このマンガ、もう読んだ?
「灰仭巫覡」大暮維人の頭の中を“突きつける” 作画も作劇も規格外の王道少年マンガ
2024年11月25日 17:30 PR大暮維人「灰仭巫覡」
「夜」、それはかつて天災と呼ばれていたもの──。日本の田舎町に住む少年・仭(ジン)は、「夜」により故郷を追われた英国軍人・ガオと出会う。自然に囲まれたのどかな町で、仲間たちと青春を過ごす彼らのもとに、再び「夜」が襲ってきて……。西尾維新「化物語」のコミカライズを経て、
文
「読む」というより「体験する」マンガ
「常識を覆す作品」というのは宣伝の常套句だ。読んでみれば「確かに珍しい」というくらいのことが多い。だが、「灰仭巫覡(カイジンフゲキ)」の第1話に関しては、この言葉はその通りだと思わされる。
「エア・ギア」完結以来およそ12年ぶりとなる大暮維人オリジナル連載である「灰仭巫覡」は、まず絵がとんでもない。大暮維人作品といえば絵というくらい、圧倒的な画力に定評があるが、「灰仭巫覡」はさらに磨きがかかっている。縦横無尽に駆け回るスピード感や迫力はもちろん、「夜」をはじめとした異形の造形、独特のメカニック、和洋入り乱れる風景などが、これでもかというくらい描き込まれている。特に巻頭カラー90ページに及ぶ第1話は、到底週刊誌連載の作品とは思えない。というよりもマンガの域を超えていて、1コマ1コマ細部に見入ってしまうほどの情報量になっている。
第3話の“ハサミさん”のシーンなどは、ただ見ているだけで気持ちいい。現実にもある探し物を見つけるおまじないがモチーフなのだが、本作ではハサミを持ってみんなで舞って行う。大暮維人はその様子をたっぷり5ページにわたって描いている。物語上の都合だけでいえば、別にこんなにボリュームはいらない。だが、ダンスやミュージックビデオを観るように、何度も見直したくなる力がある。とにかく気持ちいいのだ。
話を進めるためでなく、単純に絵を見ることの快楽というのが、画面の中にギュッと詰まっている。こんな突き詰め方をしている週刊連載作品はまずない。普通はこんなやり方をしていたら続かないからだ。画面だけでも、常軌を逸したリッチさと言っていい。
そして、絵と同じように内容も規格外だ。「夜」という存在に、霊磁力学といった科学体系、「祟り刀」をはじめとした兵器・武器など、SFにオカルト、伝承、妖怪が絡み合った世界観が次々と描かれる。そこにバトルや学園ものの要素が加わっているのだから、もはや情報の洪水と言っていい。
マンガの第1話というのはキャラクターや世界観を説明する役割を担うものだが、「灰仭巫覡」の第1話に関しては世界を「突きつけ」ている。大暮維人の頭の中にある世界にドブンと漬け込まれたような感覚だ。だから、「読んだ」というより「体験した」と感じてしまう。理解しきれなくても、何かすごいものをぶつけられたという力で読まされてしまう。作画も作劇もセオリー外、「常識を覆す」という言葉に偽りなしの作品なのだ。
誰もが共感する普通の少年少女の物語
だが、この作品が面白いのは、規格外でありながら、実は王道少年マンガでもあるところだ。
世界を脅かす「夜」と戦う主人公・仭(ジン)とそのバディであるガオは、指相撲や川遊びではしゃぐ普通の少年でもある。恋模様もあれば、学校の独特のノリもある。巨編ファンタジーと呼ぶべき世界観の中で描かれるのは、そういう普通の少年少女の友情や成長の物語だ。
例えば仭は、「巫覡魂(フゲキコン)」と呼ばれる特殊な素質を持つために、クラスメイトや友人と距離を置くようにしている。心の内側にある悲しみや寂しさなども見せない。「巫覡魂」という特別な設定はあるものの、誰かに心を見せるのは怖いという気持ちは誰もが持っている。仭の心に親近感を覚える人も多いはずだ。
襲い来る脅威や不思議な出来事の中で、そんな仭の心が見え、友人たちの気持ちも見えてくる。さらに物語が進むにつれ、各キャラクターのコンプレックスや悲しさなどにもフォーカスされ、それぞれに読者は共感することになる。その心の動きと深まっていく友情にこそ「灰仭巫覡」のドラマチックさがある。
見たことのない世界を見られる面白さと、誰もが共感する普通の少年少女の心と友情。そのふたつが同居するところに、この作品の独特の読み味と魅力があるのだ。
「灰仭巫覡」の第1話を試し読み!
大暮維人のほかの記事
関連商品