野田サトルは「ゴールデンカムイ」アベンジャーズ、担当・大熊八甲氏が執筆の舞台裏語る
「この15年に完結したマンガ総選挙」授賞イベントで、ファンの質問にたっぷり回答
2024年2月15日 13:00 74
ニュースサイト・コミックナタリーの15周年記念企画「この15年に完結したマンガ総選挙」の授賞イベントが、去る1月20日に東京都内で開催。大賞作品となった「
イベント前日に実写映画が公開されたばかりの「ゴールデンカムイ」。イベントでは作者・
取材・
ファンの支えに感謝「この賞には特別な重みを感じています」
「この15年に完結したマンガ総選挙」は、ニュースサイト・コミックナタリーの15周年を記念した企画。2008年7月1日から2023年6月30日までに連載が完結したマンガ作品を対象にしたユーザー参加型のマンガ賞で、ユーザーの投票数が多かった15作品をノミネート作品として選定し、その後、本投票により「ゴールデンカムイ」が大賞作品として選ばれた。
イベント当日は小雨がちらつき、一時は東京都内も雪予報となる冷え込みの中、抽選で選ばれたファンが参加。会場には野田が受賞記念に主人公・杉元佐一を描き下ろした色紙も展示され、撮影を希望するファンが列を作るなどして会場内の熱量を上げていく。イベント進行は「ゴールデンカムイ」ファンでもあるフリーアナウンサー・森遥香が担当。森の呼び込みにより登場した大熊氏は、ステージ上で「GOLDEN KAMUY」とロゴがプリントされたTシャツをアピールしていた。
トロフィーを受け取った大熊氏は、野田から預かった受賞コメントを読み上げる。
野田サトルの受賞コメント
ご来場の皆様、ご投票いただきました皆様、この度はとても素敵な賞をいただきまして感謝しております。
2014年に連載が始まった本作ですが、2015年にコミックス第1巻、2016年にマンガ大賞、2018年にTVアニメが放送、同年手塚治虫文化省マンガ大賞、2019年には大英博物館のキービジュアルを飾らせていただくなどたくさんの頂に登ることができました。これはひとえに支えていただいた皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
まだ連載前、作画資料用にとても長い銃の模型を担当氏とえっちらおっちらかついで徒歩で運んだ日が、昨日のような遠い昔のような気がします。どの道のりも大変でしたが、とても楽しいものでした。命を削って狂った犬のように描いてまいりましたので、せっかくの景色をあまり覚えていませんが、楽しかったという気持ちは覚えています。
おかげさまで先日19日には実写映画が公開されました。良い出来ですので、ぜひご覧ください。
そして本日、多くの読者の皆様からいただいたこの賞は、本作の集大成だと思います。本当にありがとうございました。
ずいぶん走ってまいりましたので、ひと休みしたいところですが、もうすでに新たに狂った犬のように走り初めています。「ドッグスレッド」、こちらも僕の脳内にはすでに最高の景色が見えていますので、もしよろしければまだ伴走いただければ幸いです。
野田のコメントを大熊氏が読み終わると会場から盛大な拍手が。「せっかくの景色をあまり覚えていませんが」という野田のコメントに、“伴走者”であった大熊氏も「僕もほぼ覚えていないんです。よそ見もしたし無駄なこともしましたが、必死だったので。情報量とイベントの数が本当に多くて、刺激のインフレで脳がバカになっちゃったんだと思います」と苦笑するが、「ただ確かに面白かったのは覚えています」と補足した。
改めて今回の受賞についての感想を求められると、大熊氏は「うれしいなという気持ちがあります。この賞のとてもうれしかったことは、完結した作品に贈られるという点。さまざまな賞をいただいてきましたが、読者の皆さんの参加型ということで、この賞には特別な重みを感じています」とファンの支えに感謝する。「野田さんもインタビューでおっしゃっていたんですが、きちんと終えることができたんだという、1つの証左としていただいた評価だと思っています。きちんと完結したことでよい作品と認められたということを実感できてうれしかったです。勝ち負けではありませんが、投票してくださった皆さんの勝利です」と述べた。
“ゴールデンカムイアベンジャーズ”みたいなものが野田さん
先日コミックナタリーで公開された受賞記念インタビューにおいて、「僕が思っている以上に『ゴールデンカムイ』が愛されていたことがわかって、改めて幸せです」と述べていた野田。森から「多くの読者に愛された理由は?」と問われた大熊氏は「さまざまな要素があると思いますが、あえて重要な点を挙げるとするのであれば、野田さんの人間としての魅力かなと。マンガって作家さん自身が出るんです。どんなに丁寧に隠しても、やはり魂のかけらみたいなものが現れて、この人はこういう側面があるんだなとわかるんです。対峙している僕自身、野田さんが人間として魅力的だと思うので。そこが愛された理由なのではないかと。嘘をつけないからにじみ出た、あの方の魅力だと思います」と長い付き合いを経て感じる野田の人柄について語る。
森が「イベント前の楽屋で(『ゴールデンカムイ』は)野田先生が魂をちぎってみんなに分け与えるかのようだとおっしゃっていましたね」と明かすと、大熊氏は「アンパンマンの顔のようですね。焼いて補充して……、今ボロボロですけど」と返す。続けて森が「『ゴールデンカムイ』のキャラクターで、野田先生に近いかも?と思うキャラクターは?」と質問すると、大熊氏は頭を悩ませつつ「本当にオールスター。“ゴールデンカムイアベンジャーズ”みたいなものが野田さんなんです。知恵、狡猾、寡黙……ちょっとふざけるところもあるし、少年のような部分もある。どのキャラクターがっていうより、野田サトルは唯一って感じですね」と説明した。
受賞記念インタビューの中で、野田は自身と大熊氏の関係を「僕がめちゃくちゃ早い暴れ馬で、大熊さんは武豊」と表現している。この例えについて大熊氏は「これはかなりのリップサービスですね、武豊さんに申し訳ないです」と笑う。「確かに野田さんは名馬ですが、僕は乗せていただいて振り落とされないように必死なんです。たまに落馬しそうになるんですけど、『今、落馬しそうです』って言うとちゃんと立て直してくれますから。だから僕は、物語から脱線しないようにする、読者さんのリトマス試験紙のような存在だったと思います。読者の皆さんはそれぞれの感性があると思うんですが、(作品の感想として)僕は実に平均的な反応を返していました」と振り返る。
野田の過去作「スピナマラダ!」から「ゴールデンカムイ」を経て、最新作「ドッグスレッド」でもタッグを組み、10年を超える付き合いとなる大熊氏。森から「野田先生と対立したことはあるんでしょうか」と聞かれると、大熊氏は「ないと思います。そこは野田さんの人柄が大きいですね。こちらの意見を真摯に聞いたうえでリアクションをしてくれる方なので、衝突する理由がないんです」とコメント。先ほどの競走馬とジョッキーの例えになぞらえて、大熊氏は野田について「走り方は暴れてるんですけど、乗り心地がすごくいい。ただ、血だらけで誰も通ったことがない道を走るので、ジョッキーとしては不安ではあります。でもいい景色を見せていただきましたね」と微笑んだ。
「いいネタがあるんですよ」あの迷キャラクターの誕生秘話が明らかに
「ゴールデンカムイ」連載期間で一番印象に残っていることについて、大熊氏はある年のクリスマスイブのエピソードを挙げる。「野田さんと2人で代官山のおしゃれなレストランでご飯食べていて。雑誌の年末進行だと、その年の最終原稿が終わるのがだいたいクリスマス近くなんですよ。だから(イブとはいえ)特別な意味はないんですけど。そこで野田さんが『大熊さん、ちょっといいネタがあるんですよ。……クマを掘るんです』って言い出して、『なんですか……?』って。そうやって姉畑が生まれました」と作中屈指の迷キャラクター・姉畑支遁の誕生秘話を紹介。会場が沸く中、大熊氏は「野田さんの頭の中にはずっと構想があったと思うんですけど、外にその考えを出したのはあのときが初めてだと思います。ちょっと自分の戸惑いが出てしまいました……。『何言ってんのかな、どうかしてる』と思いましたけど、最高に面白かった。忘れがたい思い出ですね」と感慨をにじませた。
その後話題は「ゴールデンカムイ」執筆にあたって行われた数々の取材秘話へと移る。大熊氏は「取材は野田さんだけ行くこともありましたし、僕やカメラマンさんだけで行くこともありました。でもできれば一緒に行きたいですし、野田さんはとにかく現場主義なので見て描くということを徹底されていました。流氷の取材は、『ワンパンマン』作者のONEさんと行きましたね。これ落ちたら死ぬな……と思ったんですが、おふたりが落ちたらマンガ界の損失になってしまいます」とジョークを飛ばしつつ振り返る。
数ある取材経験の中でも、イギリス・ロンドンでの取材が一番過酷だったという。大英博物館で開催された展覧会「The Citi exhibition Manga」のキービジュアルを野田が担当した縁で、野田とともにロンドンに招待されたという大熊氏。現地では「野田さんって本当に真面目なので朝から晩まで無駄なく取材のスケジュールを組むんです。とにかく何かすくい取ろうという姿勢だったので、それについていくのが一番過酷でした。ヤングジャンプ編集長や一緒に行った先輩たちは『パブに行ってギネス飲もうぜ』とか言ってましたけど、僕は翌日のスケジュールがあるので一滴も飲まず。帰りの飛行機で胃が痙攣していて、リアルで『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか』と言いたくなりました」とハードな日々を語る。森が「本当に野田先生ってタフですね……」と唖然としていると、大熊氏は「タフで真摯なのでそこには絶対ついて行かないといけないですし、野田さんは1人にさせられないと強く思わせてくれます」と述べた。
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