「ポッケの旅支度」を実用書にはしないで、“一介の猫飼い”イシデ電&志村貴子がトーク

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イシデ電志村貴子のトークショー「イシデ電×志村貴子トーク~『ポッケの旅支度』刊行記念~」が、去る9月15日に大阪・梅田Lateralで開催された。本稿ではその模様をレポートする。

トークイベントの様子。壇上は左から志村貴子、イシデ電、月刊コミックビーム編集部の青木氏。

トークイベントの様子。壇上は左から志村貴子、イシデ電、月刊コミックビーム編集部の青木氏。

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「ポッケの旅支度」はイシデが、飼い猫・ポッケとの最期の日々を綴ったエッセイ作品。Twitterで発表され大きな話題を呼んだマンガが、描き下ろしも加えて単行本化の運びとなった。

「ポッケの旅支度」

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ポッケ、そして旅立ったすべての動物たちへの“献杯”と、「ポッケの旅支度」の刊行を祝した“乾杯”から幕を開けた本イベント。司会進行役の担当編集・青木氏からできあがった本の感想を尋ねられると、イシデは「いい本になった」と笑顔を見せる。イシデと20年来の親交があり、ポッケをよく知る人物の1人である志村は、改めて1冊にまとまったものを読んだらボロボロ泣いてしまったと話し、「ポッくんがもういないんだって、こみ上げてきちゃって……」と亡きポッケを偲んだ。

「共感を得ようとか理解されようとかいっさい思わずに描いていた」とイシデは反響の多さに複雑な感情も覗かせる。寄せられたリプライには目を通しているそうで、「やっぱりご自身の体験談が多くて。自分のペットが死んじゃった話って、みんなあまりおおっぴらにできなかったんだなという感じがしました。言える場所がなかったのかな」「私自身は、自分ちの猫が死んだ話をこうやって本にできたから、恵まれているほうなのかなと感じていて。みんな(リプライを)書け、どんどん書けって思いました」とトーク。猫マンガは描かないのかと話を振られた志村は、「(イシデを指しながら)猫マンガにすごく厳しい人が身近にいるんで、下手な猫マンガは出せない」といたずらっぽく述べ、「『猫マンガ描かない?』と声をかけられたこともあったんですけど、『猫マンガはちょっと鬼門なんで』って(断ってしまった)」と告白。イシデは「ファンの方に申し訳ない、志村さんの猫マンガを読む機会を奪ってしまって」と笑って応酬し、仲のよさを伺わせた。

トークイベントで披露された写真の一部。

トークイベントで披露された写真の一部。[拡大]

ここからは作品の時系列に沿って、子猫時代から思い出を振り返るパートに。イシデが撮ったポッケ、そして兄弟猫・ピップの写真も披露されたのだが、スクリーンに猫たちの写真が映し出されるたび、2人からは「かわいい!」という声が止まらない。この日イシデは、ジャージに半纏を羽織った、マンガの中そのままの姿で登壇。ジャージの下にはポッケの似顔絵と“LOVE”の文字が大きくプリントされたTシャツを着ており、途中でそのTシャツを披露して愛の大きさを見せつける。猫というとつれないイメージもあるが、志村によるとイシデ家の猫たちはそうではないそうで、「イシデさんだけの一方通行じゃなくて、ぶつかり稽古、がっぷり四つ。ここんち全員重いなって(笑)」と証言した。

「ポッケの旅支度」より、獣医からポッケとピップの検査結果が伝えられるシーン。

「ポッケの旅支度」より、獣医からポッケとピップの検査結果が伝えられるシーン。[拡大]

ポッケに病気が見つかったのは14歳を過ぎた頃。獣医に、ピップ・ポッケの2匹とも慢性腎不全だと告げられたときの気持ちを、イシデは「感情の起伏があんまりない、ボリュームをぎゅーっとしぼったような感じ」と振り返り、「他人のことを考える余裕がないし、興味もなくって。でも人に興味がなくなったら、創作のマンガなんて描けない。『私もう晩年なんだな』みたいな気持ちで日々暮らしていた」「心が死にますよね」と言葉を並べる。志村は当時のイシデを「一見冷静に受け止めている感じもあった」としつつ、「ピップとポッケがいなくなったらイシデさん死んじゃうんじゃと思うくらい心配だった」と吐露。イシデは「闘病中は志村さんと会ってお茶するのがけっこういい気晴らしになっていたので、わかりやすく落ち込んだりってことはなかった」と志村の存在に助けられたことを述べながら、「でも(自分が)使い物にならなかったです。ポッケの世話以外は何もできなくなっていた」とこぼした。

「ポッケの旅支度」の作中にも描かれているが、イシデには前の飼い猫・こぜの看取りに対する大きな後悔があった。話題がそのことにおよぶと、イシデは「ちゃんと介護できていなかった。医療費を稼ぐことが飼い主の責任で、それが介護だみたいな感じになっちゃっていた」「あんまり一緒にいられなかったんですよね」と思いを馳せる。読者の反応には、同じように飼い猫の看取りに後悔を残しているものも多かったそう。イシデは「やり直しがきかないですからね。自分のやったことが最適解だったのかっていう証明はできないわけじゃないですか。だから後悔がある人もたくさんいるとは思います」と理解を示す。こぜとは違う最期をポッケに選んだイシデだが、ポッケの看取りはこぜのときとは違ったかという問いには、年齢を重ねて猫に限らず“不幸”を経験してきたぶん、「こればっかりはしょうがないと思えるようになったんじゃないか」と述懐。「後悔しようと思えばいくらでもできると思いますけど、それで帰ってくるわけじゃないからしない」と言い切る。一方で、今回お世話になった動物病院が“深追い”をしない方針だったことが救いだったのかもしれないと振り返り、「もし違うところで、(延命のために)ああしたらこうしたらと言われていたら乗っちゃってたかも」とも話した。

「ポッケの旅支度」より、イシデと志村がポッケの亡骸の写真を撮るシーン。

「ポッケの旅支度」より、イシデと志村がポッケの亡骸の写真を撮るシーン。[拡大]

イベントではほかにも、イシデが志村のアシスタントをすることになったときの思い出話や、書籍化にまつわる裏話、猫を飼うか迷っている人に思うことなど、幅広くトークを展開。また作中で「なぜかはうまく言えない」とされていた“猫の亡骸の写真を撮っておくといい”というイシデの持論についても、志村が実際にそのアドバイスに従って「(写真を)残しておいて本当によかった」と感じた理由などが詳細に語られた。「ポッケの旅支度」に描き切れなかったエピソードはあるかと聞かれると、イシデは「(思いつくのは)描き切れなかったというよりは削除したところ」と答える。続けて「思い出し次第、描いてまたTwitterにあげます」と述べ、「本にまとめたら引き続き買ってください」と自主制作している「猫遊び」シリーズをアピールした。

イシデは最後に「この本を実用書みたいに読むのはやめてほしい」と切り出し、「私の場合はこうしました。だけど、私は獣医さんでもなければボランティアをやっているわけでもないので、話半分で受け止めてください。それぞれのペットのことは飼い主さんがよく知ってるし、ペットは飼い主さんのことを知っている。その関係に自信を持ってほしいなって思います」とメッセージ。「あとネットの情報よりも実際に診察した獣医さんの話を信じましょうね」と言葉を添え、90分にわたるトークに幕を下ろした。

なおイベントの模様は9月29日までアーカイブ配信の購入・視聴が可能となっている。

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イシデ電/でんや @IshideDen

先日の大阪ラテラルさんでのトークイベントをナタリーさんがレポートしてくださいました。ありがとうございます! https://t.co/YyPMpMnUOL

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