この日初めて明らかになった「つるばみ色のなぎ子たち」というタイトルをはじめ、作品についての話題に先がけ、まずは新スタジオを立ち上げた経緯が語られる。大塚プロデューサーが「実は片渕監督って、僕よりMAPPA歴が長いんです」と説明する通り、2011年のMAPPA設立以前から、丸山正雄前社長とともに作品を作り上げてきた片渕監督。一方でMAPPAがさまざまなアニメ作品を手がける中で、「片渕監督の作品をMAPPAの1本のラインで作っていくことに限界を感じて、片渕監督の作品を作る、そのためのスタジオを作ろう、ということで始まった」と大塚プロデューサーは明かす。片渕監督は飛行機雲を意味する「コントレール」という社名に触れ、「早いものでアニメーションを始めて40年以上経って、60歳を超えてしまったのですが、そんな50代・60代のベテランと20代の若い人たちが一緒にやっていくスタジオです。僕たちは前を飛んで後ろに飛行機雲を残すけど、それを自分の糧にして、素晴らしいアニメーション映画の作り手になってもらえるといいなと思い、若い人たちと仕事をしています」と紹介した。
「つるばみ色のなぎ子たち」の舞台は平安時代。濃いねずみ色の着物が印象的なティザービジュアルを示しながら、片渕監督は「色とりどりの十二単を来て、歌を詠んでのどかに暮らしていたと思われるかもしれませんが、人が次々と亡くなっていて、常に喪服を脱げないような時代でもありました」と紹介する。大塚プロデューサーは「詳しくは言えないですが、とっても尖った映画。現代の物語だとしてもヒリヒリするようなもの」と付け加えた。
会場では制作風景を映したメイキング映像も上映。狂言師に十二単を着て歩行してもらったり、松明がどのくらい燃えるものなのか、また松明を持って歩く時にどうやって火を揺らさないように歩くのか実践したりと、片渕監督らしい徹底したリサーチがうかがえる。さらに“虫の培養”も行ったという。片渕監督が「平安時代にマラリアが流行って、たくさんの方が亡くなっているんです。マラリアは蚊が媒介するんですが、蚊の幼虫はボウフラなので、会社の中でボウフラを養殖して、それを観察してそこから作画を起こしました」と説明すると、観客からも驚きの声が上がった。
そんなリサーチを行いながらの制作について、片渕監督は「映像では通り過ぎてしまうようなものになるかもしれないんですが、『この世界の片隅に』で戦争中のものを1つひとつ解き明かして画にしていったときに、そこに住んでいる、その中に生きていた人たちの気持ちや人間性がわかってきました。今回も調べていく中で、1000年以上昔の人たちが、我々とどこが同じでどこが違うのか、というのが見えてきて。その見えてきた人々の物語にしたいなと思っています」と手ごたえを語る。大塚プロデューサーも「アニメのスタジオって、机に向かって画を描いているイメージが多いとは思うのですが、現場の人たちは1000年以上前に生きた人たちを研究して実践して体感して、それを画にしていくという作業をしてくれている。その説得力はスクリーンでも伝えることができるんじゃないか」と自信を見せた。
「MAPPA STAGE2023」はアニメーションスタジオ・MAPPAの手がける作品が一堂に会すイベント。映画「つるばみ色のなぎ子たち」の公開時期など、詳細は続報を待とう。
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