トークは寺田と祖父江が最初にタッグを組んだ、2002年刊行の画集「寺田克也ラクガキング」の裏話からスタート。2人は「画集の話が来たんですけど、その前に『寺田克也全部』っていうのが出たばっかりだったんですよ」「『全部』が出たのにまだ残りがあったんだね」「だから残り“カス”ですよね(笑)」と軽快に語りながら、当時を振り返る。寺田は「編集さんに『画集にする絵がない』『ラクガキしかない』という話をしたら、『じゃあラクガキを出しましょう!』と言ってくれて。でもラクガキを30ページとかで出しても全然しょうがないし、そんなものにお金を払ってもらうのも俺の中ではちょっとなし。半分冗談で『じゃあ1000ページくらいにしましょうよ』と言ったら、編集さんも『いいですね!』って」と企画の成り立ちを紹介。続けて「そんなデザインをしてくれるのは祖父江さんしかいない。俺は祖父江さんの大ファンだったので……本当ですよ? 吉田戦車とかが羨ましくてしょうがなくて。ダメ元でお願いしたら受けてくれるというから、超うれしかった」と祖父江への思いを口にする。祖父江は「いやーん、もう! 困っちゃうじゃない」と照れた様子を見せつつ、「僕だってファンですよ!」とラブコールを返した。
祖父江は寺田のイメージを「打ち合わせのときずっと絵を描いてたから、よっぽど絵を描くのが好きなんだなあって思った」と語り、「(スケッチブックなどに描かれたラクガキが)ダンボール3箱くらいあったから、どうやって入稿するかが難しかったよね。そこから1000ページ分選んで、ふせんで数字を付けて『それページ数ね』ってダンボールごと入稿したんですよ」と苦労を明かす。また隙間があるところすべてを絵で埋めたいというコンセプトから、あらゆる部分に絵があしらわれているという話題では、「値段のシールを剥がすと、実は別の絵があるんだよ。女の子のパンティがなくなるの。でもこれ、弱粘着のシールにしてほしいってお願いしたんだけど、けっこう強力なんだよね(笑)。無理して剥がすと破れちゃうかもしれないけど、気になる人は確認してみてね」とメッセージを送った。
ここで祖父江が「(寺田は)描き始めが変ですよね。どこかわからないところから描いたりしません?」「人によって目鼻口から描く派と、輪郭から描く派に分かれるかと思いますが、どちらが描きやすいですか?」と質問。寺田は「今は輪郭派ですよ。輪郭を描いた後は口派」と答え、「ちょっと描きましょうか」とペンを手に取る。画材として使用するのはゼブラの紙用マッキー。「寺田克也原寸」に収録されているイラストも、ほとんどが紙用マッキーを使用したものだという。寺田は“被り物をしている女性”を描き始め、その場合は被り物のライン(帽子と顔の境界線)から線を引くと説明。そこから輪郭を仕上げ、「そうすると見立てやすい。口を描くと鼻ができて、鼻筋を考えると目の位置が決まるんですよ。要はバランスなので……こんな感じですね」と顔を描き上げた。
その後も祖父江は「顔をうまく描けても、みんな首のラインを間違えて引いちゃうんだよねえ」「手の大きさが難しいんだよねえ」などと、わざとらしく悩みを相談し、寺田を誘導。寺田は「ここは試験に出ますよ」「デッサン教室をしにきたわけじゃないんだけどなあ」と言いながら祖父江のリクエストに応じていく。「たとえば、もし手をこのサイズで描いてしまったとしたら……」と寺田が赤ちゃんのようなサイズの手を描き始めると、会場がどよめくが、「これは難しいね。しょうがないから、ここに肩アーマーでも着けてですね、これをステッカーにしてしまいます」とリカバリー。寺田が「我々は臨機応変。間違えちゃったときは、ごまかし方を常に用意しておくということです」と考えを述べると、祖父江も「大事ですね。デザイナーにとっても」と頷く。
休憩を挟んでスタートした後編では、寺田と祖父江に加えて、祖父江とともにデザインを手がけたコズフィッシュの藤井瑶が登壇。「寺田克也原寸」についてのトークを展開していく。祖父江は「最初はね、新聞くらいでっかい本にしようと思ってたけど……」と切り出し、諸般の事情でそれは叶わなかったことを明かしながら、「小さくなるとはいえ、サイズを大事にしたい。(絵が全部収まるよう)16%に縮小したら細密画みたいになっちゃって、『やっぱり原寸だ!』と思ったわけですよ」と熱弁。造本プラン、台割り表、初稿といった資料をモニターで見せながら、来場者に構成などの変遷を解説していく。
また本書に収められているイラストのほとんどが黒のマーカーだけで描かれたものであるにもかかわらず、全ページをカラーで印刷したというこだわりも紹介。藤井はその理由を「マッキーで描いた黒の線の濃さを出すためには、黒一色より、CMYKの4色を重ねて出したほうが、よりしっとりとした濃い黒が出るんです」と説明する。祖父江はインクの濃度も通常の倍以上にしてもらったと話し、「通常、印刷所が嫌がるパーセンテージです(笑)」とコメント。カバーも実際の色校正を見せながら、「これだとリアリティがない」「これだと色気がない」と納得が行くまで明度や色味を調整したと、その変遷を披露する。祖父江が持参した初稿や色校などは、会場でサインが入れられ、来場者にプレゼントされた。
最後に寺田は「マーカーで描き始めたのは2011年が最初です。それからなんだかんだと描く機会が増えて、本に入り切らなかった絵もあるし、この本を作ったあとも描いています。自分で自分の絵を見るとダメだなと思うんですけど、本の体裁を取るだけで3割増しに見えます。すごくいいものにしていただいて、パイ インターナショナルさんとコズフィッシュさんにはお礼しかない。なんでもします! ……ウソ(笑)」と挨拶。また「俺は割と本ってデジタルでも大丈夫な人なんだけど、でも持っていたい本っていうのはあって。これは完全に愛着が持てる1冊になっていると思います。できれば大切にしてください」とメッセージを送った。
なお寺田は阿佐ヶ谷VOIDにて、5月12日まで個展「ラクガキング東京」を開催中。入場は無料となっている。
寺田克也 個展「ラクガキング東京」
会期:2019年4月25日(木)~5月12日(日)※月曜定休
時間:日~木15:00~20:00、金・土15:00~21:00
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