吉田尚記が「この15年に完結したマンガ総選挙」“上位15作品以外”を徹底分析

吉田尚記が「この15年に完結したマンガ総選挙」“上位15作品以外”を徹底分析

“選ぶ”という行為は自分のマンガへの思いを掘り下げる作業

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マンガアワードをめぐる15年

──吉田さんはマンガ大賞の発起人でもありますが、この15年でアワードをめぐる環境の変化を感じることはありますか?

そうですね。マンガ大賞自体はずっと変わらないんですが、役割は変化したと思います。マンガ大賞が生まれたときは、まだネット上でのマンガに関する情報流通が少なかった。それこそコミックナタリーさんもまだ生まれていなかったですし、今のようなSNSもなかった。さらに、当時書店員さんと話していると「以前は立ち読みで面白いマンガが読者に見つけられていたけど、単行本がシュリンクされるようになってそれがなくなった」なんて話を聞くこともありました。だから、面白いマンガを見つけてもらうための情報流通網を作らないといけないというのを、無意識に考えていたんだと思います。

吉田尚記

吉田尚記

──2008年頃はいわゆるマンガアワードも「このマンガがすごい!」と雑誌・フリースタイルの「このマンガを読め!」くらいでしたしね。

今はアワードも増えたし、ネットやアプリでマンガの試し読みができるようになり、SNSも浸透して、マンガの情報はありすぎるくらい増えました。電子書籍も浸透しましたしね。でも、そうなっても単行本というパッケージは変わっていないのが面白いところで。

──単話販売や超合本みたいな形式も生まれたとは言え、中心はいまだいわゆる単行本ですよね。

アプリで読めても、ファンは単行本というものを買う。そういうサイクルがある限り、マンガ大賞で1年ごとに単行本8巻までという区切りでまとめるということには意義は残っていると思っています。

絶対に損しない、マンガのマスターピース

──「この15年に完結したマンガ総選挙」は文字通り完結作品にスポットを当てる企画です。映画やドラマは完結したところで評価されるのに対して、マンガはなかなか完結したところで評価されることがないですよね。

そこはやっぱり商業作品だからでしょうね。ある意味ではとても潔いことだと思います。

──特に昔は人気があるうちは連載が終わらないという側面もありました。

でも、それも変わってきたと思います。「進撃の巨人」の担当編集者・川窪慎太郎さんにお話を伺ったとき、「諫山創というすごい作家をこれ1作で終わらせてはいけない。だから、ちゃんと完結させてあげなきゃいけない」というようなことを話していたのが印象的でした。商売だけ考えれば連載を続けられるだけ続けたほうがいい。だけど、作家さんは終わらせないと次にいけない。そういう意味で、変わってもきたし、終わり方というのはもっと考えなきゃいけないことだと思います。だから、今回の企画もなるほどと思います。例えば、海外の人とかがこの結果を見たらものすごく面白いでしょうし。

「進撃の巨人」34巻

「進撃の巨人」34巻

──ああ、確かに。

私自身は放っておいてもたくさん読むし、「これ面白いよ」って言われたらすぐに読むタイプだから、今回のノミネート作品も知っているものばかりですけど、多くの人は忙しくてそんなに読めないじゃないですか。マンガ大賞ももう少しマンガ好き、比較的たくさん読む人に向けて提示しているイメージですが、今回の企画はごく一般的な読者の「何を読んだらいい?」に対するもっと純然たる回答という感じがします。

──僕らは「面白いマンガない?」って聞かれると、つい直近3カ月とか半年くらいで始まった、単行本が出た作品を考えがちですけど、そう聞く人が求めているのって必ずしも最新の作品ではないですもんね。

そうなんです。それこそ、スマホ世代だとマンガ自体読んだこともないって人もいるくらいですから。そういう意味で言うと、今回ノミネートに上がったような作品って、読んで絶対損しない、すごく精度の高いマスターピースだと思います。もちろんたくさん読んでる人からすると「なんであの作品が入ってないんだ!」と気持ちも出てくると思いますけど、今回はたぶんあなたたち向けに提示しているわけじゃないんですよ、と(笑)。

吉田尚記

吉田尚記

なぜ面白いか考えるのが楽しい

──それで言うと、今回の事前エントリーはユーザーの自由投票でした。僕はアワードって結果だけでなく、選ぶという行為そのものも面白いと思っていますが、そのへんはどうでしょう?

僕はコメントを書くのが面白いなと思っています。コメントを書こうと思ったら、なぜこのマンガが好きなんだろうって考えるじゃないですか。

──それって作品というより自分の中を掘っていく作業ですもんね。

そうですね。僕も自分のラジオで小学館さんがスポンサーのコーナーがあって、普段は小学館さんのマンガを紹介しているんですけど、月イチくらいで「吉田さんが好きなマンガを出版社問わず紹介していいですよ」って回があるんです。そうするとわざわざスポンサーの作品を外してまで選んだ理由が、きちんとできていないと話せない。そこを考えるのが面白いんですよね。

──面白いと思うこと、理由もタイミングで変わりますよね。そのときどきの体調みたいなもので読みたいもの、面白いものも変わる。

そうですね。興味の対象やメンタルの体調みたいなものがわかる。僕だと今、柴門ふみさんの作品がすごく面白くて。「なぜ今、柴門ふみなんだろう?」って考えてます(笑)。

吉田尚記が選ぶ「この15年に完結したマンガ」は?

──さて、最後に吉田さんが「この15年に完結したマンガ」を選ぶとしたら何を選びますか?

うわー、難しいなぁ。……今パッと思いついたのだと「人間仮免中」ですね。もう強烈。

「人間仮免中」

「人間仮免中」

──卯月妙子さんの壮絶な日常を描いた実録コミックエッセイですね。

あと、やっぱりマンガ大賞を受賞した作品は思い入れがありますね。「響~小説家になる方法~」の終わり方もよかったし、「彼方のアストラ」もギュッと美しく完結している。あと、終わり方でいえば西餅さんの「僕はまだ野球を知らない」。めちゃくちゃ好きなんですよ。そして、連載が終わってしまったんですが、西餅さんが個人的にnoteで続編を書いて、「終わったけど終わらせない」という形になっている。

──「僕はまだ野球を知らない・Second」として電子コミックの配信もしていますね。

なかなか名前が挙がらなそうなところで言うと、山本おさむさんの「赤狩り」が面白かったですね。アメリカの映画業界に吹き荒れた共産主義者狩り、レッドパージの物語です。オヤジたちの濃いやりとりが続く作品なんですが、たとえば、「ローマの休日」はアメリカ映画なのになぜローマでロケをしているのかみたいな話を描いているんです。アメリカにいると共産主義者狩りで捕まってしまうかもしれないからなんですよね。そういうことをすごくよく調べて描いている、重厚な作品です。

──リストを探したら、「赤狩り」にも1票入っていました。

おお。私なんじゃない、入れた人?(笑) あとはそうですねえ、ノミネート15作品の中だと「大奥」はすごかったですね。「最後、こうやって回収するんだ!」って驚きました。圧巻でしたね。ほかにも、「昭和元禄落語心中」もよかったし、「辺獄のシュヴェスタ」も大好きだし……思い出していったらキリがないですね。

──まだまだ聞きたいですが、このへんにしておきましょうか(笑)。ありがとうございました!

吉田尚記

1975年12月12日生まれ、東京都出身。ニッポン放送のアナウンサー。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど多彩なジャンルに精通し、アニメイベントの司会を数多く担当している。2008年にマンガ大賞を発足。発起人として実行委員に名を連ね、運営に携わる。愛称はよっぴー。

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読者の反応

よっぴー/吉田尚記 @yoshidahisanori

かなーり、好きにマンガについて喋らせていただきました!

ただ、私の寝癖ガチ勢っぷりが気になる…!!

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