100%出資も製作委員会もあくまでビジネスの形の1つ
「チェンソーマン」への100%出資という大きなチャレンジの手応えを聞いてみると、いろいろな苦労があったようで……。
「まずは100%出資とか関係なく、『チェンソーマン』ほど評判がいい原作のアニメ化は難しかったです。もちろんうまくいったこともあるし、ファンの期待に応えられなかった部分もある。それは素直に受け止めています。
そして100%出資……そもそも僕は製作委員会方式が悪いとは思っていないし、いろんな会社が協力することでアニメの制作は成り立っているという感覚もずっと持っていました。でも『チェンソーマン』を自社だけでやったことにより、いろんな作業や責任を1社で担うのは大変なことなんだとしっかりと体感できた。それを学べたことが大きかったです。
僕らには経験値がないんですよね。アニプレックスさんや東宝さんだと毎クール多くの作品をやっていて、いろんなデータを持っているし、経験値のあるプロデューサーが担当する安心感もすごくあります。でも僕らはそのスタート地点に立ったばかり。アニメのクオリティと同じで、そういったライツ事業部が担う部分でもトップ企業との差をどうやって最短で埋められるか挑戦中です」
初の100%出資によるアニメ化は決して楽なものではなかった。しかし「とんでもスキルで異世界放浪メシ」も100%出資で製作されたように、MAPPAはその経験を大きな糧としており、今後も選択肢の1つとして考えている。
「『チェンソーマン』で100%出資という言葉が先行してしまったんですけど、僕らにとってはあくまでビジネスの1つの形であって。100%出資が正しいとか間違いとかではなく、作品や状況、ビジネス展開などを考えたうえで、今後もいろんな座組で作品作りをしていくと思います。
先ほども言ったように、製作委員会方式が悪いわけではありません。リスクが軽減するし、参加する会社がそれぞれに役割を受け持って得意分野を活かせます。僕らは製作委員会に参加するときも主張するべきことは主張して、それを割と尊重してもらってるので、何かに縛り付けられているような感覚はありません」
現状維持で見える天井を突破するために
さまざまなチャレンジを続けながら、MAPPAは着実に実績を積み上げていった。2010年代後半以降、国内のアニメスタジオでもっとも知名度を上げたのはMAPPAだという意見を否定する人は少ないだろう。
「確かにそうかもしれません。でも、そのしわ寄せもやっぱりあるんです。ちゃんと時間をかけて強固な骨格を作ることができたわけではないので、骨格も作りつつだけど生き残るためにガンガン筋トレもする、みたいな(笑)。その負荷は間違いなくあって、どこかで満足してしまったら骨折するんです。だからこれまでと同じようなスピード感で成長し続けるためにどうするか、というのは常に考えています」
そうした成長のための試みか、近年のMAPPAはブランディングにさらに力を入れている様子が伺える。10周年記念の展覧会「MAPPA SHOWCASE」、キャストやスタッフが出演するリアルイベント「MAPPA STAGE」などの開催、そして2023年2月に放送されたドキュメンタリー番組「100カメ」への協力などなど……。しかしそれぞれにブランディングとは別の意図があったようだ。
「『100カメ』にブランディングという意図はなかったです。そもそも、あの話が来たときは受けるかどうか迷ったんですよ。ああいうふうに内部を見せるのはリスクもありますし、どこまで作品のためになるのか考えました。でも『進撃の巨人 The Final Season』ですごくお世話になっているNHKさんからのお願いだったので『100カメ』は受けました。結果的には、とても優秀なディレクションで、社員が作品に向き合う姿勢をドキュメンタリーとして表現いただき、好評でよかったです。
一方、リアルイベントはブランディングという側面もありますけど、僕らは単にアニメを作っているのではなく、お客さんに向けて作品を作っているんですよね。イベントに来てくれる人と接すると僕らは誰のために作品を作っているか改めて実感しますし、そうした当たり前の意識が高まるので積極的にやっているところもあります」
今や国内有数のアニメスタジオとなったMAPPA。しかしそれを率いる大塚氏の視座はあくまで高い。ブランディングの成功を実感することなどはないのだろうか。
「もちろんMAPPAが知名度を得たと実感することはあります。ただブランディングって際限がないんですよ。例えばアフリカでアニメを観ている人に対してMAPPAはどういうブランディングをできているかというとゼロでしょうし。もしかしたら好きでいてくれる人もいるかもしれませんけど、僕らからアプローチはできていない。人口が増えている東南アジアでも若い人たちがアニメを観ているけど、どういった層がMAPPAのどの作品を楽しんでいるかまではわからない。そういったことをリアリティを持って把握し、会社としてアプローチできて初めて『ブランディングに成功している』と言えるんじゃないでしょうか」
最高品質のアニメクオリティと、ブランディングによってMAPPAはアニメスタジオとして万全な状態に見える。しかし2020年代の展望を聞くと、社長就任時に「生き残る。そして、創り続ける。」と志した大塚氏らしい目標を語ってくれた。
「深夜アニメと映画から始まった会社なので、これからもそういった作品のファンは引き続き大切にしつつ、より一般的でグローバルな作品を生みだせるかという勝負が始まっていると思っています。そういったレベルのオリジナル作品がうちにはないですが、『そこに参入するのはなかなか難しいよね』なんて悠長なことは言ってられません。モノ作りをする会社ならそこに向き合って、しっかり目指していかないといけない状況です。
これまでMAPPAは、丸山や僕の趣味だったり、大人が観て“カッコいい”とか魅力を感じるような作品を突き詰めてきました。ただ『このまま10年やっても、MAPPAの最大値はこの辺だろうな』という天井が見えるときがあって、僕の性分としてそういうものは突破したくなるんです。これからはその突破のために必要な、作品を生み出す力を伸ばすこと、その環境づくりに挑戦していきます」
大塚学(オオツカマナブ)
STUDIO4℃を経て、2011年にMAPPAに入社。2016年に代表取締役に就任。「呪術廻戦」「ゾンビランドサガ」「BANANA FISH」「ユーリ!!! on ICE」「残響のテロル」などのプロデュースを手がける。
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