。

豪華すぎて、一抹の不安もありました。

「公認不倫」や「女性向け風俗」のセンセーショナルさが押し出されすぎていたらどうしよう、とか。あの一子と二也のまったりした生活感や掛け合いが、きちんと演出されているのかとか。

ふつうに恋をして、ふつうに結婚して、ふつうにお互いを思い合ってきた(はずの)2人。彼らが、“夫婦”という袋小路にはまり、どんどん特殊な状況を迎えていく。そのやるせなさの中で2人が試行錯誤し、悩み、会話していく過程が、「1122」の魅力です。

果たしてそれを、今泉監督はどのような形で描くのか。あと、岡田将生さんは(おとやんには)カッコよすぎないか。

ドキドキしつつ観始めたドラマ「1122 いいふうふ」は、原作を繊細にリスペクトしつつ映像ならではの部分をふんだんに盛り込んだ、誠実で贅沢な作品に仕上がっていました。

原作をリスペクト&パワーアップしたキャラクターの魅力

まず、俳優陣も脚本も、原作解釈がパーフェクト。高畑充希さん&岡田将生さん、一子&二也にしか見えない。1話冒頭、ぐちゃぐちゃのテーブルにつっぷしている姿だけで一子だし、「はい」とコーヒーを差し出し、「この辺少し片付けていい?」と問いかける声音だけで二也。

「1122 いいふうふ」第1話より。

「1122 いいふうふ」第1話より。

最初から心掴まれつつすっかり陥落したのは、一子と二也の結婚記念日。小料理屋で、最初に食べたいおつくりを宣言しあうシーンです。

「アオリイカっ」「まだいっ」

あまりにも……あまりにも「いちことおとやん」。原作ではどんな感じだったっけ?と読み返してしまったほどです(なんと、ドラマオリジナルの掛け合いだった)。ドラマを観ようかどうしようか悩み中、という人も、岡田将生さんの「アオリイカっ」だけは聞いてほしい。

結婚7年目の仲良し夫婦である2人が、無意識に行っている会話たち。それらが丹念にちりばめられた脚本と、それをすっかりものにした主演2人の演技に、安心してドラマ世界に没入することができました。

あと、映像だと破壊力強すぎる!と思わされたのが、一子の大学時代の友人・五代敦史(成田凌)。二也にセックスを拒まれた一子が自分も「婚外恋愛」に踏み出そうとして声をかける相手です。「ちょっと安全そう」「押したらいけそう」な気配を漂わせつつ、友人である一子を尊重し、きっちりラインを引いてくる男前。

「俺、今キケンなんだよ……」

成田凌扮する五代と一子のシーン。

成田凌扮する五代と一子のシーン。

セリフも振る舞いも、原作通りのはずなのですが、成田凌さんが演じると色気パンチがすごすぎる。「ちょっと安全そう」と書きましたが、この五代はキケンだ……。

苦悩を深く映し出す、光と影

ドラマならではと思った魅力もあります。
それは、光と影の使い方。

一緒に暮らしていても、言葉を重ねたつもりでも、夫/妻は見えない顔を持っている。そのおそろしさを演出するうえで、空間における人物たちの位置や、照明の明暗がとても効果的に使われているのです。同じテーブルを囲んで会話していても、相手の顔が見えないようだったり。照明が暗く、片方の顔に影が落ちていたり。

ひときわ印象的だったのは、結婚記念日の旅行で一子からのセックスの誘いを拒んだあとの二也です。セックスを拒まれて傷つき、過去の自分の言動を指摘されて気持ちの行き場がなくなった一子は、それでも二也に受け入れてほしくて、「おとやん 抱っこして」と言います。その一子の言葉に応じるまでの一瞬。二也が暗がりの中、視聴者にだけ見せた表情が、1話のハイライトでした。このおとやんは、岡田将生さんにしか演じられない……と思わされました。

同様に、光と影が丹念に使われているのが、二也の不倫相手であり、モラハラ気質の夫との関係に行き詰まっている主婦・美月(西野七瀬)に対する演出です。

公園で、息子と二也とピクニックしているとき、太陽の下にいる美月は、本当に綺麗です。一転、夜遅くに帰ってきた夫・志朗(高良健吾)と会話する美月は、青白い蛍光灯の下、5歳は歳をとったように疲れています。

西野七瀬扮する美月が、高良健吾扮する志朗と会話するシーン。

西野七瀬扮する美月が、高良健吾扮する志朗と会話するシーン。

美月と二也のデートシーン。

美月と二也のデートシーン。

綱渡りのような日々を生き抜く彼女をどん底に突き落とすのは、しかし、夫ではなく二也のほう。2人だけの秘密を守る「同志」のような気持ちを二也に抱いていた美月は、二也にとってはこの不倫が「妻の公認」であることを知らされ、怒りを覚えます。

「わたしは あなたたち夫婦のバランスをとるための緩衝材?」

若干の距離が生まれる中、志朗の海外赴任の話も出て、美月は二也に別れを告げることを決意。その最後の逢瀬で、美月は(原作ファンなら忘れようにも忘れられない)凶行に走るのですが……ホテルの間接照明に照らされた彼女の表情の、壮絶さたるや。

「いま、いい気分?さっぱりした?」

美月の感じた怒り、絶望、孤独がぎゅっと凝縮されたシーンで、何度も観返してしまいました。美月という女性の不安定さ、多面性を見事に演じ切った西野七瀬さんに心から拍手を送りたくなりました。

それでも「生活」は続く

原作を忠実に再構築しつつ、映像作品の魅力を詰め込んだドラマ版「1122 いいふうふ」。
キャストにも脚本にも大満足の本作ですが、キャストの皆さん以外にも、抜群の演技力を発揮しているものがありました。

それは、一子と二也の「家」です。

2人がともに過ごし、ごはんを食べ、言い争い、すれちがっていく年月をともに過ごしてきた場所。2人の結婚生活を支える“ハードウェア”。ドラマでは、2人の関係性を象徴する脇役として、そのディテールが丹念に写され、存在感を示していました。美月と志朗の夫婦のかすがいとなったのが子供だったのに対して、一子と二也のかすがいとなるのは、家、つまり彼らが積み重ねてきた「生活」なのです。

「1122 いいふうふ」第1話より。

「1122 いいふうふ」第1話より。

「1122」とは、不器用に傷つけあいながらも、真面目に誠実に、「生活」を重ね、メンテナスし続けている人たちへの賛歌なのです。

「何度故障しても直せるからと 微笑みわけてくれた」

話数を重ねるうちに、主題歌の「i-O(修理のうた)」の味わいも深くなっていきます。

このドラマを観ているすべての人たちに、幸せでいてほしい。
自分の幸せをあきらめないでほしい。
そんなふうに思える、幸せなドラマでした。

渡辺ペコ メールインタビュー

──「1122」の実写ドラマ化が決まった時の率直な感想を教えてください。

何度も企画のお話はいただいていましたがなかなかまとまらなかったのでやっと決まってホッとしたのと、何より佐藤順子プロデューサーからの企画書を拝読してお願いしたいと強く思っていたのでとてもうれしかったです。

──できあがったドラマを観てどう思いましたか?

まず、原作や作者の意図を尊重して作ってくださったのが本当にありがたかったです。不安や疑問を感じることなく楽しみな気持ちだけでした。
拝見して、生身の俳優さんたちが演じてくださったことで出来上がる3Dの豪華な世界に驚きました。キャストさんたちが決定したときに、こんなに麗しいキラキラした方たちが……!? と想像がつかなかったのですが、映像になると1人1人のキャラクターが出来上がっていて本当に驚きました。
また、今泉監督と脚本家のかおりさんのおかげで、原作の空気感やテンションがそのまま立ち上がっていて胸がいっぱいになりました。

──ドラマの中で特に印象に残ったシーン、セリフ、キャストさんの演技などありますか?具体的にお答えいただけるとありがたいです。また今回「1122」をドラマとして客観的にご覧なって、原作とは違ったドラマ版ならではの見どころ、良さはどんなところにあると思いましたか?

高畑さんのいちこちゃんが、ファニーな雰囲気やだらけたところ、おとやんへの甘え方がかわいすぎて悶絶しました(笑)。そのなかでふと暗さが垣間見える部分をしっかり捉えてくださって驚きました。
岡田さんのおとやんがいちこちゃんに辛辣に度詰めされて家出するところではハラハラして心配になりました。戻ってきてくれてよかったです(笑)。
主演以外にも本当に素晴らしい俳優さんたちが演じてくださっているので、細かな表情や立ち居振る舞いやオーラをぜひご覧になっていただきたいです。
俳優さんたちの動きや表情、描かれたセリフが人の口から出ることで生まれる力があるのだと感じました。

──原作の感想として、「夫に観せたい。」「妻には、観て欲しくない。」と「怖いもの見たさ」のような反響があって結果的に多数の共感を得ておりますが、渡辺ペコ先生がこの主題をお選びになった理由、そして反響を受けてのご感想を教えてください。

自分の身近なところで見聞きする「結婚」、自分の考える「結婚」、社会通念としての「結婚」、今まで自分がマンガや小説やドラマなどで見てきたフィクションとしての「結婚」、SNSや掲示板などで垣間見る「結婚」など、それぞれに乖離がある気がして、それがなんなのか考えてみたいと思い取り組みました。
自分としては「結婚」を描いているつもりでしたが「不倫」に対しての反応が大きいのは少し意外でした。

──「1122」は渡辺ペコ先生にとっても長い連載作品になったと思いますが、同作に込めた思い、描きたかったことを改めて教えてください。

それはマンガに反映されていると思うので、マンガを読んでくださった方がそれぞれに感じられることではないかと思います。

プロフィール

渡辺ペコ(ワタナベペコ)

2004年、YOUNG YOU COLORS(集英社)にて「透明少女」でデビュー。2009年「ラウンダバウト」が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。著書は「にこたま」「東京膜」「おふろどうぞ」ほか多数。2020年に完結した「1122(いいふうふ)」は現在、累計146万部を突破。現在モーニング・ツー(講談社)にて「恋じゃねえから」を連載中。

2024年6月17日更新