浦沢作品の大ファンを公言し、過去に浦沢と対談も行っているポン・ジュノ監督。「あさドラ!」の1巻を読んですぐ書いたというコメントでは「地球上でただ一人、この巨大な物語の全体像を知っている、浦沢先生の脳を今すぐにでも開けてみたいと思う衝動を抑えつつ、落ち着いて第1集を本棚にしまう」と感情の昂りをうかがわせつつ、「この時代の最強のストーリーテラー、浦沢直樹に感謝の心を贈る」と賛辞を送っている。
なお本日、浦沢のYouTubeチャンネル「浦沢チャンネル」が始動。第1回では浦沢がチャンネルのバナーを執筆する。今後はさまざまなマンガ家とトークを繰り広げたり、マンガを描く際のテクニックを披露するほか、ライブドローイングを行ったりもする予定だ。
週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載中の「あさドラ!」は、戦後から現代にかけて可憐にたくましく生きた“名もなき女性”の一代記。5巻では1964年東京オリンピック開催前夜、主人公のアサが謎の巨大生物“アレ”とついに対決をする。
ポン・ジュノコメント
私は今、「あさドラ!」第1集の最後のページを閉じながら、これを書いている。第1集のファーストシーンとラストシーン、それがくっきりと脳裏に焼き付いている。
そう。浦沢先生の7年に至る構想、ある巨大な世界の入り口に、自分はそっと片足を踏み入れてしまったのである。
地球上でただ一人、この巨大な物語の全体像を知っている、浦沢先生の脳を今すぐにでも開けてみたいと思う衝動を抑えつつ、落ち着いて第1集を本棚にしまう。そしてその隣に広くスペースを取っておく。この空間が埋まるには、数年の時間がかかるだろう。
浦沢先生の名作「20世紀少年」の第1集、そのファーストシーンを皆さんは覚えていると思う。ドーン、ドーン。轟音で目を覚ますカンナ。薄暗い夜の空気を切って近づいてくる、巨大ロボットの足音。第22集でまたそのシーンに戻るまで、8年という時間がかかった。私の人生の一端を共にした、あの巨大なストーリー。今回は「あさドラ!」と共に歩んでいくだろう数年の時間がまた目の前に広がっている。主人公であるアサの聡明な目つきと凛とした姿はすでに信頼と期待を持たせてくれる。そしてなによりも、私の脳がまだ白紙そのままであるということ。その事実に私は興奮で平静ではいられない。
「20世紀少年」連載がほぼ大団円を迎えようとしていた頃、私はよく想像していた。「ともだち」の正体をまだ知らない、あの頃の脳 brain に戻れたら。「あの夜、理科室で起ったこと」をまだ知らない、あの時の私に戻れたら。そして、この驚くべき巨大で壮麗な物語をまるで人生初の体験のように、もう一度最初から読むことができたらと。そしてなんと、あれほど願い求めていたその状況に置かれてしまった。今、第1集の最後のページを閉じたばかりの「あさドラ!」によって。
この時代の最強のストーリーテラー、浦沢直樹に感謝の心を贈る。
2021.03.25. 映画監督 ポン・ジュノ
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