アニメスタジオクロニクル No.14 オレンジ 井野元英二

アニメスタジオクロニクル No.14 [バックナンバー]

オレンジ 井野元英二(代表・チーフディレクター)

「あらゆる方々にCG作品を楽しんでいただきたい」

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CGでやるからには、なんらかの提案をしなければ

こうしてオレンジの従業員数は増え続け、「宝石の国」時点では80人前後だったのが2023年度には約150人となり、2024年度はさらに20人ほど増えたという。このボリュームは2ライン体制を維持するために必要な人数だそうだが、プログラマーの存在もポイントだと語る。

「CG会社はプログラマーを雇う必要があるので、手描きのアニメスタジオと比べるとそういった別の課題があります。うちは10何年もプログラマーを雇えなかったので自分たちで工夫をしたり力技で済ませたりしていたんです。でも最近になってようやくプログラマーが在籍できるようになってきました。彼らに欲しい機能をリクエストしてツールを開発してもらい、効率的にCGを作れるようになる。ようやくそんな環境が整ってきました」

こうした制作上の進化も含め、「宝石の国」以降も変化を続けるオレンジ。冒頭で触れたようにアニメ業界におけるCGのポジションも変化しているが、同社は現在どういったCGアニメを作ろうとしているのだろうか。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」
(c)BNOI/劇場版アイナナ製作委員会

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」 (c)BNOI/劇場版アイナナ製作委員会

「『宝石の国』のときは『作画のようにもCGのようにも見える』というラインを狙っていました。先日たまたま私も見直して、『当時はこれをベストだと思っていたんだな』と再確認できたんですけど、今『宝石の国』を作るとしたらああいう作り方はしないでしょう。あれから7年経って、視聴者のCGに対する許容範囲も、私自身の感覚も変化し、どのあたりのCGを気持ちよく感じるのか変わってきていますから。

2023年公開の『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』も、ライブシーンなんかはこれまで作ってきたうちのキャラクターの動かし方とはまったく違っていて、リアル感を出しました。それは『作画ではない動きも受け入れられるよう作ってみよう』という思いからのチャレンジでしたが、そんなふうにCGでやるからにはなんらかの提案をし、受け入れられる努力をしなければいけない。作画のように動かすのが大変なのはわかっているんですけど、それをゴールにすることにどんな意味があるのか私にはわかりません」

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」Blu-ray BOX / DVD BOX ライブダイジェストPV

そんな作画ではできない、CGならではの表現を追求するオレンジが生み出した直近のTVシリーズが2023年放送の「TRIGUN STAMPEDE」だ。同作の出来栄えについて、井野元氏は海外の動画配信サービスが主催するアワードの話題を交えて強い自信を見せた。

「表現として今できるMAXを目指し、視聴者に『こういうのはどうですか?』と一歩踏み込んで問うたのが『TRIGUN STAMPEDE』です。『動き過ぎ』とかネガティブな反応があるだろうとは見越しつつ作って、実際に放送初期はそういう声もありましたけど、思いのほかいい感触で放送を終えられたので、うち的にはすごくうまくいったと感じていました。

「TRIGUN STAMPEDE」キービジュアル (c) 2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会

「TRIGUN STAMPEDE」キービジュアル (c) 2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会

そんな『TRIGUN STAMPEDE』がクランチロール・アニメアワード2024で、フルCG作品としては数少ないノミネート作品となったのはとてもうれしかったです。もともとあの作品は海外のほうが受け入れられるかなと思っていたところもありましたが、その通りだったなと。オレンジの次の目標として『フルCGで大ヒットを飛ばす』というのがあるので、それを実現してさらに多くの人にCG作品を受け入れていただきたいです」

重要なのはオリジナルか原作ものかではなく…

インタビューの終盤、オレンジとしてオリジナル作品を作る気はないのか聞いてみた。同社が手がけるのはマンガやゲームなどを原作とするものばかり。当連載では多くの社長がオリジナル作品で多くの人に愛される自社IPを確立することの重要性を語ってきたが、井野元氏の答えは意外にも……。

「オリジナルだと、過去にはマルイさんとやった『そばへ』という短編ならあるんですけど、オレンジは特に原作ものかオリジナルかにこだわりがありません。そうではないスタッフも大勢いるとは思うんですけど。私自身は会社を多くの人に認めてほしいとか承認欲求的なものがなく、うちが作ったものを楽しんでもらえるかが重要なので。だから、それが決してオリジナルである必要はないです。

「そばへ」Full Ver.

……もしかしたら、私が学生時代からCGの仕事をするまで、マンガを描いていたことも影響しているかもしれません。当時はどうやったら編集者や読者に『面白い』と思ってもらえるかばかり考えていましたが、その延長で今も視聴者を引き付けるテクニックのことばかりになっている可能性があります。

あとマンガ家さんのすごさを身をもって知っているので、彼らに追いつくのは並大抵のことではないと思っている自分もいて。私はマンガを描いていましたけど『もう無理』と感じて辞めた人間なので、とてもじゃないけど同じようにイチから面白い作品を作るなんてできるはずがないと思ってしまうんです。大体、アニメ屋はオリジナルを簡単に考え過ぎなんですよ(笑)。もちろん作れるなら挑む体制と覚悟を持ってやるべきとは思うんですけど、そんな簡単なものではないでしょう」

井野元英二氏

井野元英二氏

井野元氏のそんな職人肌な気質は、名刺にも表れている。彼の名前の上には「代表/Chief Director」と記されている。

「私的には肩書は何でもいいんですけど。何か付けないといけないということで誰かが考えてくれた肩書です。私もいち現場人であり、全体を見ているのでChief Directorと入っています。

アニメスタジオって『社長兼プロデューサー』という方が多いんです。それは大体制作からスタートしている人で、彼らは監督や脚本を連れてくるノウハウを持っている。私の場合は逆で、現場からスタートして今もそれが続いているのでそういった方々と歩んできた道は全然違うんでしょうね。アニメーター出身で、今も描いているような社長さんがいらっしゃれば近いんでしょうけど」

現在も最前線を支えるディレクターとして、オレンジを名実ともに率いている井野元氏は今後どんな作品を世に送ろうと考えているか。その問いに返ってきたのは、やはりテクニック面の話だった。

「BEASTARS」キービジュアル (c)板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会

「BEASTARS」キービジュアル (c)板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会

「すでに発表されている『BEASTARS』はついにFINAL SEASONを迎えるので、引き続き期待してほしいです。もう1本は未発表なので具体的なことは言えないのですが……オレンジの作品は毎回テイストが変わっていますよね。『宝石の国』も『BEASTARS』も『TRIGUN STAMPEDE』もそれぞれの色がある。でもそれらはいずれもファンタジー要素が強かった。『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』こそ少し現代の日本風でしたけど。未発表の新作は史実にもとづいたところもある少し現実寄りの作品で、見せ方もこれまで以上にリアルな表現を追求しています。オレンジとしては新しいチャレンジをしている作品なので、こちらもぜひ期待してください」

井野元英二氏

井野元英二氏

井野元英二(イノモトエイジ)

1970年12月12日生まれ、大分県出身。有限会社オレンジ代表。フリーランスのイラストレーター、マンガ家のアシスタントなどを経て、ゲームや特撮などのCG映像を手がけたのち、TVアニメ「ゾイド -ZOIDS-」シリーズのCG制作にたずさわる。以降「ジーンシャフト」「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」などでCG制作を務め、2004年に有限会社オレンジを設立。「創聖のアクエリオン」「マクロスF」「コードギアス 亡国のアキト」「宝石の国」「BEASTARS」「TRIGUN STAMPEDE」「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」などを手がける。

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