「詩季織々」は中国の3都市を舞台に描かれる青春アンソロジー。北京で働く青年と故郷・湖南省の祖母との思い出を描く
3月下旬、コミックス・ウェーブ・フィルム荻窪スタジオでは、「小さなファッションショー」の作画作業が行われていた。同スタジオは主に、レイアウト、原画、動画といった手描き作業と、パソコンによる色塗りの仕上げ作業を担当。「小さなファッションショー」作画監督の大橋実は、レイアウト用紙をパラパラとめくりながら、キャラクターの表情や背景の指示を迷いなく描いていく。このレイアウトをもとに原画マン、動画マンたちが1枚1枚清書し、なめらかな動きのアニメーションが作り上げられる。静けさに包まれたスタジオ内には、真剣な表情で机に向かうスタッフたちの鉛筆を走らせる音が響き、卓上には色鉛筆や消しゴム、羽ぼうきなどのほか、作画に関する注意書きや資料写真が置かれていた。
「詩季織々」のプロデューサー・稻垣康隆は「本作には、作品ごとに中国の生活の概念“衣食住行”が割り振られています。『小さなファッションショー』が“衣”、『陽だまりの朝食』が“食”、『上海恋』が“住”」と解説。また企画の成り立ちについて「昔、『秒速5センチメートル』を観て感銘を受けたリ・ハオリン監督が、2013年から制作依頼をしてくれていたんです。それで、『君の名は。』の制作終了後にやりましょうという話になり、打ち合わせを重ねるうちにだんだんとアンソロジーの形になっていきました」と説明する。「秒速5センチメートル」にも参加し、本作では「陽だまりの朝食」のキャラクターデザインと作画監督を担当した西村貴世は、「新海さんに影響を受けた監督だと聞いて、そういった方が表現したい世界になるんだなと受け止めました」と制作前を回想し、「新海さんの作品から続くスタッフ間の連携のよさが、本作にも引き継がれていると思います」とコミックス・ウェーブ・フィルムの強みを語った。
「陽だまりの朝食」の食にまつわるシーンの作画も担当した大橋は、同作で故郷の食べ物として登場する汁ビーフンついて「メインで食べ物を描くという経験はあまりなかったので、がんばって調べました。僕らの感覚だと、ビーフンといえば焼きビーフンなので、汁物のビーフンがスタッフ全員わからなくて。最初はイメージをつかむために、(汁物のビーフンをよそう)どんぶりとレンゲ持ってウロウロしてました(笑)」と述懐。印象に残ったシーンを尋ねられると「ビーフンをスローモーションで調理するシーン。あそこは一番元気なときに描きました(笑)。西村さんから『ここは飛び道具的な場面ですよ』と言われていたんで」と答えた大橋に、西村は「アクションシーンというか、一番決めのシーンなんです。できあがったものを観たら予想以上にハマっていて、大橋さんにお願いしてよかったなって思いました」とほほえんだ。
ノスタルジックな湖南省の風景について「当初はまったくピンとこなかった」と明かす西村。「想像で描いたらどうしても日本的になっちゃうので、描けるかなという不安はありました。街中や服装とかも、いざ描こうとすると大変でしたね」と苦労を語り、「イシャオシン監督が一度いらっしゃったときに、疑問に思ったことを聞いて、その後、資料をたくさん送っていただいてイメージを膨らませました。制作が進んでいくうちに、ある程度リアルな画風にしたいんだなと感じましたね」と振り返る。最後に西村は「できるだけ日本人の感覚で決めつけないよう作ったので、早く向こうの方々の反応を知りたいですね。答え合わせがしたいというか」と中国の観客への期待を寄せた。
「詩季織々」
2018年8月4日(土)公開
スタッフ・キャスト
「陽だまりの朝食」
監督:
作画監督:西村貴世
音楽:sakai asuka
キャスト:坂泰斗、伊瀬茉莉也
「小さなファッションショー」
監督:
作画監督:大橋実
音楽:yuma yamaguchi
キャスト:寿美菜子、白石晴香、安元洋貴
「上海恋」
監督:
作画監督:土屋堅一
音楽:石塚玲依
キャスト:大塚剛央、長谷川育美
主題歌:ビッケブランカ「WALK」
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リンク
- 『詩季織々』(しきおりおり)公式サイト
- 『詩季織々』公式 (@shikioriori2018) | Twitter
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