花とゆめ・別冊花とゆめ・LaLa・メロディ・ヤングアニマルの白泉社5誌による合同のイベント型マンガ賞「白泉社即日デビューまんが賞」が、去る9月17日に東京・ワテラスコモンホールにて開催された。コミックナタリーでは、イベントの一環として実施された白泉社社長・鳥嶋和彦氏の講演会の様子をレポートする。
「なにせ僕がマンガの打ち合わせの現場にいたのは30年弱前ですから。そこを勘案したうえで、僕の話を真に受けないで。僕は口が上手いんで、僕が言うとみんな本当だと思う節があるので」と来場者の笑いを取りつつ講演会はスタート。鳥嶋氏が週刊少年ジャンプ(集英社)の編集部に配属された新入社員当時、ちょうど新人マンガ賞の選考班だったときに応募してきたのが鳥山だという。毎月400~500本の投稿作があったなかで、鳥山の作品に目を留めた理由を鳥嶋氏は「原稿がきれいだった」とキッパリ。「1本の原稿をあげるのに、あれこれ時間をかけていない、迷っていないということです」と語る。また「僕は正直言うと、長いこと週刊少年マンガ誌で編集をやっていたけど、原稿を待ったことがない。それは最初から原稿がうまい・速い・きれいな作家を探しているから」と明かした。
鳥山に注目したもうひとつのポイントについて、「大事なのはマンガのフキダシの中に書いてある日本語がわかりやすくてちゃんとしているかどうか。マンガは、コマ割りの中の絵とセリフで全部構成されている。絵がある程度上手いのは投稿者なら当たり前だし、描けば上手くなっていく。でもセリフのフキダシの日本語は、ほとんど進化しないんです。国語力は、マンガ家が持っている頭の良さそのもの。それがない作家は大成できない」と持論を述べていく。
そして話題は「マンガの読みやすさ」へ。「ジャンプ編集部へ配属されるまで、マンガを全然読んだことがなかった」と話す鳥嶋氏は、「いろんなマンガを片っ端から読んでわかったことは、マンガには読みやすいものと読みにくいものがあるということ。一番読みやすかったのは、ちばてつやさんのマンガ。それを『なぜこのコマ、このアングルなのか』と問いかけながら徹底的に読んだ結果、マンガの文法の基本が僕の中で明確に形になった」と新人編集者時代の勉強法を明示。「それを担当しているマンガ家に、打ち合わせで伝えてやりとりするなかで、目の前のマンガ家のマンガがメキメキと上手くなっていった。それまでは『ここがわかりにくい』と単に感想を言うだけ。これは打ち合わせじゃない。マンガはコマ割り、という法則がわかるようになって、僕の打ち合わせのレベルは格段に進化した」と自負してみせた。
「マンガのすべての技術はわかりやすさのためにある」と明言した鳥嶋氏は、実際に「DRAGON BALL」のページを見せながら来場者にマンガ論を伝授。スクリーンには「漫画の基本はコマ割り」という言葉とともに、天下一武道会で悟空とピッコロが戦うシーンが映し出され、「必ず見開きで構成を考える。人間の目は不思議なもので、見開きを呆然と捉えているんです。そのうえで、1コマ目をきちっと認識している。読者の目を泳がせないように、意図したコマからコマへいくように、コマとコマの間の空間を空けるんです」「コマ割りにはロング、ミドル、アップの3つのアングルがある。このページだと、1コマ目はロングカットでピッコロと悟空がどの位置・空間・距離にいるか見せている。ロングは状況を表すカットなんです。2コマ目はミドルカットで悟空の立ちポーズを描き、動きを表しています。3コマ目はアップで表情。4コマ目はロングで悟空からのアオリ視点。1コマ目はピッコロからの俯瞰視点なのに対し、4コマ目は悟空の視点。この辺のカメラの切り替えはセンスですね」と具体的に説明し、「3つのアングルが見開きに過不足なく入っていないとマンガはわかりにくくなる」と結んだ。
続いてはキャラクターの重要さをトーク。「『DRAGON BALL』の連載が始まってから、どんどん人気がなくなっていって苦労しました。その原因を分析した結果、キャラクターが生きていなかった。そこで1度、悟空と亀仙人を除いてキャラクターを全部捨てた。そして鳥山さんと『主人公って何?』『テーマは何?』『主人公をひと言で言うとどんなキャラクター?』とディスカッションして、悟空のテーマは『強くなりたい』という一点じゃないかと。じゃあ強くなりたいという悟空を、テーマに沿って掘り起こすにはどうしたらいいか。悟空のライバルキャラ・クリリンを作って、天下一武道会という大会に出す前に修行させて、戦いのなかで主人公のテーマを見せていく。修行編から一気にアンケートの結果が良くなって、天下一武道会が始まって数回目で『北斗の拳』を抜いた。それからずっとトップです」「ストーリーも大事ですが、もっと大事なのはキャラクター。キャラクターは読者の分身です。読者がキャラを自分だと思えば、(ストーリーは)自分の冒険ですから、ほかのキャラクターとどう触れ合うか、どう友達になるか、何気ないエピソードでも自分のことのように響くんです。ディズニーランドに行って、ジャングルクルーズに乗りますよね。そのボートが主人公キャラなんです。ボートがなければ、どんな凝ったジャングルを作ってもその中に入ることができない」と説く。
このほか作家が描きたいものと描けるものの違いや、編集の役割などを「DRAGON BALL」「Dr.スランプ」での具体例を挙げながら説明。最後に鳥嶋氏は「作家と編集者は、読者を意識しながら、必ず相手の話に耳を傾け真摯に仕事をし続けないとダメ」と語り、講演会は幕を閉じた。
「白泉社即日デビューまんが賞」は会場に設けられた合同出張編集部により、即日審査と批評、受賞作の決定、賞金の手渡しまで行われるスピード感溢れるマンガ賞。大賞は千葉もりこの「サーチライト」が受賞し、同作は白泉社のスマホアプリ「マンガPark」に掲載されている。
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