アニメスタジオクロニクル No.17 [バックナンバー]
TROYCA 長野敏之(代表取締役社長 / プロデューサー)
「順調過ぎた」10年間と、“TROYCAらしさ”の正体
2024年8月26日 15:00 20
TROYCAらしさを支える撮影や仕上げの重要性
作品の成り立ちやジャンルを超えて、縦横無尽に制作を続けるTROYCA。しかしそれらの作品に共通して“TROYCAらしさ”を感じるアニメファンも多いのではないだろうか。
「作品によってジャンルもキャラクターデザインも違いますが、『TROYCAっぽいフィルム』とはよく言われます。それはおそらく、撮影や仕上げの部分でそう感じていただけているんじゃないでしょうか。例えばフィルターをたくさん重ねて距離感をうまく出しているとか。ほかにもキャラクターの輪郭線を他社と比べて細くするとかもやっているんですけど、撮影や色彩における工夫を重ねることが上質なフィルムにつながっていると僕は考えています。
フィニッシュワークとしての撮影って本当に大事で、それによって大きく評価が変わるんですよ。でも、撮影部を率いる加藤も設立当初からずっと嘆いていますけど、アニメ制作において撮影という部門は長年重視されていなかった。作画が9割くらい時間を持っていって1週間……下手すれば2、3日でTVシリーズ1話分の作業をすることもある。それでは彼らがいいものを作るためのパフォーマンスを発揮するのが難しいのは当たり前です。でもうちは設立時から社内に撮影部があって、そこに篠原真理子という色彩設計も付いてくれてじっくり作業してもらえています。設立後早い段階で、あるプロデューサーに『この撮影とこの色彩のスタッフを社内に揃えているのはすごく大きい』と評価していただけましたけど、本当に彼らがTROYCAの作画や線質のよさを際立たせてくれているんです。
あと撮影部には津田涼介というスタッフもいますが、彼は新海誠さんの作品なんかに撮影監督として駆り出されちゃうんです。それは彼の技術が評価されているからですけど、外で経験を積んだ人間がTROYCAに戻って新人を教育してくれたり、周囲のスタッフに刺激を与えてくれたりするのも楽しいです」
こうしたTROYCAの撮影に関する取り組みについては、「制作に3年半くらいかかった超大作(笑)」と長野氏が語る単行本「10年分のカットから読み解くTROYCA式アニメ撮影テクニック」に詳しいのでぜひ参考にしてほしい。そして近年、TROYCAは撮影だけでなく色彩設計に関して新たな取り組みを始めた。
「『ロード・エルメロイII世の事件簿』特別編あたりからカラースクリプトという工程を取り入れています。最近導入している会社も増えているようですが、うちの場合はまず色彩設計の篠原が絵コンテからいくつかのシーンをピックアップして『こういう雰囲気にしたい』という指定をします。色合いだけでなく、光源や作画の影付けなんかも含めて。それを監督がチェックしたうえで、美術ボードを発注したり、撮影部に共有したりして最終的にどういう画面にするかという認識を共有しています。
この工程を全カットで取り入れるのは難しいですが、要所要所でうまくやれているのが放送中の『ATRI -My Dear Moments-』です。例えば普通に見たままのノーマル色では絶対に浮くはずのピンクを使うことで、すごくきれいに映っていたり。岩井俊二監督の映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』みたいな、ああいう雰囲気が出ていて個人的にはすごく褒めたいです」
アニメ「ATRI-My Dear Moments-」第3弾PV
背伸びせず、無理せずにクオリティの高いものを
「ATRI -My Dear Moments-」は原因不明の海面上昇で、地表の多くが海に沈んだ近未来を舞台に、片足が義足の少年・斑鳩夏生と感情豊かな少女型ロボット・アトリを軸にした、美少女ゲームを原作とする作品だ。この最新作への取り組み方は、カラースクリプトなどのテクニカルな面以外でもこれまでと少し変化しているという。
「うちがこれまであまりやったことないジャンルだったので、話が来たときは『よくぞ来てくれた』という思いでした。うちは原作ものを作るかどうか判断する際に、まず監督やクリエイターに読んでもらうんですよ。それで興味を持ってもらったら次にTROYCAのラインナップに載せるかを考える。会社というより、あくまでクリエイターがやりたいものを基本的には作るようにしています。『ATRI -My Dear Moments-』の場合は加藤誠さんがゲームをプレイして『これなら僕やりますよ』と快諾してくれて、彼とシリーズ構成の花田十輝さんが本当に素晴らしい原作ゲームをきちっと13本のアニメに落とし込んでくれています。
制作的には、今回は『早く作らなきゃいけない』という切迫感を改めて植え付けたいという思いを持って臨んでもらっています。オンエア時期が決まっているものなので、必然的に時間制限は生まれます。もちろん現場には『もっと時間を寄越せ』という思いもあるでしょうけど、時間が限られているなかでできるだけパフォーマンスを落とさず、どこまでがんばらなきゃいけないか探りながら作る……もともとそういう考え方ってあったはずですけど、コロナ渦もあって緩んでしまっていた。それをもとに戻そうという試験的な意味合いもありつつ、TROYCAらしいクオリティはキープしているので、それが世のお客さんに響いてくれたらうれしいです」
制限時間のなかでクオリティ高く作る。この姿勢は、11年目を迎えたTROYCAの今後の制作姿勢にもつながっている。
「2023年に設立10周年を迎えて個人的に振り返った際に、これまではAICという会社に食わせてもらったと感じました。10年以上前から一緒に仕事をしてくれた人達が助けてくれたおかげでいいクオリティの作品が作れたし、それに関しては感謝しかありません。
ただ、これからの10年を考えたときに若い子たちがもっと成長していけるスタジオになっていく必要があると思っています。そのために、例えばなろう系のラノベであったり少女マンガであったり、あまり経験がない子達でもチャレンジしやすそうな作品を会社として用意してあげたくて、まさに今仕込んでいるところです。そういった作品で、多少絵は拙くなるかもしれませんが、若い子たちが思いきり暴れられるような、勢いがあって面白そうなものを作らせてあげたいです。
それに肩の力を抜くのは若い子たちだけでなく、年齢的に上のスタッフも同様で。これまでは誰かがお金や時間の面で背伸びして無理しながらがんばっていいものを作ってきましたけど、そろそろ自分達の身の丈に合った範囲でいいものを作るという挑戦をしていくタイミングですね」
長野敏之(ナガノトシユキ)
1975年5月26日生まれ、神奈川県出身。TROYCA代表取締役社長・プロデューサー。アニメインターナショナルカンパニーでの経験を経て、2013年に5月に撮影監督の加藤友宜、演出家の
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記事内で制作に3年半くらいかかった超大作『 10年分のカットから読み解く TROYCA式アニメ撮影テクニック』に触れていただきました!
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