同イベントは、「プロのマンガ家は作画ソフトをどのように使用しているのか」に焦点を当てたもの。デジタルとアナログを使い分ける日本橋と、フルデジタルで作画をしているという凸ノを講師役に、
まずは原宿がイベント開催の経緯について説明。もともとは凸ノをはじめとしたオモコロの連載作家陣から、居酒屋での雑談の中で「デジタル作画ではこういうテクニックがある」「こういうツールが便利」という話を聞いているうちに、「これはイベントとして成立するのではないのか」と思い、このイベントが立ち上がったという。またアニメ・マンガ好きで知られる岩井は作画ソフト・CLIP STUDIO PAINTを使用して自分でイラストを描くこともあるとのことで、ゲストに選ばれた。
前半は凸ノが普段から使用しているというCLIP STUDIO PAINTを使ってそのテクニックを披露するということで、まずはイラストやマンガのコマのデータをモニターに映す。そして人物がたくさん映っている絵のレイヤーを消すと、その下には3Dモデルの人形のデータが表示された。CLIP STUDIO PAINTには3Dモデルにポーズを付けて表示する機能があるため、凸ノは登場人物の身長などのデータをもとに、3Dモデルを並べて座らせ、それをなぞる形でイラストを描いたという。オープニングの挨拶時に「人間を描けるようになりたい」と言っていた岩井は「何それ! めちゃめちゃいい!」「普通なら友達に4人並んでもらわないといけない」と興奮していた。さらに凸ノが、さまざまな体型やポーズのモデルを登録していることも紹介。ただし「これは時間短縮にはなるけどあくまでアタリにするだけで、多少デッサンが狂ってでも自分のフェチを乗せるのが大事。自分だったら手足を大きく描いたりもする」とも補足していた。
凸ノがさらにブラシの使い分けなどについて解説したあと、観客からの「凸ノさんが描く目が好きなので、瞳やまつげの描き方を教えてほしい」という要望を受け、実演することに。凸ノは実際のメイクの考えを取り入れて「このキャラは何色のアイシャドウを使うんだろう」「ブラウン系が流行ってても、絵的に映えるのはオレンジ系がいいかな」と考えているという話を披露しながら、下絵を描いていく。それを聞いた岩井が「自分で(メイク道具を)買ったりするんですか?」と尋ねると、「20代の頃に女装していたので、それは役に立っている」と答え、岩井が「こんな人だったんだ」と驚く場面もあった。そして瞳まで描いて、色を塗って絵を完成させると、岩井は「完成した瞬間、ゾクッとしました」と感想を口にした。
後半は日本橋がメインに。日本橋はラフなどはアナログで作画をするが、表情の修正や、フキダシ・擬音を入れる作業にCLIP STUDIO PAINTを使用しているとのこと。「少女ファイト」完成までの過程が順番に映し出されると、普段は見ることができない貴重な原稿を見ることができた出演者からは感嘆の声が漏れる。日本橋は「アナログのほうが全体の強弱のバランスは見やすいけど、修正はデジタルのほうがいいですね」と、使い分けについて話していた。続いてはデジタルならではの技として、「グラデーションマップ」という機能を紹介。これはグレースケールで塗ったイラストに対し、さまざまな組み合わせの色で自動的に着色してくれるという機能で、色を塗る手間が省けるほか、いろんな色を手軽に試せることで「こういう色もいいな」というアイデアの補助にもなるということだ。
続いて日本橋が、画面に「少女ファイト」に登場する大石練の下絵を映し出し「じゃあ、描いていきますか」とライブドローイングを始めると、会場からは拍手が巻き起こる。線画にはGラスペンという、強弱をつけやすい筆のようなペンを使用しているということで、「使い方が難しい」と言いながらも、絵の手前は太い線で、奥は細い線でイラストを描いていく。凸ノは「人が絵を描くのを見るって気持ちいいんですね」「おっぱいのカーブに作家性が出る」など、感想を言いながら興味深くライブドローイングを見守る。また日本橋が、はみ出した線を手軽に消せる交点消去という機能を使って「これが一番便利。このためにクリスタを使ってるようなもの」と説明すると、岩井は「すげー、何それ! いままでめちゃめちゃ拡大して消しゴムで消してたよ!」と驚きを隠せなかった。
またライブドローイング中、日本橋が練の口の部分を何度か描き直していると、凸ノが「口って難しいんですよ。『ブラック・ジャック』とかの複製原画を見ても、めちゃくちゃ修正されてますよね」とコメントすると、日本橋は「口で表情が決まりますからね」と答えていた。さらに凸ノは、「日本橋先生の絵は、骨盤を意識して描いてるのがすごい。骨盤が描けていると、この絵であれば体を反らせてるのがわかりやすい。何をやるにしても骨盤って大事なんですよ。ほかの部位が描けてから到達する場所な気がします」とプロらしい目線で解説。日本橋も「慣れてからじゃないと意識できないかもしれない」と答えていた。
日本橋が絵を完成させると、凸ノからは「大丈夫ですか? これを観た編集者から、『こんな速度で描けるんじゃないですか』ってこれを基準に発注されないですか?」と心配されると、日本橋は「これはTwitterにあげてるラクガキと同じで、Gラスペンの味でごまかしてるだけ」と謙遜。またGラスペンはダウンロードサイトで配布されているものということで、「これがなくなったら困る」とコメントした。凸ノも「もうダウンロードしてるやつならいいけど、ほかの人が使ってるペンを『これ、俺も使いたい』と思ったら配布終了してることがあるんですよ」と、デジタルならではの悩みで共感していた。
ここで原宿から岩井に「続いては岩井さんがドローイング体験を……」と振ると、岩井は「できるか! この(プロの技術を見せられた)流れで(笑)」と大声でツッコミ。しかし「せっかくなんで」と、凸ノの指導を受けながら人間の体を描いてみることに。凸ノから「ふだん、ペンは何を使ってるんですか?」と聞かれても「一番上のやつと、筆のやつです」と初心者ぶりを披露。しかも凸ノが自分に合わせてソフトを設定していたため、「僕の一番上のやつと違うんですけど?」と最初からつまづくことになった。
それでも凸ノからの提案を受け、最初に紹介した3Dモデルをなぞって女性を描いてみることになった岩井。なぞるだけとはいえ、日本橋からは「線に強弱がちゃんとついている」、凸ノからは「なぞるだけでも技術が必要で、何もわからない人が描いても漫然とした線になってしまうのにすごい」とコメントされ、「(作画ソフトにこういう機能があることを)知らない人に見せます」とまんざらでもない様子だった。
人体のアウトラインが完成すると、次のステップとして服を描き足すことに。ここでも岩井は「想像しろ、俺!」と自分を鼓舞しながら、初心者には難しいというTシャツの袖部分などを立体的に描き、作家陣から称賛を受ける。続けてスカートを描くが、筆が乗ってきた岩井はなぜかウォレットチェーンを描き足した。「ちょっとしたバンギャルみたいになってきましたね」とつぶやく岩井に、凸ノが「明け方の新宿2丁目(にいる人)みたい」と同調すると、さらにごついブーツ、ニーハイ、手にはZIMAが描き足され、キャラクターの方向性がよくわからない方向に向かっていく。
ここで顔を描くことになり、日本橋が「前髪が決まると眉毛の位置が決まる」とアドバイス。これに岩井はベリーショートの髪の毛を付け加えると、壇上は「悪ガキっぽい」「バックストーリーが想像できる」「キャラクター性が出てきた」と盛り上がる。最後に岩井は顔を描いたあと、なぜか鬼のようなツノを付け加え、「なんかこいつ、育てたいわ」と、自身で生み出したギャルのような鬼を気に入った様子。さらに「デジタル作画はめっちゃ楽ですね。こんなふうに体型を描けたことないので」と満足そうな表情を浮かべていた。
イベントの最後に日本橋は「デジタルは奥が深いのでもっと勉強したい」、凸ノは「もっと機能を紹介したかった」と感想を語る。岩井も「こんなに一瞬で終わる作業を、めちゃめちゃ時間かけてやってたんだなと思うことがあった。機能をもっと知りたいですね。この回が次もあるなら、もっといいギャルの鬼を描きたい(笑)」とデジタル作画に意欲を見せた。なお有料の動画配信も行われたこのイベントは、アーカイブも7月22日23時59分まで配信中。レポートを読んで気になった人は視聴してみては。
ライブナタリー Presents STUDY! ~デジタル作画 トーク&ライブドローイング~
動画配信
アーカイブ視聴期間:生配信終了後~7月22日(水)23:59
料金:1500円
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にゃる神父 @fatherny
日本橋ヨヲコ&凸ノ高秀がデジタル作画講義、ハライチ岩井が描いたのはギャルの鬼 https://t.co/UHnQAraeu2