アニメスタジオクロニクル No.9 [バックナンバー]
STUDIO4℃ 田中栄子(代表取締役社長 / プロデューサー)
STUDIO4℃はクリエイターが作りたいものを作るための会社
2023年11月9日 15:00 23
「MEMORIES」から続く系譜の最新作「火の鳥」
設立から35年ほどが経ったSTUDIO4℃。そんなアニメスタジオの最新作が劇場公開される。手塚治虫の「火の鳥 望郷編」を原作とするアニメで、すでにディズニープラスでは「火の鳥 エデンの宙」が独占配信済み。それとはエンディングが異なる「
「STUDIO4℃には、うちが作ったオリジナル企画と、外部から制作の依頼を受けて共同で作るという大きく分けて2種類の作品があります。『火の鳥』は前者で、『
今回は私が作りたくてスタートさせた企画です。あるときにふと『手塚治虫という日本が世界に誇る巨匠の作品のアニメを、なぜうちが作ったことがないんだろう』と思い、手塚プロダクションに作らせてほしいとお願いをしに行きました。そして子供の頃から読んでいた『火の鳥』の、これまでアニメ化されていない『望郷編』をアニメ化させていただくことになったんです。
その後の具体的な企画を作る段階で、エンディングが異なる2バージョンを制作するという構想になりました。『望郷編』って朝日ソノラマ版や少女クラブ版、COM版、角川書店版、講談社版のようにかなりたくさんあって、それぞれ登場人物や結末が違うんです。だからアニメでも同じようなことをすると面白いんじゃないかなと思ったんです」
田中氏にとって待望の作品となる「火の鳥 エデンの宙」「火の鳥 エデンの花」だが、その制作はいつも以上に大変だったようだ。
「火の鳥 エデンの花」予告映像
「今回の『望郷編』のアニメ化は、実は7年前から始まっています。シナリオ段階で難航しました。原作の『火の鳥』は全12巻あって、そのうちの未来を描いた『宇宙編』や『未来編』『復活編』などからもエピソードを引っ張ってきています。壮大なSF大冒険譚です。そもそも今『火の鳥』をアニメ化するなら人間の深い欲望が地球の崩壊につながるといった手塚治虫氏の強いメッセージは外せないけど、それを全面に出す「だけ」では面白くならないし……。作品中に難しい表現、近親相姦やカニバリズムもあるし……。
本当に紆余曲折あり、西見祥示郎監督は大変だったと思います。エデン17という移民星はなぜ滅びたんだとか、空気は薄いのかとか、SFの設定にも苦労してます。絵コンテでも映像にこだわりの強い監督が『こうしたら面白いんじゃないか』などといろいろと工夫してまして、あちこちに監督のこだわりが見えます。宮沢りえさんや豪華声優もこの作品の力になってくれました。特に音響、SEと音楽もとてもいいと思うので映画館でじっくり浸りながら観てほしいです。Dolby Atmosにも対応しているので、ぜひ映画館の真っ暗闇の中で、目でも、耳でも、皮膚でも楽しんでください。自分の知らなかった感性みたいなものが刺激されるというか……。映画館特有の、ああいう体験をしてほしいんですよ」
STUDIO4℃がなかった30年を想像したら……
2016年に公開された「君の名は。」以降、毎年のように興行収入が100億円を超えるメガヒット作が生まれる劇場アニメ業界。このバブルのような現状を、田中氏は大きく歓迎する。
「昔から宮崎駿さんとか押井守さんがメガヒットを飛ばす横で、私たちは規模こそ大きくないけど好きなものを作るというスタンスだったので、基本的にはあまり変わっていないというか(笑)。業界が盛り上がってくれるほど、うちへの注目も増えるからありがたいです。世間から『アニメが儲かる』というふうに捉えられたおかげで、私たちも作りやすくなったところもありますし。
ただ、そういう『儲かる』というか、売れると太鼓判を押された作品ばかりになる可能性もありますよね。ビジネスなのでそれは仕方ないことですけど。そういうメジャー化やエンタテインメント化、世界的にポピュラリティを持って広まることを志向した作品では、個人のクリエイティビティはどうしても薄まってしまいます。だからうちとしては、今後もクリエイター自身の命の輝きのようなものを感じられる丁寧な作品作りを、これまでと同じくやっていくだけです。そういう作品があるほうが面白いし、業界全体の可能性も広がるじゃないですか」
何気ない話題をきっかけに、業界内の自社のポジションに対する自負や誇りをにじませる。それはこれまでに作ってきたアニメへの自信の表れだ。
「だって自分たちが好きな作品ばかり30年以上作ってきたけど、STUDIO4℃は生き長らえてきたんですよ。やっぱり、クリエイターの『これを作りたい』という思いの発露から生まれてくるものを感じられる作品作りをする会社は、業界にとってなくてはならないんです。そういう会社が1つくらいないと偏った世界になってしまう。そこに私たちがいる価値があるというか。だって、STUDIO4℃がなかった30年を想像してみてください。うちの作品は『STUDIO4℃があってよかった』と思えるような価値のあるものばかりでしょう?」
田中栄子(タナカエイコ)
群馬県出身。青山学院大学卒業後、広告代理店勤務。日本アニメーションで制作を務めたのち、スタジオジブリで「となりのトトロ」「魔女の宅急便」のラインプロデューサーを担当。1993年にSTUDIO4℃を設立。「MEMORIES」「アリーテ姫」「マインド・ゲーム」「鉄コン筋クリート」「ベルセルク黄金時代篇」「海獣の子供」など、さまざまな作品の企画・プロデュースを手がける。
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Catsuka @catsuka
Following the re-release of Mind Game on Youtube (in 191 countries & with 18 subs/languages), here's an interesting piece : a recent japanese interview of Eiko Tanaka, Studio 4°C co-founder and producer for over 30 years.
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