第1回コミナタ漫研レポート(ゲスト:森薫)【2/5】

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少女マンガに青年誌的発想を適用すると

唐木 と、ここまでが「構成の巧みさ」でした。次に森さんが提示してくれたキーワードは「青年誌的」です。これはどういう意味ですか?

 まずコマ割りに関してですが、現代的な少女マンガって、平均するとだいたい1ページあたり4コマから5コマだと思います。一方、青年誌は6コマから7コマがアベレージなんですが、水城先生は後者なんです。少女マンガではちょっと珍しいというか。

唐木 より密度が高い、ということですね。

 ええ。少女漫画は心情描写を面で見せるためにあのコマ数になっているのだと思いますが、水城先生の場合はダイレクトにお話を見せる方なので、こういう数にしているのかもしれません。あと水城先生はよくヒキを使われますよね。

唐木 ヒキというのは少年誌や青年誌でよくある、最後のページでシルエットだけが出てきて、誰なんだこいつは! くそー早く次号読ませろ! って気持ちにさせる、あれですね(笑)。

 第1話のラストを例に挙げますが、爽太くんはパリにチョコ修行に行きますね。チョコ修行に行って、腕を上げた僕のチョコをサエコさんに食べてもらいたい、と決意を表明して1話目が終わる、というのが普通だと思うんです。とりあえず1話目でやらなければいけないことはその時点ですべて出ていますから。

唐木 ところが、水城先生の場合は60ページ中の56ページ目で決意表明をして、残り4ページ使って……。

 いきなり5年後に飛びます(笑)。もう帰国してお店を開いて。

失恋ショコラティエ

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失恋ショコラティエ

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唐木 それをサエコさんがニュースで見かけるシーンで終わります。

 割と攻めますよね。掲載誌が増刊ということでページ数が多く取れているのもあると思いますけど。

唐木 びっくりしました。完全に掴まれましたよ。というわけで、コマ割りとヒキを使うという点において、「失ショコ」は青年誌的であるということですね。

セリフで読ませるマンガ、絵で読ませるマンガ

唐木 水城先生は自身のブログで制作プロセスを紹介されてましたよね。まずパソコンで台本を作ってしまって、それをネームに起こしているんだと。

 具体的なことまでは書かれていませんでしたが、たぶんセリフとト書きと、どんな絵を入れるかとかを台本にしてるんだと思います。そこにいちばん時間を掛けてらっしゃって、そこから絵にするのは割と早いみたいですね。

唐木 制作プロセスの前半は脚本家なわけですね。森さんは「この人は脚本から描いてるな」とか、「失ショコ」を読んでいてわかったんですか?

 何となくですけど、セリフに重点を置いて作られているな、というのはわかります。展開で読ませていくマンガだな、とも思いますし。私はこういうのがなかなかできないので、読んでてすごいなと思います。

唐木 セリフで読ませるマンガ、じゃないマンガもあるんですか?

 絵、イメージで読ませていくマンガというのがあると思います。たとえば、谷口ジロー先生の山岳ものとか。あれは山が主役ですから。

唐木 ああー。森さんはセリフから作るわけでは、ない?

 私はセリフは後回しになりますね。すごく苦手で……。こういう何がしかを言葉でどう言ったらいいんだろう、とあれこれ考えて、いつも白いフキダシを一生懸命埋めたりしてます……。

セリフを読ませるために、変形ゴマは使わない

唐木 そうでしたか(笑)。セリフと展開に重きを置いてる、という水城先生の姿勢は、画面にはどう反映されているんでしょう。

 これも青年誌的ということに通じるのかもしれませんが、コマの組み方がスクエアなんです。少女マンガだと、割と変形ゴマが使われたりすることが多いですよね。斜めに切ったり、2つのコマが組み合わさった、入り組んだコマとか。でも「失ショコ」はきっちり枠線の間を空けて、四角く直線的に構成している。フキダシもコマ間をまたがずに枠内にきっちり収める。

失恋ショコラティエ

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唐木 変形ゴマを使わないというのが特徴だと。森さんは使うほうですか?

 あまり……使いませんね。うまく使えればいいんですけど、下手に使うと目も当てられなくなるので、私は大事をとって普段は使わないようにしています。ただでさえコマの中の線が多いですし。変形ゴマには変形ゴマの良さがあるので、ここぞという時に使えばとても印象的なシーンになるんですけど。

唐木 奇を衒ったコマ割りはしない、という点では水城先生と共通してますね。

 そうですね。水城先生はまたセリフの流れも直線的で、水平垂直の流れが多いんです。視線がコマを斜めに横切ったりすることが少ない。ページあたりのコマ数が多い、つまりひとつのコマが小さい利点だと思うんですけど、直線的に読ませても自然と絵が目に入ってきますし、目線にガタツキがないぶん読みやすいですね。

唐木 フキダシの配置が、コマの右上と左下とかじゃなくて、右上と左上とか、右上と右下とかに置かれていることが多いわけですね。ちょっと(スライドに)視線の流れを描き込んでもらえますか?

 あっ、人の絵には……!

唐木 人の絵の上には描けない。なるほど。いまマンガ家の仁義を見た気がしました(笑)。(つづく)

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第1回コミナタ漫研レポート(ゲスト:森薫)【2】 http://natalie.mu/comic/news/40887

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